終焉が降臨したとき、同じキミと僕の再会の日

江上秋眠

第1話少年と少女の出会い

 時間の果てに、不死の呪いが破られ、すべてが終わったとき、死にかけた北辰だけがここに残って、万物が引き裂かれ、砕け散る風景を眺めている。

 意識が消えるすんぜん、彼は思い出に浸ります…馬車に揺られ、エンヤと出会った日のこと。

 ……

 際限の地とは、世界の果てがある場所という意味。

 最初の人類の始祖が生まれる前は、神だちが遊んだという伝説のある、文字通りの地上天国。

 今、長い歴史を育み、際限の地のすべてを支配している種族が、二つある。

 平和を好み、足跡は際限の地の半分に近く、多くの知性種族と盟約を結んでいる人類。

 そして、強大な肉体と血を吸う習性を持つ長生種(ちょうせいしゅ)、血族という。

 前の文明が葬られたのち…

 際限の地の唯一の主人となるため、人類と血族は千年戦争を起こする。

 なかでも、吸血妖精(きゅうけつようせい)という血族の枝は、人間にとって脅威てき。

 外見が人間に似ているだけでなく、血液を媒介とした術式を使うことができる。それ以外、彼らの吸血行為は、人間を血族の眷属に変えることもある。

 長い間、人間は飼育され、血族によって絶滅の恐怖の中で生きてきた。

 もちろん、これは初代ランギヌス王が人類を帝国に導く以前の話。

 最近の血の災厄が現れるまで、すでに百年以上が経過していますが、その後も帝国が再び強大になることはなく、その陰謀と裏切りに満ちた動乱は帝国の内部に亀裂を生じさせた。

 血族の侵略をきょぜつする黒い王冠、帝国の半分の領土と住民…

 王冠が盗まれたことで、幻になってしまったの。

 帝国暦1075年、帝国南部の魔獣山脈。

 ロンギヌス末代王が逝ってから、もうすぐ百年が経とうとしている。

 ここは帝国の国境に近く、一日中濃霧に覆われている魔獣山脈である。これは血族が人間のおくちを侵略するのをへだてる天然の防壁である。

 十数台の馬車がその中の茂みの森を行き来している。彼らの今回の旅の終点は、帝国の盾と呼ばれる炎の城フレムニア。

 隊列の中にある馬車、ログスという若い男が座っている。彼は軽便なくろいろの鎧を着ており、背中には両手でにぎってこそ振るえるような巨大な剣がある。

 彼は前のばしゃがじょじょに止まっているのを見つけて、あんぜんのために、馬車からとび降り、前に行って見ることにした。

「何がおきたんだ?」

 ログスは隊列を通り抜けて前に来て、一番早く異常を見つけた人に問いかけた。

「ログスさん、早くこっち見に来て。川のそばだよ。」

「え?人間?」

 ゆびさして示す方向にそって、ログスは馬車が渡ろうとしている川の岸に、白かみの人がうずくまっているのをはっきり見えた。隊列のごえいが慎重に近づいている。

 ごえいがこの白かみの人をログスの前まで引きずってきたとき、いつも冷静をたもってきたログスでさえ、感嘆せずにはいられなかった。

「本当にきみょうなやつだ。かおだちから判断すると、帝国以外の世界から来たんだろう。おう、まだ生きているのか?」

 ログスは目の前の白かみの少年に驚いた。忌みをしょうちょうする白かみの下には、男性の剛毅と女性の柔美を兼ね備そなえた美しい顔がある。

 いま、死のせとぎわにある姿は、さらに人を惜しませる。

「呼吸がとでもに弱く、体内の魔力は限りなくゼロに近い。」

「それに、これも。」

「これは…」

「この少年のそばで見つけたんだ。」

 他人の手から黒い小さな剣を受け取る、ログスはすぐにそれが解放たれていない神血武装(しんけつぶそう)であることを認めた。

「間違いない。この少年は血殺師(ちさつし)だ。」

「では、私たちはどうすればいいでしょうか。元の場所に戻しましょうか。」

「ああ、本当に困るな。もし罠だったら大変だ。でも、そうでないばあいには…」

 ログスはかっとうにおちいった。相手が盗賊か刺客であれば、必ず車隊に大きな損失を与えるだろう。

 しかし、この少年が単純な落ち難者で、ぐうぜん彼らに拾われただけであるなら、このまま放置して、この若い血殺師を森に残しておけば、たぶん魔物の血食になるだろう。

「とつぜんに止まった。何かあったのかな?」

 ログスがどうしようかと考えていると、車隊の中心から少女の声が伝わってきた。そのくちょうには冷たさと憐みが満ちている。

「エンヤ…だいしたことではない。ただ、とでもきょじゃくな血殺師を見つけただけで、どうしょりするか考えているところだ。」

「こんなことなら、きみの心で迷うはずがないでしょう。」

「そうか。じゃあ、きみ二人、この少年をエンヤさんのところに連れていけ。あの黒い小さな剣は私が預かるよ。」

「少年?」

 エンヤは理解できないような感じがした。

「ああ、とても若いやつだ。彼の状況は少し悪い。恐らく君にしかたいしょの方法がないだろう。」

「…分かった。」

 意識のない白かみの少年が二人に連れられてエンヤという少女のところに行かれた後、ログスは再び慎重な目で白かみの少年の神血武装を見なおした。

「黒い神血武装を初めて見る。解放したらどんなすがたになるんだろう…」

 実際に何の異常も感じられないログスは、黒い小さな剣をおさめて、それから前の馬車に炎の城のほうこうに進み続けるように指示した。

 そして白かみの少年はエンヤがいる馬車の中に送られた。ここの装飾はあきらかにほかの馬車の内部かんきょうよりもよい。

 少女は完璧な美貌を持ち、淡色の黄金いろのびはつが肩に垂たれ、神秘と誘惑に満ちた宵いろの目で前の意識のない少年を見ている。

 肢体のせっしょくを通さなくても、彼女は少年の体内のじゃくみょうな魔力反応を感じることができる。

「本当にめちゃくちゃだな、このからだ。」

 エンヤは少し冷たい手を少年のむねくちにあてた。暖かな魔力が彼女の手を通り、ゆっくりと少年の心臓にながれ込んでいった。

 もとこかつしそうだったいのちは、まるで全すべてが死んだものだけの砂漠で嵐にであうように、少年の世界に無限の可能性を持つ生命力をもたらした。

 ……

 嵐がさじんを巻き上げ、なさけよう赦しゃなく北辰のからだをのみ込んでいく。

 ここは、どこなんだろうか。

 北辰のこころは迷いを感じている。彼は自分がどこから来たのか、どこへ行くのか、何をなしとげなければならないのかを忘れてしまいそうだ。

 彼の背中なかには重いものを背負っているように感じられ、みにつけているふくもさまざまな刃によって切り裂かれたせいで、ボロボロになっている。

 さじんは嵐に駆り立てられて、北辰のからだのかく部位をたたき続ける。あしを上げるたび、前に一歩踏みだすためには、想像もできない体力を使う。

 こんな状況で、北辰の意志は急速にしょうもうされていく。

 たぶん、自分が諦めたほうがいいだろう。このままでは、終わりにたどり着けない。

 北辰がこれ以上続けられず、倒れそうになったそのとき、暖かいながれが胸から広がり、甘い味あじがからだのすみずみまで伝わった。

 暖かいな…

 からだのつかれが急速に取りのぞかれていくのを北辰ははっきりと感じており、彼のすすむのを妨げていた嵐もだんだん収まっていくのも感じた。

 すなつぶが再びじめんに落ちると、北辰はついに、これまで嵐にさえぎられて見えなかった存在をはっきりと見ることができた。

 巨大な死骸(しがい)が目の前に倒れており、乾いた毛が黒いえきたいに染まっている。これは正体がわか別べつできない巨大なけものである。

 倒れた死体はまだ戦うしせいを保っており、背中のきずぐちは黒と朱いの気配に囲まれている。どこからの斬撃によって死んだのか判らないが、気がついたときには、すでに命の終わりを迎えていたようだ。

 北辰はゆっくりとそれに近づき、目の前の死骸を見ながら、思わず手を伸ばして撫でた。

「おう?」

 予想はずのかんかくだ。さいしょ北辰は硬い触かんだと思っていた。

 思いがけなく、意外に柔らかい。まるで…

「やはり、外見だけで人の品性を簡単に判断してはいけないな。」

 冷たい言葉がしゅういに響き渡り、怒りとてれくささをふくんだ口調でいっぱいだ。

 北辰がいる死の世界が一瞬にくだけ、嵐のざんぞう、荒れはてた大地、巨大な死骸がすべて消えてなくなった。

 これらに取ってかわるのは、閉じた空間であり、それには軽いゆれもともっており、そとから車夫が鞭を振る音としゃりんが転がる音が伝わってくる。

 そして北辰が撫でていたものももはや何の死骸のひょうめんでもなく、何枚ものふくをへだてているにも関わらず、女の子の柔らかな胸であることに気がつくことができる。

 この予想はずの超展開に、北辰は反応がつかなかった。もともと重い者をせおって進んでいたのに、突然、彼の頭が金髪の美少女のふとももに枕をかけるようになった。

 さらに、いっぽうの手が相手の胸を握っている。

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