死にたくない転生者

天星 水星

第1章

第1話

 ある日、唐突に前世の記憶と言えるものを思い出した。なんてことない普通の人生だと思う。普通に学校を卒業して、普通に就職して、普通に結婚する。そんなありふれた人生だった。


 だがそんな人生を歩んでいたらいきなり男にナイフを刺されて死んだ。会社から帰っていく途中でだ。理由なんて心当たりがない。誰かの恨みをかった覚えはないし、男の顔に見覚えはなかった。通り魔殺人だと思う。


 これで死ぬのか、残されていく家族は大丈夫かなどが脳裏によぎった。しかしどうしようもなく、徐々に意識が暗転し体からも熱を感じることができなくなっていった。


 そして完全に感覚がなくなったが、むしろ意識がはっきりしていた。


 ―――これで終わるのか。


 これからどうなるのか、死後の世界とやらに行くのか。はたまた何もないのか興味が湧くがどうしようもないと思いつつ、死後の世界があればあいつを待つかと思った。


 ―――あれ、アイツって誰だ?


 その瞬間ゾッとした。何か大事なことを忘れている気がする。それがたまらなく気持ち悪かった。自分がぼろぼろと崩れている姿を想像した。少し前まで意識がはっきりしていたと思ったが、お酒を飲んだかのように酔っぱらっている状態だ。


 ―――やばいやばいやばい! 自分をしっかり持たないとこのままだと何もかも無くしてしまう! どうにかしないと! でもどうすればいい!?


 もうその時点で正気ではなかったのかもしれない。それでも何とかしないといけないとあがき続けた。それが功を奏したのか前世の記憶を思い出すことができたのだと思う。


 思い出すことができたのはここまでだった。それでもこのことを思い出すことができたのはよかったんだと思う。これのおかげで一つの願いができた。


 ―――もう死にたくない。こんな思いはしたくない。


 そう決意を固めたところで意識が浮上した。


 レイフォン・ツリー、3歳になった年のことである。

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