平成書店員 小鳥あるみ

ぶちお

第1話 そこまで分かっていて、何故タイトルを知らない…

小鳥あるみの、店頭接客での思い出です。


 当時勤めていた店舗は、日本でも最大級の書店で毎日数百人規模のお客様を接客します。


 一番の難関は、本探しです。

まだスマホも普及しておらず、PCの機能もまだまだです。

現在よりもはるかに書籍を探すのが困難なイベントでした。

書店員になって思ったのは、出版社やレーベル、作者やタイトルを覚えていないお客様が多かったということです。


「白い表紙だった気がする」

「ここに先週置いてあった」

「テレビで紹介されていた」

 こういったとてつもない難易度の書店クイズは日常茶飯事です。

東大王でも無理じゃろ…

せめてキーワード検索できる間違っていない名詞が欲しい…

全書店員の願いではないでしょうか。


 一番はタイトル、次に作者名がわかればグッと探しやすくなるのですが、

当時の書店のネームバリューもあいまって

【こんな有名な書店で働いているなら、このヒントで分かるでしょ】

といった事もチラホラありました。


いや、わからんよ…ごめんだけど、白い表紙はいっぱいあるし、

あなたが見ていた情報番組やっている時はレジに立っていたんよ…

そんな理不尽クイズに答えらない時の無力感といったら。

しかし答えを導けた時の爽快感は格別です。


 ある日のお昼、40代くらいの綺麗な女性が来店し、本を探して欲しいと声をかけました。

「タイトルか作者さんは分かりますか?」

「あの、ごめんなさい。分からなくって。内容とかで分かります?」

「内容だと、ちょっと絞るのが難しいですね。連載している雑誌とか出版社とかあると助かるのですが」

「そうよね、ごめんなさい。息子がね、中学生なんだけど学校で流行っているらしいの。凄い人気で欲しいんだけど、近くの本屋にはなくって…」


 この時、女性の本を探してあげたいというよりも、お母さんをふわふわした情報でパシらせた息子にプチ怒りを覚えました。

だが、せっかく来てくれたんだから見つけてあげたいという気持ちもある!


「中学生に人気で、売り切れていて手に入りにくい。他にキャラクターの情報とかありませんか?バトルものとか、ミステリーとかジャンルとか」

ここで女性の会心の一撃が出ました。

「あ、ギャグマンガなの。それとパンチとロン毛が出てくるらしいの」

息子ーーーーー!!!

どの一部分を切り取ってお母さんに託してるんだよ??!!


 心の中で絶叫しながら、メイン台に向かい一冊の本を女性に渡します。

「確証はないですが、息子さんが欲しがっている本はこちらだと思います」

渡したのは講×社刊『×☆お兄さん』第1巻でした。

「こちら、今大変な人気で品薄になっています。そしてパンチとロン毛も出てきます」

「え?!本当ですか?この本が?!ありがとうございます、こちらいただきます!」


 会計を終えて、女性の後ろ姿を見送るあるみ。

嬉しそうな女性の姿をみて、ほっこりしました。


 息子よ…私が講×社担当でよかったな…そして私自身が『×☆お兄さん』愛読者でよかったな…

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