第4話 妖と言い張る少女
しかし「少女」とはいっても、人間ではなさそうだった。
彼女の腰まである長い髪は真っ白で、威嚇する黒い瞳はぎらぎらとしている。眉間と鼻の上には深い皺が現れ、鼻息は荒く、喉の奥からは唸り声を発していた。
「痛いなぁ。お前のために薬屋を連れて来たっていうのに、この乱暴はないだろう」
外に吹っ飛ばされたはずの茜は、地面の上で
くらった蹴りは相当強かったように見えたが、上手く力を相殺したのか、それとも彼女にとって大した痛みではなかったのか平気なようだ。
しかし、右腕の傷は大きかったはずである。屈強な男なら分からないが、妙齢の女性が平気で笑っていられるような傷ではないはずだが、やはり彼女は見た目通り人間ではないのだろう。でなければ、大したことのないように振舞えるはずがない。
「
白髪の少女は、充を指して怒鳴る。彼はギクリとして身構えたが、茜はやれやれといった様子で肩を
「さっき薬屋だと言っただろう。医者じゃない」
「馬鹿、そういうことを言っているんじゃない! 医者も薬屋も要らないと言っているんだ!」
少女は拳を握り、負けじと言い返す。
「半妖の血を飲んで暴れているくせによく言う。もう少ししたら酷い痛みで苦しむことになるぞ」
「そんなことにはならない!」
「薬屋だが治療の知識も心得ている。安心していい」
茜は少女の言い分を無視して、薬屋の話をする。充はハラハラしながら二人の会話を聞いていた。
「そもそもこいつは人間じゃないか。私は人間と慣れ合う気はない!」
少女の返事に、茜は呆れたようにため息をつく。
「
「何を言う! 私は
「その言葉、沙羅にそっくりそのまま返すよ」
そう言うと茜はゆっくりと立ち上がって、着物に付いた砂埃を払い、充の方を見てにこりと笑う。
「こんな調子なんだけど、診てもらえるだろうか?」
ということは、この少女が患者ということだろう。どこが悪いのかは分からないが、充は反射的に断っていた。
「……ば、馬鹿!……無茶言うな! 無理に決まっているだろう! それに、とっても元気みたいだし!」
充が返事をすると白髪の少女が、「茜、こっちを無視をするな!」と言う。しかし茜は少女の言葉に耳を貸さず充に話し続け、歩いてこちらとの距離を縮めていた。
「今は元気だけどね、この後全身が酷く痛み出すはずなんだ」
充は、隣にある危険にちらちらと視線を向けながら反論した。
「痛みって言ったって……。鎮痛薬はあるけど妖怪に効くか分からないし……」
「だから違うって。この子は人間。妖怪じゃないの。それと葵堂の薬はちゃんと効くから大丈夫」
呆れながら答える茜に対し、答えたのは少女だった。
「私は
「って、本人は言っているし……。見た目だって人じゃないだろう。歯が鋭利だし――」
すると充から見て右隣に立っていた少女は、ぐるりと首を回し彼を見てにたりと笑うと、ぐわっと口を開けて噛みつこうとした。
「う、うわっ!」
咄嗟に右腕を引っ込めてよける。その様子が
「私はどこからどう見ても妖だろう?」
少女の問いに、充は
「正直、人間には見えないよ……」
「どうだ茜。こいつもそう言っているぞ!」
少女は喜々として言う。嬉しいようだ。だが、茜は充たちの会話を無視し、先程の話を続けた。
「まぁ、色々あって半分化けてはいるけど、沙羅の体はちゃんと人間なんだよ」
「ちゃんと人間って何だよ……」
「だから人間なんだって。もう一度よく見てみな」
「って言われても……」
充は恐る恐る、再び少女をちらりと見やる。何度見たところで、妖怪だろうに――。
「え?」
だが少女の体を見ていると、どうも様子おかしい。先ほどの笑みは消え、顔色は青ざめている。さらに何かに耐えるような苦しい表情を浮かべていた。
「お、おい。今度はどうした?」
すると少女の色白の肌から大量の汗が噴き出す。
(何が起こっているんだ?)
「派手に暴れるからだ」
茜が淡々と言い、少女の真ん前に立ちはだかる。少女の身長は、彼女の胸のあたりくらいしかないので、彼女は茜を恨めしそうに見上げた。
どれくらいそうしていただろうか。
少女は苦しそうにしながらも、暫く茜を睨みつけていた。息は荒くなり、腹が痛むのかその辺りの着物をぎゅっと握りしめている。
だが、その体で耐えられる時間というものがある。次の瞬間、唐突に少女は膝から崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます