『石田京介という男②』

あの日以来、美香子との距離は縮まったような気がする。後遺症もなく、元気に退院出来たのは本当に良かった。

それからは家族三人で幸せな日々を送っていた。



三人で遊園地に行って、沢山のアトラクションを楽しんだりもした。お弁当を持ってピクニックに行ったこともあった。あのときは楽しかった。今まで生きてきた中で最高の時間だったと思う。



カナも美香子もそして自分自身も。今まで美香子や使用人に任せ、放置していた娘との時間を過ごせた。



今まで"親"という自覚があまりなく、娘のこともあまり気にかけていなかったから、少しずつだけど徐々に歩み寄っていこうと決めたのだ。



少しずつ広がっていく親子の関係。

だが、そんな幸せは長く続かなかった。



原因は美香子が倒れたからだ。その日から美香子は入院生活に入った。原因は不明である。



一年前の事故の関係性も考えてみたが、一年前の事故とこれが繋がるのは低い、と医者も言っていた。



つまり、原因不明であり、治るかどうかも分からないということだ。つまり、急に死んでしまってもおかしくない状況だということだ。



そんなの嫌だった。……初めてだったから。初めて人を愛し、愛されたと思った相手だから。失いたくなかった。



だから今まで以上に仕事も頑張ったし、見舞いにも毎日行ったし、有名な医者を呼んで診てもらったりした。でも結果は変わらなかった。



全員原因不明と言った。つまり、治す手段などなく、このまま死に向かっているということだ。だからと言って諦めることなんて出来なかった。もっともっと仕事をやって金を稼いでもっといい医者に診てもらった。

しかし現実は非情である。やっぱり返事は同じであった。



でも、諦めなかった。否、諦められなかった。だって諦めたら生きる意味を無くすことになるからだ。だけど本当は気づいていた。こんなことをしていても無意味だと。ただ、認めたくはなかっただけなのだ。

それでも信じ続けた。いつか奇跡が起こることを。だが――。



「――美香子が死んだ……?」



いつものように仕事をしている時、電話が来た。内容は美香子の容態が悪化してそのまま息を引き取った……というものだった。



信じられなかった。嘘であって欲しかった。夢であれば覚めて欲しかった。

しかし、これは紛れもない事実であった。



美香子の葬式もしたが、実感が湧かなかった。周りはみんな泣いている。なのに自分は泣けなかった。涙が出てこなかった。



だって実感が湧かなかったから。綺麗に化粧した顔を見ていたら、目を開けるんじゃないかと思ってしまうほど安らかな顔をしていたから……。



だから、火葬場で骨になった姿を見たとき、やっと死んだんだなって思った。それと同時に悲しみが襲ってきて泣きたくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る