第6話急転直下
腐食の死鳥が初めて人類の視野に入り、正式に記録されたのは、百年以上前の第四回の血の災禍が現れる過程の中だ。
それ以前は伝説の魔物として存在していた。
北方の諸国で、人類と血族の戦場の中心で、全ての戦士に平等に死をもたらした。
記載によると、当時の現象は、腐食の死鳥が活動している場所では、植生が広い範囲に枯れ、人間の死体は急速に腐り土に沈むものだった。
「どうした?一人で窓辺に座ってぼーっとしているなんて、君らしくないぞ。さっきの話題が君を不愉快にさせたか?」
「僕は腐食の死鳥のことを考えている。」
「君は自分が倒したのは、何者かに飼いならされ、わざと待ち伏せされた魔物兵器だと思うんだな。」
「エンヤさん、本当のことを言うと、あなた一体何者なんですか。」
北辰は手のひらで頬を支え、窓辺に怠けるようにうずくまり、目に映るのは少女の容姿で、途中の景色ではない。
「私、あやしい人に見えるの?」
エンヤは北辰の疑いに怒ることなく、逆に、他人がどう見ているかを重視し始めた。
北辰の限られた人生経験の中で、エンヤの存在も特別だ。彼女の魂、肉体、血殺師としての由来、全てが信じがたい謎に満ちている。
「あやしいというより、神秘と形容するのがもっと適切です。」
「あるいは、元の私は君を失望させるだけだったのかもしれない。」
「そうかもしれないな。なぜ今神秘的な君だからこそ、元の君に興味が湧いたんじゃないのか。」
腐食の死鳥がなぜ生きる環境と違う場所に現れ、商隊が必ず通る場所で自分を襲ったのかと言えば、北辰はその可能性の一つが目の前の少女であると信じている。
「君の興味は他人の過去を探ることなのか。」
「いいえ、誰にでもそのような探る考えが湧くわけではない。」
「これはさておき、君が私たちと炎の城に行ってからのつもりは何だ?」
「たぶんそこに留まろうと思う。」
「まだ決めてないんだな。」
「結局まだ何日か考える時間があるからさ。君こそ、どんな理由で炎の城に行くんだ?」
エンヤはこの問題を聞いて、表情に明らかな躊躇が現れた。彼女にとって何か口に出しにくいことらしい。
「君に話してもいいよ。私は父に迎えられて炎の城に行くんだ。父はそこで商人なんだ。いくつかの家屋を買って、私が住める場所もある。」
「では、僕たちがいる商隊も君の父の…」
「これは父と関係ない。私とロゴスは途中で加わったんだ。ただ元のリーダーはもう盗賊との戦いで死んでしまった。ロゴスはその高潔と武芸で皆の新しいリーダーになったんだ。君が見る通り、私は馬車から降りて活動することはめったにない。」
この商隊が一度魔狼たちに囲まれて困ったとき、ロゴスの助けがあってこそ、彼らが狼の餌になる運命を避けることができた。
「エンヤの父はどんな人なんですか。」
「私が記憶を持ち始めてから、父に会ったことがないんだ。偶然でなければ、父からの手紙を受け取り、私を炎の城フレムニアに迎えに来るようになることもなかっただろう。」
エンヤの言う一言一語が真実だ。それだけに、北辰はエンヤの身元にますます気になってきた。
卓越な魔術才能、どこかに隠れている血殺師、人形のように美しい完璧な美貌。
それに対して、人との付き合いの経験が著しく不足しており、嘘で自分を守ることも知らない。
ロゴスと北辰の事前の行動のおかげで、道中に魔物の妨害がなく、車隊は想像もできなかった速度で走っている。
…
長い間魔物に出会わないで、傭兵で構成される護衛たちも警戒心を捨て始めた。彼らは早く炎の城に着き、一番近い酒場でリラックスしたいだけだ。
「変化がある!」
腐食の死鳥を北辰が斬る場所を通り過ぎる瞬間、北辰は不吉な気配が残っていることを察知した。彼は早く車のドアを開け、からだを翻して馬車の屋根の上に跳び上がり、厳かな目でますます小さくなる後方を見つめた。
「もしかしてあいつらが来たのか?」
この世界には人間と血族のほか、もっと恐ろしく、全能な高等な存在がいる。彼らは伝説に記録されているわけではなく、本当に彼らと接触したことがある人間だけが、自分がどんなに劣る生命なのかを知る。
「何が起きたの?」
エンヤは北辰の異常な行動を心配している。彼女の細い手でカーテンを開け、小声で屋根の上に来た北辰に問いかけた。
「気をつけろ!」
鋭い鳥の悲鳴が鳴り響いた。
エンヤが反応した時、北辰は既に呪文を省略して神血武装を解放し、少女に襲い掛かる巨大な黒鴉を一撃で斬り殺していた。
しかし、危機はまだ遠くない。車隊の側にある、既に枯れてしまった幽かな森から大量の黒い鴉が飛び出してきた。翼を広げると一メートルもあり、膨大な数で青い空を覆ってしまった。
黒い鴉の群れが下へ降りるにつれ、一瞬で、永遠の夜の中にいるような錯覚に襲われる!
残されたのは、数え切れない赤く血のような光の点が点滅しているだけだ。
護衛も馬もパニックに陥った。一部の馬車が前で横転して倒れ、後ろの車夫は前が見えないため、悲劇を引き起こした。
北辰の反応は非常に速かった。彼は一番近い護衛を乗せた馬車に素早く跳び込み、パニックになっている護衛から照明弾を取ってから、引信を引き抜き、空に向かって発射した。
「これを君に。エンヤを守れ。」
金属の可燃物が燃えることで、白熱の白い光が皆の視線を一時的に明晰にし、北辰にも自分の近くにいるログスを見えるようになった。
この巨大な鉄塊を背負っている黒い騎士は、水晶のペンダントを北辰の手に押し込むと、エンヤを守る任務を北辰にまかせて、車隊の後方に消えてしまった。
「よく見ろ!これらはただの鴉だ、照明弾の光が途切れないようにしろ!」
北辰は叱ることでこれらの護衛を元気づけ直そうとした。もしただの鴉の群れだけなら、魔力のない彼らに自己保護させるのは問題ないだろう。
「北辰くん!気をつけなさい!」
エンヤはドアの枠を支えながら、北辰を見て、彼に背後に現れた巨狼に気をつけるように注意しようと口を開いたが、北辰の目が鋭く、剣を持ちながら自分に向かって走ってきたことに気がついた。
もしかして…
裏切られるかもしれないと思ったエンヤは目を閉じ、北辰の剣が自分を刺すのを待つ。
しかし数秒後、彼女が想像していた裏切りは起こらなかった。代わりに、背後の地面が激しく揺れ、巻き起こる冷たい風が彼女のそばを擦り抜けた。
ゆっくりと目を開こうとしたとき、優しくて暖かい大きな手が自分の頭の上に置かれた。
「恐れを感じても、周りの敵をよく見分けなさい!」
エンヤは驚いて一気に目を開いた。信じられない光景が目に入った。北辰の後ろに現れた巨狼が二つに切り裂かれており、流血している死体の切り口はきれいだった。振り返ると巨大な髑髏の霊体が地面に倒れており、次第に黒い炎に焼かれて虚無になっていくのが見えた。
代わりに北辰は、一方の手を彼女の頭に載せ、もう一方の手で黑曜石のような真紅の剣を握っていた。
「我々は鴉に囲まれた空間を突破し、外で救援の可能性を探すしかない。」
北辰はエンヤの頭に置いていた手を引き戻し、エンヤの臀部を抱き、片腕で小さな彼女を抱き上げた。
「君の魔術の蓄えが僕を失望させないことを願う。まだ忘れてないだろう、これは基本の基本、火球術。」
エンヤは北辰の突然の親密な行動で照れていたが、北辰の子供のような挑発的な言葉に直面して、エンヤも袖口から杖を取り出した。
「ふん、君の方こそだ。」
「しっかりつかまえろ。」
暗い戦場の中で、北辰は軽い少女を抱きながら半空中へ跳び上がり、黒い鴉の群れの一番弱い位置に向かって剣を振り、数本の剣気が落ち、このように一瞬の間に切れ目が現れた。
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