143 女子校育ちの恋愛偏差値
「まあそういうマジメな話は置いといて、お姉様ってまだバージンなんですかぁ?」
「んっ!」
グラスに残ったレモンチューハイを飲み干そうとした瞬間、恵理は真琴からのクリティカルな質問でむせかけた。
「なっ、真琴、あんたいきなり何聞くの!?」
「あーあーやっぱり、まだ未経験なんですね。大学で初恋の男子に再会したっていうからそろそろかなって思ってたんですけど」
「それ私も気になる~。ねえ恵理ちゃん、白神君って子とはどうなったの?」
松山市立第一中学校の同級生にして初恋の相手であった白神塔也と大学で奇跡的な再会を果たしたということは今年になってからこの3人には話していて、銀河もこくこくと頷いて興味のある旨を示していた。
「彼にはちゃんと好きだって伝えて、よく2人きりでデートしてる。向こうも私みたいな女の子が大好きなんだって」
先ほどのバージンがどうこうの件をごまかすため、恵理はあえて胸を張ってそう言った。
塔也は以前思わぬきっかけで「恵理のような美人で巨乳の女の子が大好きだ」と口にしていたので、3人には無難な部分だけを切り取って伝えた。
「私みたいな? へー、白神さんってお姉様『みたいな』女の子が大好きなんですねー。お姉様本人じゃなくて」
「ちょっと真琴、それどういう意味?」
含みのある発言をした真琴にカチンと来た恵理に秀子が仲裁に入った。
「まあまあ喧嘩はよしなさいよ。それより恵理ちゃん、私たち白神君の顔は見たことないんだけど付き合ってるなら写真ぐらい持ってるでしょ? 見せてくれない?」
「えっ……」
「それは私も見てみたいな。スマホに入ってるんじゃないか?」
秀子と銀河から塔也の写真を見せるようせがまれているが、よく考えると恵理は塔也の写真を1枚も持っていない。
普通のカップルならスマホでツーショットを撮ったりお互いの写真を撮ったりするのだろうが、恵理は塔也と何回もカラオケに行っているがお互いに写真を撮るという発想がなかった。
というより恵理は塔也と男女としてそこまでの関係性に至れていなかった。
「そ、それは、その……」
「まさかお姉様、付き合ってるとかラブラブとか言って相手の写真すら持ってないんですか? ひっどーい、その胸は飾りですかぁ?」
冷やかしがエスカレートして嘲笑するような態度になった真琴に対し、恵理は掘りごたつの中で立ち上がると、
「……そういう生意気を言うのはこの口か! この口かーっ!!」
両手で真琴の両頬を引っ張り、制裁を加えにかかった。
「ひーっ! おひぇえひゃま、ひゃめてくらひゃい」
「あんたね、いくら私をおちょくって面白いか知らないけど、私だって好きで写真持ってない訳じゃないわよ! このこの!」
「ちょっと恵理、ここは人前で」
隣に座る銀河が慌てて制止に入ろうとした瞬間、
「お客様」
先ほどの女性店員が現れ、低い声で呟いた。
「ご、ごめんなさい……」
有無を言わせぬその迫力に恵理は我に返って真琴を解放すると、即座に席に戻った。
すぐに各種の料理が届き、それからは4人で平和に話しつつ女子会の時は楽しく過ぎていった。
宴もたけなわというタイミングで恵理はある話題について触れていなかったことを思い出し、銀河に向けて話を投げた。
「ところで銀ちゃん、アカウント名が下の名前だけになってたけど何かあったの?」
「あ、確かに『Ginga Kurono』から『銀河』に変わってたわね」
恵理の話したことは秀子も思い当たる内容だった。
立志社女子高校囲碁部のOG会にはメッセージアプリのグループチャットがあり、それ以外にこの4人だけのグループチャットもある。
ちょっとした相談などはグループチャットで行われることも多く、4人はお互いのアカウント名を把握している。
「そういえば話してなかったな。大したことじゃないんだけど、彼氏とついに婚約が決まってお互い卒業したら籍を入れることになった。あと半年ぐらいの話だから、旧姓から切り替える準備をしようと思って変えたんだ」
「えっ……」
銀河は2回生の頃から浪速大学の理学部生と交際し始めたとは聞いていたが、この4人で真っ先に結婚が決まったというのは意外すぎる事実だった。
「私は早いうちに伴侶に巡り合えたけど、あまり恋に恋するという
「いやー、銀河先輩のお言葉はいつもありがたいですねえ。私は相手と子供作る訳でもないんで、アドバイスの通り今は恋愛をエンジョイしますっ!」
何杯目かのウーロン茶を飲みつつ静かに話した銀河に、アルコールが回ってきた真琴はハイテンションで敬礼した。
「いきなり聞いたからびっくりしたけど、本当におめでとう。結婚式は挙げるの?」
「私もケン君も大きなイベントはあまり好きじゃないから、籍を入れるだけにするつもり。でも秀子が結婚式やる時はぜひ呼んでくれよ?」
「もちろんよ。私も早く相手見つけるから……」
世間的にはあまり男性受けのよくなさそうな銀河がさっさと結婚を決めた一方で自分自身は未だに異性との交際経験がゼロだという事実を認識してか、秀子の表情は凍り付いていた。
その反応は恵理も同様で、恵理は話を聞きながら銀河のように恋愛に対してガツガツしていない人の方がかえって理想のパートナーを見つけられるのかも知れないと思った。
そうこうするうちに座席の時間が終了し、真琴以外の3人が割り勘で料金を払って店を出た。
近場のカラオケ店で二次会が始まり、銀河と秀子と酔いつぶれて寝ている真琴の前で熱唱しながら恵理は塔也との関係を一歩先に進めることを決意した。
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