(ボツ)キャラクターの動きに「時間」はあるか?

 アニメーション的には非常に重要な「時間」の話です。

 これを小説技法とするには無理があると考え、ボツとしました。

 しかし、例によって何らかの知見が得られるかもしれないので、公開します。



 キャラクターの動きで意外と厄介なのが、それが「どれくらいかかる?」ということだ。


 手を振るという動作自体の時間ではない。

 伝えるのにどれくらいの時間がかかるのかという意味だ。


 絵コンテに書いてある、恩人を見送るために手を振るという動作がある。

 脚本にあるキャラクターの感情を表現する事に、その動作にどれだけの時間をかければだろう? ということだ。


 童話の「ウサギとカメ」をアニメーション化した時を想像して欲しい。

 さて、ウサギとカメが同じくらいの速さで日常動作をしているのに、いざレースとなったときに、急にカメの動作が遅くなったとしたら、観客はどう感じる?


 きっと見ている人は違和感を感じてしまうだろう。


 キャラクターのすばやさ、動作の「時間」がそのままキャラクターになっている「ウサギとカメ」なら、これは顕著にでてくる。


 しかし一般のアニメーションでも、この「時間」を考える必要がある。

 動作にどれだけの時間がかかるのか?

 これを考えるのは、意外と重要な点なのだ。


 演技のシルエット、ポージングだけではなく、それにかける「時間」にも伝達可能な情報はある。性格はその外見よりも動作の素早さに現れる。


 キャラクターの意志力というのはその速度で示せるのだ。


 小説で使う場合は、以下のようになるだろう。


 無気力なキャラクターを背を曲げさせ、トボトボ歩かせ、声をかけられたときに、はぁと溜め息をつかせてゆっくりと振り向かせる。

 何故彼がゆっくり振り向いたのか? 声の先に上司がいるからだ。


 しかし次のシーン、彼は声をかけられて急に背筋を伸ばし、キビキビと動き出す。ヒロインの声、あるいはドーナツの屋台の音楽が聞こえたからだ。


 その動きの速さで演技、態度、それらを描写することができる。

 無気力か? やる気に満ち溢れているのか?

 興奮しているのか? 消沈しているのか?

 落ち着かないのか? くつろいでいるのか?


 それらの動作を想像してみて欲しい。

 動作の「時間」が欠けた状態で、感情を情緒豊かに描写するというのは、すこし骨が折れる。難易度が上がるのだ。


 たかが「時間」と思う人は想像して欲しい。


 何かを持ち上げる動作だ。


 同じ大きさの、抱えるくらいの箱を男が持ち上げる時、時間をかけてゆっくり持ち上げるのと、ヒョイッと持ち上げるのでは、どちらが重さを表現できると思う?


 ゲーム「エルデンリング」の巨人の動きと、墓場のガーゴイルの動きはどうだ?

 ゆっくり動けば重量感を表現できるのはもちろん、素早く動けば身軽という印象がつき、ガーゴイルが天井に張り付いていても違和感がない。


 キャラクターの動きに「時間」はあるか?

 以上はそういった意図で書いている。


 何も考えないで動きを作って、キャラクターが急に早く動いたり、遅くなると、見る人にはそれが意味不明な動作になってしまう。


 何で早く動いたのか?

 ここで何故ゆっくり動いたのか? きっと意味を見出そうとする。

 それが見当たらなければ、きっと混乱するだろう。


 その人が動作にかける時間によって、印象は変わる。


 ナンシーにコーヒーを淹れるのに、トムが時間をかけている。

 読み手は、トムがきっと、ナンシーのことが好きなんだと思う。

 何故か?以前、彼のことを尋ねたジムには、さっと淹れたからだ。


 とくに明言していない、さりげない動作でも意味が出せる。

 こういった動作にかける時間からも、キャラクターの感情を表現できるだろう。


 ブラッシュアップの際、キャラクターの動作、その「時間」について、気にしてみるのも一興だろう。


 キャラクターの動きに「時間」はあるか? については以上だ。

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