第5話危機、近づい

「お疲れ様。君一人で腐食の死鳥を倒したそうだな?あれは高级血殺師でさえ困るような魔獣だよ。」

 北辰が腐食の死鳥を討伐したことを知って、馬車の中で静かに本を読んでいたエンヤが、馬車に戻って休憩する北辰を見上げると、目つきも少し優しくなった。

 少女の口から他人を思いやる言葉を聞くのは珍しい。おそらくこれが冒険者が懸賞任務を完了した後の、最大の報酬なのだろう。

 結局、北辰は美少女の称賛は金銭で計ることができないと思っている。

「大したことはない、それは幼体だけだ。」

「君がそう言っても、腐食死鳥の幼体を討伐しただけでも、君を特別に中級の血殺師に昇格させるのに十分だ。」

 北辰は今の血殺師の違う位階の実力の差がいったいどれほど大きいか分からないが、腐食の死鳥は確かに普通の血殺師が一人で討伐できるものではない。

「でも、問題はそれだけではない。僕の記憶では腐食の死鳥の習性は北方にしか適さないのに、なぜ南方の魔獣山脈に現れるんだ?」

「君はこれが人間によって持ち込まれた可能性があると言いたいのか?独特な視点だな、未来の高级血殺師さん。」

 エンヤの言葉は皮肉に聞こえるけれど、北辰は本当にこの可能性がないわけではないと思う。

 腐敗の特性は、ちょっと油断すると魔力の加護を突破してしまう。血殺師自身にとっても神血武装に対して、影響は悪い。

 誰も腐食の死鳥と関係を持ちたくない。この腐敗と死亡を象徴する魔獣はずっと昔から全ての生物に嫌われている。

「幼体ならこの可能性を排除できない。それに、僕にとって殺血師の位階に意味はない。」

「位階がもたらす名誉、権力、富。いつも誰かがその中のどれかに溺れる。」

「血殺師の役割は人々を血族の侵害から守ることだろう。何を求めれば求めるほど、何かの奴隷になってしまう。」

「なるほど華麗な宣言だ。では君の追求は何だ?私は気になる。」

 エンヤは北辰の目を直視して、彼女の宵色の瞳を通して、少年が読み取れるのは、少女の真剣な求知欲だ。

 北辰は無意識に昔のように、適当な答えを作り上げて問題を避けようと思った。

 でも今はダメだ、北辰はエンヤが自分の心を騙らないことを知っているし、他人が騙すことも許さないとも知っている。

 どう答えればいいのか、血殺師の立場でなのか、それともこの身分外の自身なのか。

 北辰は後者を選ぶことにした。

「答える前に、自分の追求を先に言うべきだろう。」

「私?」

 エンヤの魔導書を持つ力が少し増した。彼女はすぐに返事を出さなかった。

「もういい、教えてくれなくても構わない。僕なら、ただ普通人の生活に戻りたいだけだ。」

 北辰は椅子にだらだらと横になり、今とても疲れている。車内の天井を見ながら、疲れた口調でエンヤに応えた。

 もしかするとエンヤはこの答えがつまらないと思ったのかもしれない。彼女は最初驚いたが、すぐに落胆した目つきをした。

「たとえ偽なのでも?」

「なぜ?」

「君はもう普通人ではない。普通人の生活に戻るなんて君の望みのみでしかない。」

 恩雅の冷たい顔に微笑みが少し浮かんだ。彼女は北辰を見ている。

「君は僕を騙したと思う?」

「いいえ、君が騙した相手は、私ではない。」

「では君はこの答えに満足しているか?」

「立派な答えだ。」

 エンヤは視線を再び魔道書に移した。

 なるほど、こうなるとエンヤの答えを知る必要はない、北辰は既に知っている。

 しばらく時間が経った後、北辰が妙な雰囲気を破った。

「相性という点で、僕たちは悪くないでしょう。」

「残念ながら、これは私が否定できないことね。君と話すと意外に安心感がある。」

「なるほど、同類だからといって、お互いを嫌うだけでもないような。」

「嫌う?君の性格は確かに受け入れがたい。」

「エンヤさん、これが自己紹介なの?」

「もしかしたら。明るくなって、ロゴスのように皆から尊敬されるようになれば、君にとってとても簡単なことでしょう。本ばかり読む女性と馬車の中でおしゃべりするなんて、むしろ君の才能に相応しくない。」

「皆が尊敬する英雄……私は彼らの尊敬に値しない。それに今の結果は私がけっこう喜んで見ている。」

「でも、君とロゴスのおかげで、たぶん、これから一日の道のりは安心できるよ。」

 少女は少し真面目な表情で北辰に、これらのことが当然だと思っていないことを伝えている。

「君が僕を救った以上、これは僕がしなければならない報いだ。」

「こうなると、いつか君が逆に私の命を救ってくれるのか?」

「このお嬢さん、重力展開しないでください。僕は面倒を嫌う人なんです。」

「フン、本当にそうなるなら、キミを許さないよ。」

 …

「ラントロー、お前の腐食の死鳥が倒されたよ。」

 炎の城の近くのある哨塔の中で、肌が青白く、尖った耳を持つ美しい青年が、机の上に置かれている石油ランプが消えたのを見た。

 めったに事態が変化することがないので、彼は待ちきれずにこの知らせを門の外のパートナーに伝えた。

 ラントローというやせた男の足元に、帝国軍の甲冑を着た二人の死体が横たわっている。

 間違いなく、本来なら死敵である組み合わせがここを襲い、ここで見張りをしている兵士を殺した。

 ラントローは美しい血族の注意を受けて、タバコに夢中になっていた状態から立ち直り、部屋の中に戻り、パイプで既に消えた石油ランプを叩いた。

「本当だな、なんと倒されちゃった。」

「これからどうする?これは上から君に預けられた宝物だろう?」

「どうするって?エンヤ・メサイアスの首だけ持って帰ればいいんだ。」

「簡単に言うけど…」

「安心しろ、レヴァンティン。腐食の死鳥は腐敗した生命から生まれたもので、魂のない使魔に対する破壊力は非常に恐ろしい。彼らが倒すのには想像を絶する代価を払ったに違いない。」

「今こそ我々のチャンス?」

「引き継ぎの帝国軍の兵士が気づく前に、行こう。」

「まあいいや。」

 ここを出る時、ラントローはわざわざ腰に掛けている二つ目の石油ランプをレヴァンティンに渡した。

「とにかく、できれば血族の身元をできるだけ暴露しないように。あの方はいつでも君の体を回収できるんだ。」

「うるさいな。」

 彼らが知らないのは、哨塔の頂上に、白いリボンで黒い長髪を束ねた美少年が、翡翠のような目で彼らの去り行きを見つめ続けていることだ。

 これがフレイム王立学園の学生、血殺師時御(トキオ)。

「メサイアス家の首を取るなんて、あの無謀な二人は大きなことを言うな。」

 彼は20メートルもある哨塔の頂上から跳び降り、入り口の近くに倒れている兵士に気づいた。

「感謝しろ。俺が間に合わなかったら…」

 時御はこれら二体の無辜の兵士の死体を見ながら、虚空から20センチの長さの銀色の十字架を取り出した。

「夢はこれ以上続ける必要がない。」

 まぶしい白い光が哨塔を包んだ。光が消えた後、死んでいるはずの二人の兵士は無事で引き続き見張りをしている。

 そして時御も、ここに留まることなく去った。

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