『パーティ③』

「ねぇ、光輝。このドレス、可愛くない?」



ヒラリとスカートを持ち上げるカナ。その行動に光輝は心の中でため息を吐き、



「似合ってますよ。お嬢様」



「今適当に言ったでしょ!もう!」



プンスカと怒るカナ。それをため息をつきながら見つめていると、



「もう~~!本当に光輝は奈緒ちゃん以外には綺麗って言わないよね~」



ジト目になるカナを見て、光輝は目を逸らし、



「お嬢様だって透様以外の男性に綺麗とか言われても嬉しくないでしょう?それと一緒です」



「…まぁそうだけどさー、でも、綺麗って言う褒め言葉が欲しいの!!透さんと同じような好意は抱いてないけど光輝のことは普通に好きだし」



面倒くさい要求をしてくるなと思いつつ、助けを求める様に周りを見るも誰も助けてくれない。光輝はため息をつきながら――。



「お嬢様……き……「ごめんね。カナちゃん」



光輝が言いかけたとき、奈緒が光輝の腕に絡み付きながら謝った。

それを見たカナは頬を引きつらせ、



「あー……ごめんね?光輝でからかって遊んでただけだから……」



「ううん。私こそ邪魔してごめんね?でも、カナちゃんなら許すけど他の人にはダメだよ?」



ニッコリ微笑む奈緒。それにカナは冷や汗を流しながらも笑顔を作り、



「もちろん!そんなことするわけないじゃん!冗談じゃ無ければこんな事しないよ!」



「そっか……でも……冗談でも辞めてね?私、本気で怒っちゃうかもだから」



ニコニコしながら話しているが、目が笑っていない。その事に気がついたカナは背筋を伸ばし、



「わっ分かった!約束します!!」



ビシッと敬礼をするカナ。それを確認した奈緒はニコッと笑い、



「ありがとうね?カナちゃん」


そう奈緒が言うと、素早くカナ光輝と奈緒から離れたのを確認した後、光輝は



「奈緒。助けてくれてありがとう」



「……カナちゃんもカナちゃんだけど光輝も光輝よ。カナちゃんに挑発された程度で私以外の女に綺麗なんて言おうとしちゃ駄目なんだから」



少し怒った様子で言う奈緒に光輝は苦笑いを浮かべる。こういうときの奈緒はカナ以上にめっちゃくちゃ面倒だし、怖いのだ。なので素直に従うことにする。



「ごめんって…奈緒」



「なら、私のこと綺麗って言って。それで許したげる」



期待に満ちた瞳を向ける奈緒に対し、光輝はため息を吐いた途端、奈緒は不満そうに頬を膨らませる。そして――。



「何それ!!何でカナちゃんと同じ反応なの!?酷すぎると思うんだけど!!」



「いや……だって……」



光輝は奈緒の耳元でこう囁いた。



「そういうのは二人っきりの時に、な」



実際、嘘じゃない。二人っきりだったら言えるし、そもそもこのドレスはカナの為に着ているドレスであり、光輝の為じゃ無い。それを分かっていながら言ったのだが……。

すると、みるみると顔を赤く染めていく奈緒。そのまま俯いて黙り込んでしまった。



「でも、奈緒がそこまで言うのなら仕方ないか……」



「ま、待って!分かったから!じゃ……二人っきりになったときに言ってね?」



赤く、熱を帯びた顔のまま上目遣いに見てくる奈緒。それに対し、光輝は――



「ああ、勿論」



そう言いながら笑顔を向けた。



△▼△▼



「あいつら恥ずかしくねーのかな……?」



「あはは……」



呆れたように呟く春人だが、その隣にいる春香は苦笑いをしている。側から見たら正にバカップルである。しかし、当人達は全く気にしていないようだ。



「側から見たら私達もあんなのかなぁ?」



ポツリと呟かれた言葉。奈緒と光輝のことをバカにしていたが、自分達も同じことをしているかもしれないと思い始めたらしい。



「違うだろ。……多分。和馬のことが好きなのは確かだけど俺らはバカップルじゃ――」



ないと言いかけた瞬間だった。和馬の顔を見た瞬間、春人の口の動きが止まった。



「氷室くんってさ、可愛いよねー」



カナの関係者達の招待客として来ていた女達がそんな会話をしていた。和馬は満更でもないのか照れ臭そうな笑みを浮かべている。



「………」



「………」



春人と春香は無言になる。あの表情を見れば分かるだろう。満更ではないどころか嫌だ。そんな表情を自分以外の人を見せるな、と。二人は無言のまま歩き出す。向かう先は当然――。



「ごめんね。みなさん!和馬をお借りしまーす」



「ごめん。ちょっと用事を思い出したんだ!」



そう言いながら、二人は和馬を連れ出し、会場の外へと出ていき、行く先は監視カメラの死角になっている場所。そこで春人は壁ドンをして、



「和馬さぁ……なんでお前は満更じゃないの?俺、あの女達に嫉妬したんだけど?ねぇ……?」



「えっ?いや……だって……」



「和馬は私達よりあんな女どもの言葉の方が嬉しいの?……酷いよ。私はこんなにも……こんなにも……!」



涙ぐむ春人と春香。そんな二人の様子に和馬は慌てた様子で、――あっ!これヤバイ! と思ったときにはもう遅い。

次の瞬間――。



「夜。覚悟しろよ」



そう言われた直後、和馬は悟った。……ああ。これ俺に選択肢ないやつだ……と。

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