第3話血殺師と血族
白いの輝は消えた後、北辰が目を開けた。
二人はこの時限りない草原にいる。星で飾られた夜空の下で、周りには羊が幽光を放つ草を食べているだけだ。
エンヤは比較的なだらかな草地に行き、座り込んだ。彼女はそばの草地を軽く叩いて、目で北辰に座ってこいと示した。
何どう驚くべき精神力だ。一瞬にしてこんな完璧な幻想を作り出せるなんて。
北辰は思わず感嘆し、そしてエンヤのそばに座り込んだ。ここの触感もなんとリアルなのだろう。
「昔、血殺師たちは魔力反応によって強弱を識別することしかできなかった。魔力反応を隠すのが得意な血族は血殺師たちに迷惑をかけることがあった。」
「しかし、百年前、血殺師協会が血殺師の位階を確立した。弱いものから強いものへと、初級、中級、高級、そして頂点となる王級である。」
「王級を除いて、初級から高級までは三つの小さなだんいの差がある。」
「初級の血殺し師は、自発的に神血武装を解放し、戦技と魔術で戦うことができる。」
「中級の血殺師は、血脈と神血武装が共鳴し、自身にぞくする最大の奥義を悟る。」
「高級の血殺師は、完全に解放された神血武装を使うできる、つまり一体化である。最も一般的な形態は、神血武装の一部が自身のからだを覆う鎧として機能することである。」
「そして小さな段位は、血殺師協会が血殺し師の肉体、魔力ようりょう、才能など様々な要因から評定するもので、一段が最も弱く、三段が最も優秀である。」
エンヤの説明はとてもあらいが、すでに北辰にたいして、いわゆる位階がどういうものかを十分理解させた。
同時に、血殺師協会の評定を経ていなくても、北辰はおおよそ自分がどの位階の実力にあるかを知っている。
「大体理解した。では、王級の血殺師の評定基準はどうですか?」
「王級?そんな存在は遠すぎる。君が知る必要はない。」
なんというか、エンヤの言葉は、経験豊富な冒険者が、冒険者になったばかりの少年に、最初からドラゴンを狩る伝説の冒険者になれるなんて妄想をしないようにと勧めるようなものだ。
それより先に、人生の最初の依頼をどうやって完成させるかをまなび、自分にとって未知の世界に適応することだ。
でも、北辰が初心者の役を演じる側なのだろうか…
「血殺師に関するもっと多くのことは、君が血殺師学園に入ってから分かるよ。」
どうやら、エンヤは北辰の考えを見抜いたようで、少し和らいだ、慰めるような口調で、最初の辛辣さもなくなっていた。
その後、北辰は恩雅に血殺師学園に関するいくつかの問題を教えてもらった。
間もなく、彼らは、先ほどログスが言及びした宿場に到着した。
エンヤは馬車から降りて歩きまわりたくない。北辰が続けてすすめるつもりがあるのを見ると、フェイメイを使って北辰を幻想の世界から追い出した。
突然現実世界に戻った北辰は、広い草原と狭い馬車の中の大きな落差からまだ立ち直れない。
彼はエンヤが目を軽く閉じて幻想の世界に浸っているのを見た。美しい人形が座席の端にもたれて休んでいる。
少し躊躇した後、北辰は一人で馬車から降りた。
車夫と護衛たちは宿場の露天の休憩場で食べ物を食べている。基本的に乾燥させた肉の塊とパンの粉ばかりだ。
ログスは一人でここの宿場の主人と交流しており、北辰がすでに馬車から降りたことに気づいていない。
「君、もう大丈夫なのか。エンヤさんは月落の城で医者だけのことはあるな。」
休憩している人々が北辰が馬車から降りるのを見たとき、珍しい動物を見るような視線を投げかけ、年が比較的高い車夫の感嘆を引き起こした。
月落の城?医者?
なるほど、この車列は月落の城のルナから来ているのか…これはずっと昔から秘密に満ちている町だ。
「皆さん、事態が少し悪くなりました。」
ログスが宿場の責任者との会話を終えて、表情が厳しくなり、皆に重い知らせをもたらした。
「私たちが補給をする予定だった町は、すでに血族によって破壊されてしまいました。今、帝国軍がまだ血族と戦っています。どうやら、私たちはそこを迂回しなければなりません。」
「血族…」
「あれらの怪物はまた山を越えようとしているのか!」
「これで困るな。」
「憎らしい血族…」
ログスの話は、全員の緊張を引き起こしたが、これは事実で、彼らは恐れ、文句を言った後受け入れるしかない。
血族は人類にとって、まるで天敵のような存在である。もし神血武装と血殺師がなかったら、おそらく人類は既に血族の血食になり、尊厳なく飼われているだろう。
血殺師という呼び方も、このような理由で、血族を専門的に狩る職業である。
現に北辰がはあくしている状況では、この車列には彼以外にみずからを三流以下の血殺師と認める者はいないようだ。エンヤのことは一旦置いておくが、北辰はログスに血殺師が持つべき魔力反応を見だせない。
一つの町を破壊するのに十分な血族は、数にしろ質にしろ、一人の血殺師で対処できる相手でもない。元のルートを放棄するという決定も全く合理的なのだ。
ログスもルートを変更することで心配している。出発する前にすでに彼は聞いていた。この数十年間、フレムニアの天気が異常になり、どの季節でも突然の雷暴と大あめがしばしば現れるようになった。
「北辰?」
「馬車はつまらない、やっぱり外の空気の方が甘い。」
「そうかな…私のさっきの話も聞こえたでしょう。私たちは町を迂回するしかないんで、申し訳ない。」
「あやまる必要ないよ。おかげさまで、僕は生きていられるんだ。」
「ハハ、人間は助け合う生物だよ、そうではないか?」
「これを否定できないな。僕が必要なことがあれば、遠慮なく。」
「私は、あなたにお願いするあの日をとても楽しみにしています。」
ログスは少し微妙な笑みを浮かべたが、北辰は分かる。ログスの言葉と笑みには偽りが混じっていない。ただ、北辰が知らない事実が隠されているだけだ。
ログスが自分のところから離れて、車列の準備の仕事を指揮するのを見送した後、北辰はこのみじかい休憩時間に、散歩しながら宿場の応接室に来た。
壁に羊皮で作られた帝国の地図が掛けてあり、すでに黄いろくなり始め、しわが出てきている。時間というのはこういうものだ。
「見た感じで、少なくとも百年前の版図のようだ。」
実際、宿場は炎の城まで残り一週間もない距離にあり、この車列は旅の終わりに来ている。
…
ログスの指揮で、皆はすぐに水と乾草の補給を終えた。新鮮な食べ物に関しては、まだ皆の知恵と勇気に頼る必要がある。
護衛と商人たちは再びこの間、彼らにとって最も親しんできた馬車戻った。
北辰は草を満載した馬車を見つけ、頬に時折吹き抜ける風を感じながら、一人で横たわる方がエンヤのそばよりも安心できる。その女性の存在は北辰にとってやはり圧倒的だ。
夜、馬車隊は比較的広く空いた場所に到着し、休憩をとる。
焚き火の燃料となる木は、特別な香料で処理されており、その香りは血を吸う魔物たちを不快にさせる。これは長距離を旅する商隊にとって非常に人気のあるアイテムである。
「もう我慢できない。これからビスケットをかじるしかないのか!」
比較的たくましいおじさんが先に不満を述べた。
その後、文句を言う声がますます多くなり、たまに彼らの口から血族をののしる言葉が聞こえてくる。
「あのさ、ここは魔獣山脈でしょう。なぜ魔物を狩ることを考えないの?」
北辰は細長い草を口にくわえ、太い木の幹にもたれている。
ロゴスは地面から十数メートル離れた枝幹の上に立っており、表情を崩さず、ただ遠くを見つめ、来るかもしれない危険を警戒している。
北辰の言葉を聞いて、ロゴスはしかたなく口を歪め、その後、辛抱強く北辰に原因を説明した。
「夜に、魔物の攻撃欲望は非常に強くなる。私たちのこの一般人で構成される護衛隊の戦闘力は、盗賊に対応するのも精一杯だ。」
「それに魔物の肉は非常に硬く、純粋な魔力で中和しなければ、魔物の肉を焼き熟すのは非常に難しい。要するに、血殺師(しっけつし)がいないのだ。」
「……」
北辰は自分のつぶやきを少し後悔し始めた。
「どうしたの?なぜ話さないの?」
「……いや、お腹が鳴り始めたんだ。僕も何か食べに行こう。」
北辰はこっそりと足を動かし、ロゴスに気づかれる前にここを離れたいと思った。
彼はそう思った。
「そうか……野原では、腹を満たさなければならないんだな。」
「その通りだ。」
見つけられなかったのだから、北辰はようやく安心してここを離れることができる。
正直なところ、北辰は自分の食物に対する追求が高くないと思っている。
「待て!」
北辰が足を動かしたばかりで、妙な予感がした。やはり自分のためらいが原因で、個人の敗北を迎えてしまった。
……
二時間後。
「本当にすごいですね、坊や。さすが血殺師!」
「君とロゴス様のおかげでこんな美味しい魔物の焼き肉が食べられます。」
護衛隊の皆さん、それに商人たちも、彼らの称賛の言葉を惜しみなく、ロゴスと北辰の二人に贈っている。
「まあ、大したことでもないよ。君たちが喜んでくれればいいんだ。」
彼らの熱情に対して、北辰はただうなずきで応じるしかない。そばにいるロゴスはこれに感動しない。
その代わり、ロゴスは頭を下げて反対側に向き、笑いをこらえている。
「お前さん、さっきと比べると、面白すぎるよ。」
「ハ、これも仕方ないことだ。」
「隅で魔力で魔物の死体を処理している時、まだ死にそうな目つきだった。」
「僕はただ余計なことを言ったのはなぜなのか反省しているだけだ。」
「いいじゃないか。これから落ち込んでいる隊伍に直面する必要がなくなる。」
ロゴスが北辰が血殺師であることに気づいた瞬間、北辰は反抗手段を持たない兔のように、ロゴスという森を支配する野獣の目を引きつけられた。
商隊の周りに結界を設けた後、北辰はロゴスに連れられて魔物を探し始めた。
彼らは探しているうちに…
やっと、水たまりの縁で水を飲んでいる悪魔角牛を見つけた。この生物は体が巨大で、帝国軍の五人乗り戦車よりも大きい。
その体には巨獣の希薄な血が流れていると言われている。
力が驚くほど強く、頭の悪魔角は飛竜の鱗を貫通できる。荒い性格のため、飼いならしる可能性はほぼない。
このような怪物でも、ロゴスによって大剣で一撃で殺された。
もしロゴスが神血武装の強化を受けていなかったら、彼は北辰が見た中で肉体的に最も強くな人間だっただろう。
「やっぱり、英雄として扱われるのは嫌いだな。」
北辰はため息をつき、ロゴスに背を向けて手を振りながら、エンヤがいる馬車の方へ歩いて行った。
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