実力がものをいう世界で

水崎雪奈

第1章 噂を追いかけて

第1話 学校に出される依頼

 私の名前は九重ここのえ奏音かのん。黒い長い髪に凹凸のない身体、それから瞳の色は茶色。身長は160㎝いかないぐらいで、表情が怖いと言われる。


 そんな私の住む世界には、能力という概念が存在している。そして、その能力を持つ者たちを能力者と呼ぶ。


 とはいえ、珍しいけど能力を持たない無能力者が一部存在していて、私もその珍しい側の一人だったりするのだ。


「…あれ、誰かいる」


 そんな私はその世界の中で一番実力主義の傾向が強い王明おうめい国の中で1番優秀とされている学校・星明せいめい高校に通う16歳。実力主義の片鱗が見えるこの学校はEからSの6段階にランク・クラス分けされている。


 んで、今は私の通う1ーEの教室。まだ朝は早く、そろそろ8時になると言ったところ。


「あ、奏音じゃん。おはよー、早いねぇ」


「おはよ。…あんたがこの時間にいることが驚きなんだけど」


 この学校は始業が九時。そして、朝の全体連絡が8時半からで遅れても始業に間に合えばいい程度の学校。だから、8時前から来る人なんて前日の課題をやってなくて写させてもらうために来てる人か、用事があって早く来た人ぐらい。


 …んで、今いるフレア・トリマニーは、確実に前者の理由で来てるんだろう。ちなみにフレアは人間であり、吸血鬼なんだそうで。確かハーフっていうやつだって聞いたかな。


 フレアは赤髪にオレンジの瞳。その髪は団子に縛ってあって、首元が見える。そして、その身長は確か150ちょっとのはず。


「いやぁ、朝早く目が覚めて何となく…?」


 フレアは私のなんでいるという言葉に、首を傾げてそう言ってきた。その手元には教科書とプリント、それから筆箱がある。これは確定したな…。


「そんな事ないでしょ…。はい、フレア。その課題、今日の1時間目に提出するやつでしょ?」


 窓際の自分の机にカバンを置き、私はそのカバンから1つの課題プリントを取り出して、フレアに出す。


「よく分かったねー。助かるよ」


「フレアは大体そうですもんね」


「…ん、友梨ゆり?」


 感謝しながら私のプリントを受け取るフレア。そんなフレアに呆れた言葉をかける人がいた。


 その人は、いつもこの時間に登校すると顔を合わせる、浜辺はまべ友梨。真面目ちゃんである。そうそう、こういう人が本来は来ててほしいよ。課題に追われる人より。


 友梨は黒の短く切った髪に青の瞳で、私より背は高い。何より、人当たりの良い笑顔をしていて周りに人は集まることもある。とはいえ、毒舌だったりするけどね…。


「おはようございます、奏音にフレア」


「おはよ、友梨。今日も自習?」


「はい。今日は少し準備に手間取って遅れましたけど、勉強はしないと。ですからね」


「真面目ねー、友梨は。フレアにも見習って欲しいぐらいよ」


 窓に寄りかかりつつ、私は友梨と言葉を交わす。ちなみに、私の席は窓に近い一番後ろ。その右斜め前が友梨で、前の入り口に一番近い席にフレア。


 こんな並びだし、みんなここに通ってから仲良くしてる友達ではあるんだけど、なぜか先生達からは問題児であるフレアのストッパー役として私と友梨は認識されていたりする。解せない…。


「うっ…。昨日中々勉強する時間とれなくて…」


「あ。そうなのね。でも、その課題はあんたが一番苦手としている教科でしょ?」


「はい…。頑張ります…」


 フレアのその言い訳じみた言葉に対し、私はサラッとそんな事を言う。これぐらいじゃあ、心は痛まないのよね。本音だし。それに、別にフレアは気にしてないでしょ。


「…そう言えば、昨日また騒ぎがあったんですね。街中で何人かの能力者が、高位能力者に暴力を加えたって言う話。あれ、びっくりしました。低ランクだったと今日の朝、ニュースで言ってましたけど」


 ふと、予習していた手を止めて、私の方を見てきた友梨はいきなりそんな話をする。


 とはいえ、そんな事は日常茶飯事でよくある事。実力主義の世界では能力の力をランクとして強さを決める。だから、自分のランクが能力の全てだという話だ。まぁ、実力が上がれば能力以上のランクを得られるらしいけど…。それには、途方もない努力が必要になる。


「そうらしいね。本当に、実力主義とはいえ下剋上も出来るかもしれないんだから。上に立つだけが良いこととは限らないのがまた何ともいえないよ」


 私はそう返して、窓のふちに寄りかかる。そのままぼんやりと校庭を眺めた。


 朝早く来ても、私にはすることがない。なら、時間までに来るようにすればと思うかもしれないけど、家の都合上早く出たほうがいいんだよね。


「そうですけど。また、あの組織がやったんですよね。裏の組織を壊滅させようとする、表の取締機関。少し前までの警察のような役割をする…」


「あー、そうだって言うね。すごいよね」


「…本当に凄いです」


 友梨はそれだけ言うと、予習を再開した。


 …まぁ、その話にはなるべく参加はしないよ。推測が正しければ、友梨は裏の組織の一員。フレアも多分そう。そして、私は取締組織のメンバーが家族にいる。血は繋がってないけど、とても大切な家族。


 だからこそ、なるべく距離を置くようにしてる。私自身も、何故か裏組織に目をつけられてるし。いや、こう考えると何故ピンポイントでフレアと友梨と仲が良いのか分からないや。


「そう言えば、今回の事件に時間取られてるだろうし、また依頼流れてくるかなぁ」


 話に一区切りついたタイミングでフレアがそんな事を呟く。私はそんな呟きを聞いて、そっか。となった。


 この学校の評価システムは、主に取締組織から流れてくる依頼のこなした数で考えている。つまり、依頼をこなせばそれに応じてクラスが変わるんだよね。


「という事は、もしかしたら今日は依頼の日になるかもね。友梨、今日は用事ある?」


「特に無いですよ。…人集まってきましたね」


「あ、本当だ。そろそろ朝のホームルームか」


 友梨の言葉に私は窓の外に向けていた視線を、クラスに向けてそう返した。そして、そのまま自分の席に着く。先生が廊下を歩いているのが見えたしね。


「――お、みんな揃ってるね。関心関心。それじゃあ、朝のホームルームを開始しよう」


 ドアを開けて入ってきた先生は、私たちを一周見渡してそんな事を言う。その手には何も持っていない。


 先生の名前は、穂村ほむられん。中性的な人で、黒に白の線が入った肩までの髪に、赤に少し黒を入れたような瞳をしている。その服装は、ジャージに近い。一応、穂村先生は女性。


「君たちは今朝のニュースを聞いてワクワクと期待しながら登校したのかな?そうだね…。勿体ぶらなくても良いだろう」


 穂村先生はそう言って、少し口角を上げた。


「今日は依頼の日だそうだ。今日中にどうやら依頼を済ませて欲しいと、このクラスにも頼んできた。君たちはFからDまでの依頼を受けれると聞いている」


 その言葉にクラスがどよめく。そして、他のクラスからも声が聞こえてきた。それはそうだろう。


 この学校の依頼は基本いつでも受けることができ、高ランクのクラスの生徒の中には取締組織からの指名も入る。そう言う時は、授業をサボっても問題は特にない。だけど、依頼の日は完全に一日授業が無くなり、時間が許す限り依頼をこなせる。そんな日。


 そして、何よりこの依頼に関しては、クラスにも影響してくる。なんと、その依頼をこなしていく事で上のクラスに上がれるのだ。もちろん、授業にある実技の中で実力を示した上での総合評価なんだけど。


「…とは言っても、きっとまた低ランクの依頼は特にいいものないんだろうねぇ…」


 私はそうぼやいて、穂村先生が教室から出ていく姿を見送る。さて、どうしようかな。


 依頼を受ける気にはならないけど、いい小遣い稼ぎになるし、一定数は受けとかないと停学。全くやらなければ退学になるかもしれないんだよね。でも…。


 残念なことに私は不幸体質なため、依頼を受ける度に面倒ごとに巻き込まれるのは目に見えている。とはいえ、今年の分はまだ足りないから、後数件受けないと…って事は、やりに行くか。


「…友梨、依頼を見に行こ」


「そうですね。…あれ、フレアは?」


「…いない…ね…」


 生徒のいなくなった教室で、私は席から立ち上がって友梨に声をかける。そんな友梨は、私にフレアのことを聞いてくる。


 そういえばと周りを見渡すけど、フレアの姿は見当たらない。んー、完全に見てなかったなぁ。


「やっぱりいないですよね。面倒事に巻き込まれてないと良いですけど」


「んまぁ、そうなったらそうなったで私たちは関係ないから。それより、行こうよ」


「はい」


 フレアのストッパーとはいえ、勝手に行動されては元も子もないわけで。今回は完全に私たちの責任ではないでしょう。うん。


 依頼の貼り紙が出されてるのは、学校の玄関口にある掲示板。ランクごとに掲示板が分かれていて、FからDあたりは、結構この教室から遠かったりする。


「…賑やかだね。ランクの依頼、無くなってないといいけど」


「確かに騒がしいです。あ、フレアが依頼持ってますよ」


「本当だ。何してるんだろう」


 掲示板付近で集まる人の群れを遠目で見つつ、私は友梨が指さす方向に視線を移した。そこには、こそこそと依頼の紙をもって先生を探しているフレアの姿があった。


 こんな人数の中だと、先生を探すのも大変だろうな…。でも、依頼の紙に先生からハンコを押してもらわないと依頼をすることができないシステムがあるから、探さないといけないんだよね。あー、私たちも大変だな。これは。


「先生を探してるんですよね。一旦、人込みから抜けたらいいのに」


「だねぇ。あ、依頼良いの見つけたから、取ってくるわ」


「気を付けてくださいね…?」


「もちろん」


 フレアから視線をF、E、Dランクの掲示板に移していって、私はEランクの掲示板のある依頼に視線を止める。


 あれは多分…護衛依頼だよね。人数は推奨5人。依頼人の要望的には1人か2人が良いと書いてあるのが目に入る。私と友梨の2人で依頼を受けたいと思っていたし、ちょうどいいかも。


 とはいえ、人混みには変わりないし…。あ、横からあの依頼取れるな。むー。


「(取れ…取れ…あ、取れた)」


 何とか手を伸ばして依頼の紙をはがして、私は急いで人混みから離れて友梨の所に戻った。


「…取ってきたよ」


「ありがとうございます。護衛依頼、ですか。このランク帯にあるんですね」


「ねー。で、どう?」


 友梨に内容を見てもらって、私はやるかどうかを聞く。友梨は紙から視線を離して、私をじっと見てくる。


「やりましょう。先生なら手の空いている方があそこにいますし」


「分かった。行こう」


 友梨は首を縦に振って、先生を探してくれていたと伝えてくれる。確かに、あの先生なら…。あ、もしかして、また敬遠されているのかな。


「あー、あの先生か。強面であんまり人と話すのが得意じゃない人。でも、根は優しいんだったっけ」


「はい。あの先生とは親しいので、私は平気です。というか、奏音もそうですよね?」


「まぁ、よくお世話になるからねぇ」


 のんびりと向かいながら、私は友梨とそんな言葉を交わす。


 私の言うあの先生というのは、加々見かがみ勇人ゆうと先生。髪の色は黒で、瞳は黒に茶色が混ざった色をしている。生徒指導を担当していて、体育の先生でもあるため、体は筋肉でいい体形をしてはいる。それでいてさっき言ったように強面で、体育の先生にしては生徒が寄り付きにくい。そんな人。


 とはいえ、私と友梨は問題児のフレアの弁護なんかで、生徒指導の加々見先生とはよく話す機会があるから、特に苦手意識とかはない。むしろ、話をきちんと聞いて意見を反映させてくれていることがあるから、いい先生という印象が強かったりする。


「…加々見先生、今良いですか?」


 様子を伺いつつ、私は友梨と目を合わせて、声をかけた。うーん、これは声をかけずらいわ。怖いもん。


「――あぁ、君たちか。依頼、受けるのか?」


「はい。これ、受託お願いします」


 加々見先生に紙を渡して、許可をもらう。特に何も言われなかったけど、先生が無理だとか危険だと判断した場合は、色々と話を聞くことになる。それが嫌で、身の丈に合う依頼を必死で探す人も居るとか。


「あぁ。今日は2人なのか?フレアは居ないのか」


「フレアなら別行動です。…それでは行ってきます」


「そうか。…頑張って来いよ」


「はい!」


 それだけ言って、加々見先生は人混みの方へ歩いていく。どうやら、動く気になったらしい。でも、この依頼、2人で受けれるものなんだな。


「そういえば、依頼の場所は今いる町なんですよね?」


「あー、うん。あの大きいビルというかマンションみたいなところ、になるのかな。住所を見た感じだとね。…友梨、地図アプリ開いてくれる?どこかは分からないから」


「分かりました」


 学校を出たところで、私は友梨に頼んでスマホで検索してもらう。流石にそこまでの土地勘はないからね。


「えっと、この通りの2個奥の通りですね。奏音の言う通り、あの大きいビルっぽいですよ?」


「…本当だ。それじゃあ、そこに行こうか」


 学校にかなり近いところにあるらしく、地図を見た友梨が学校の校門から正面を指さして教えてくれた。さすが、学校に流れてくる依頼だけあるわ。まさかそんな近い場所だとは…。


 行く場所が分かったところで、2人で歩き出す。


「ところで、奏音」


「んー、何ー?」


 しばらく歩き、その間はどちらとも口を開く事は無かったけど、友梨が何かを思い出したように私に声をかけてきた。


「…学生証持ってますか?あ、後。その依頼書に名前、書きました?」


「……あ」


 友梨のその質問に私は足を止めて、バッグにしまった紙を取り出す。


 本当に名前書いてない…。あ、でも学生証は持ってる。うん、流石にそれは忘れないよ。


「急いで書いたほうがいいですよ」


「分かった。今書いちゃうわ」


 道の端で私はバッグの上に紙を置き、素早く2人分の名前を記入した。友梨に言われなければ気付かなかったんだろうな…。


「…おけ。書けた。行こうか」


「本当に書けました?」


「書けたって。行くよ、友梨」


 サラッと書き終えてバッグにしまい直して、立ち上がる。全く…。どうしてそんなに信用がないんだか…。


「分かりました」


 すごい悪戯っ子な表情を浮かべて、友梨はそう言ってきた。真面目で清楚でふざける事は無さそうに見えるのが友梨だけど、意外とふざける一面を持ち合わせてるんだよね。クラスの人とかにはよく驚かれるって言ってたっけ。


 …まぁ、人の事をどうのこうの言えないけど。私も見た目的には怖めで話しかけづらいけど、いざ話すと気さくで話せるんだと思われることが多い。心外だけど。

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