掌編小説・『人間椅子2023』

夢美瑠瑠

掌編小説・『人間椅子2023』 第一話 下書き

 わたしは所謂LGBTQの人で、強いてカテゴライズするなら「Q」に当たると思う。

 生まれつきは♂だが、外見は女性ぽくて、が、好きになるのは状況次第で「両刀使い」と言われるタイプかと思う。

 トランスジェンダーではなくて、女性愛の嗜好は強い。が、美青年も捨てがたい…


 性生活は奔放で、売春もするし、複数のプレイも厭わない。本名は「ユキオ」だが「ユキ」と名乗っていて、名前の通り?ユキずりの情事を重ねていて、ユキ見大福のようなおっぱいとお尻で誰でも誘惑して、カラユキさんのごとくに誰とでも寝るので、貯金はユキ達磨式に増えて、億単位に膨らんでいる。

 

 わたしは大卒で、心理学の修士号を持っている。男性でも女性でもない自分の複雑な「こころ」への興味からいろんな本を読み漁って、するうちに成り行きで心理学を勉強することになり、結果エキスパートと言いうる知識を蓄えた。そういう方面の資格もいろいろ取得している。将来的には医学博士になって、未来志向で意識高い系の、心と体を総合的に癒すホリスティック?なメディカルクリニックを開設するのが夢である。修士論文のタイトルは「ジェンダーの発生学的な起源と生後の性同一性形成プロセスへの心理学的阻害要因の関連」で、これの英語バージョンはアメリカの一流の論文雑誌に転載された。つまり新進気鋭の研究者の一人でもある、と見なされているということになるらしい。


 性、sex とは?…人間の肉体と精神における性差や性行動の役割や意味、それを記述する文脈や術語を過去の多くの文学や映画等から截り取って蒐集し、体系づけて位置付ける、そういう作業は意識的無意識的に、人格的な完成への一環として持続している…私にとって「性」は唯一無二のテーマで、「生殖」とか「秘め事」とか簡単に等閑視なおざりにできない何者かなのだ。


 古今東西に様々な変質性欲を描いた文学作品には事欠かないが、わたしがユニークだと思うのは江戸川乱歩である。「人間椅子」、「鏡地獄」、「屋根裏の散歩者」、「陰獣」などの変態性の本質を典型的に図式化して描写した作品、その発想も類例を見ない。大正という妖美でロマネスクな、畸形児みた不可思議な時代空間が生んだ仇花、乱歩文学はその稀代の象徴である…

   

 マゾヒズムを描いた「人間椅子」はその嚆矢の傑作だ。 

 

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