生産チートは馬鹿に出来ない①

――秀人は小学三年生の頃を思い出す。


 秀人は学校に行くことがとても苦痛だった。祖父の部屋でオタクのような趣味を楽しんでいたが、学校に行くといじめっ子達が秀人を馬鹿にしていた。


 ある日、秀人は学校で特にひどいいじめを受けた。自分を責め、傷つけられた心を抱えて帰路につくと、道端で泣き崩れてしまった。


 通りかかった人たちは秀人を無視し、見て見ぬふりをして過ぎていった。秀人は完全に孤独になったように感じた。


 家に帰ると、祖父が秀人の様子を見て心配そうに話しかけてきた。


 「学校に行くの。もう嫌だよ。」と秀人は嘆いていた。


 祖父は秀人に「人生にはいいこともあるし、悪いこともある。それを受け入れて前に進まないといけない。秀人は誰に何を言われても決して屈しない強さがあるだろ。大丈夫。きっと素晴らしい未来が待っているんだからな。明日からも頑張って学校に行こう。」と言った。


 しかし、秀人はその後も学校でのいじめが続き、ますます心を閉ざしていった。家では異世界転生のラノベやアニメの趣味に没頭することができたが、それによってますます孤立していくような気がしていた。


「【ファイアーボルト】……ぐっ。」


 学校の帰り道、思わず魔法の呪文を唱えるがそんなものが使えるはずがない。人生が苦しくて、他の人たちが自分を理解してくれないのは当たり前だった。だが、魔法が使えれば何かが変わりそうな気がしたのだ。声に出した後で、虚しくなって道端で俯く。この広い世界を、自分一人で進むしかいないのだと実感した。


「何を落ち込んでいるのよ。あなたらしくないじゃない。」


 だがそれは杞憂だった。秀人には、たった一人だけ友達がいたのだ。その存在にどれだけ救われたのか自分でも分からない。


 そして、これは秀人にとって、祖父という心強い味方のいる間の幸せな期間だった。

 


 

 

 

 ――幼い頃の魔法を使おうとした記憶を思い出した後で、秀人はスキル『究極鑑定』で自分の持つ能力やアイテムを一通り確認した。

 

「やっぱりここでも魔法は使えないのか。俺の能力は生産職特化って事だよな。」

 

 秀人は宿屋を出て宿屋前の商店街、土色の硬いブロックが敷き詰められた大通りにいた。


「すごい。これが本物の異世界かよ。」


 部屋と同じように文化レベルは中世のヨーロッパといった所で、遠くの方には馬車なども見える。秀人は心からその光景に感動していた。はじめて見る異世界の街を堪能しながら、街をぶらついていた。


 街を歩いていた秀人がふと横を見ると、年が近そうな女の子が、壮年の男性の前でひざをついて泣いている所に遭遇する。


 大きな鍛冶店。剣と盾の木製の看板があり、鍛冶屋サンシータと書いてある。秀人は異世界の文字が読める事に驚いたが、それよりも店頭でのやり取りの方が気になった。耳をすましながら会話が聞こえるくらいにまで近づく。


「クソガキが。店先で泣いてんじゃねーよ。この国に幻銀ミスリルなんて扱える職人がいる訳ないだろ。」


「それでは困るんです。ゲロマムシさん。どうかお願いします。この国の鍛冶屋はもうここが最後で……ぅうっ……私には、どうしても……ミスリルの剣が必要で……」


 女の子は絶望した様子で泣きながら、店の主人に必死になって頼み込んでいた。店の主人であるゲロマムシは迷惑そうに少女を足蹴にした。


 ここは異世界。だが秀人はその姿を見て、どうしても素通りする事が出来なかった。虐められているような姿が、現実世界の自分とリンクしていた。


 そして、秀人にはそれが解決出来る可能性がある。


「すいません。俺がその剣を作りましょうか?」


「あっ!?」


 ゲロマムシは、苛立ちながら疑惑の視線を秀人に向ける。


 女の子が立ち上がると泣きながら秀人の方に駆け出してきた。


「作れるんですか?」


「たぶんですけどね。良かったら俺がやってみますよ。困ってるんでしょう? すいません。ご主人。ここの作業場を使わせて貰えませんか?」


ゲロマムシは、秀人を睨み声を荒げた。


「なんだごらっ。うちがお前の作る武器の為に店を貸すわけねーだろ。それにやるまでもねえ。お前何歳だ? 無理に決まってんだろうが。」


「十五歳です。ですが出来ます。」


「お前、舐めてんのか?」


 ゲロマムシは秀人の胸ぐらを掴むと顔面を殴りつける。秀人はそれが、おかしくてたまらない。


「ふふっ。ふははは。こっちでもやられる事は一緒か。」


 だが、現実世界とは少し違う。少女が目に涙を溜めながらゲロマムシの腕を掴んでいるのだ。

 

「店主。その人を殴らないで下さい。私の唯一の希望なんです。」


「だったら、お前が代わりに殴られるか? この生意気なクソガキは、鍛冶師の俺を侮辱したのと一緒だぞ。」

 

 ゲロマムシは、少女を殴ろうと拳を振り下ろすが、そこには秀人の顔があった。秀人が少女を庇い飛び出してきたのだ。


「ゲロマムシ。やめろっ。そこまでだ。」

 

 となりの小さな店から、一部始終を見ていた店主が顔を出した。


「リンドブルクッ。ふん。やってられるか。」

 

「でかい店なのに相変わらず狭量な奴だな。」


 ゲロマムシが店に戻っていくと、小さな店から出て来た店主が二人に声を掛ける。店の看板には小さく鍛冶屋バロンと書いてある。


「……坊主、本当に出来るってぇならうちでやってみやがれ。」


「ありがとうございます。お嬢さん。」

 

「はい。これが素材です。よろしくお願いします。」

 

 リンドブルクは、一見して不愛想だが鍛冶屋サンシータのゲロマムシとは違って、秀人の言葉を疑わなかった。無言で作業部屋まで案内する。


 秀人は作業部屋でアイテムボックスから生産職用の装備一式を取り出し、それに着替える。アイテムボックス持ちは最低限必要な生産職を持っている必要がある。店主は生唾なまつばを飲み込んで真剣な表情になった。


 秀人は深呼吸をすると作業台で幻銀ミスリルを持ちアルティメットハンマーを構える。


 まるで熟練の鍛冶師のように、秀人には鍛冶スキルの使い方が手に取るように理解出来る。そして一心不乱にミスリルの剣を打っていた。


 ――作業終了


「信じられん。幻銀ミスリルを打った事もそうだが、その過程のスキル回しがまさに神の技巧ぎこうだった。俺の作業工程にも応用できる。」


「それ程ではありませんよ。」


「何を言うか。素晴らしいにも程があるよ。」

 

 鍛冶師のリンドブルクは興奮している。大満足の店主とは対称的に落ち込んでいる様子の秀人。なぜなら、実際にはミスリルの剣が打てなかったのだ。


「すみません。お嬢さん。出来たのは出来たんですが、実は大事なお話があります。」


 店頭に座っていた少女は、秀人に近づき虫眼鏡の様な使い捨てのアイテムで手渡された剣を見つめていた。そして、プルプルと体を震わせている。


 秀人は、それを見て頭を抱えていた。とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「本当にすみません。」

 

「……こんな事が現実に起きるなんて。はっ。まさか!!」


秀人は少女に頭を下げる。

 

「ミスリルの剣が打てると言ったのに、本当にすみません。」







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   


※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。



素材による製作した武器、攻撃力と該当ランク(一部防具適正素材有、未記入の素材多数有)


布3 革4 木5 (最低ランク素材。布革木は複数有)

銅15

青銅20 鉄25

鋼30 悪魔の木ザックーム35 ダマスカス鋼38

ミスリル50  世界樹ユグドラシル50 

生命の樹100  オリハルコン100 ヒヒイロカネ110 アダマンタイト120 

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