『新しい恋の行方 〜茜編〜』
成宮茜はいつも逃げるように生きてきた。いつもニコニコして、危機を回避して、その場をやり過ごしてきた。
恋なんてしたことないし、そもそも恋愛自体よくわからない。誰かと付き合ったこともなければ、デートすらしたことがない。
そんなときに出会ったのが松崎透だった。彼は誰に対しても優しく接してくれて、自分のことを大事にしてくれるような感じがしていた。
そして、初めて自分を必要としてくれる人のような気がした。だから、彼に告白されたときは本当に嬉しかった。
だけど同時に、彼はもう一人――石田カナという女の子とも交際を始めた。これは浮気とかではない。茜自身もそれを認めたし、ワクワクしていた部分もあった。
初めのうちは楽しかった。三人でデートするのも悪くないと思えた。
しかし、時間が経つにつれて段々と『何かが違う』と思うようになっていった。前までは愛してやまなかった透が全く違う存在のように見えていた。
だから、茜は行くことを拒んだ。透の家に行くのを辞めて別れた。そしてもう男はコリゴリだ……と、自分に言い聞かせた。
だが、ハンカチを落とし、拾ってくれた男――高宮奏太と話をしていると不思議と楽しくなってきて、もう一度会いたいと思った。
そして会うたびに、もっと一緒にいたいと思うようになっていった。彼といると安心できたのだ。それは茜にとって初めての感覚であった。
だが、今この一瞬は分からなかった。どうして彼が『ここに一緒に住みませんか?』と言ったのか。どうして、そんなことを言ったのか。分からない。どうしてそんなこと――。
「………すみません。急ですよね……本当にごめんなさい。……その……思いが急に……」
顔を赤くし、下を向いて申し訳なさそうにする奏太に……
「(期待、してもいいのだろうか……?)」
今ここで『私のことが好きなの?』と聞いたらどうなるんだろう。『はい』という返事が返ってくると思う。とゆうか、あんなことを言ったのに自分のことが好きじゃないと言われたらそれは傷つくどころでは済まない。
でも、聞く勇気がなかった。もし違った場合を考えると怖かったからだ。透のこともあったからかもしれない。また何かが違う……と、思ってしまうと怖い。
「…本当何言ってるんだろうね?僕……こんなこと言うつもりじゃなくて……ただ……僕の気持ちを伝えたくて……それで……」
奏太が焦っている様子が伝わってくる。きっと彼は今自分が何を言っているのか分かっていないだろう。ゴニョゴニョと言っていて聞こえない。
それに腹が立って、思わず――。
「………私、そういうの嫌いなの。はっきり言ってほしいんだけど!」
言ってしまった。後悔するかもしれないのに。でも、ここではっきり言わなかったら……何も始まらないような気がした。
「………っ。そ、そうだよね。ほ、本当に……ごめん……。あ、あのさ!ぼ、僕は君と一緒に居たいと思っています!つ、つまり!貴方――成宮茜さんのことが好きなんです!」
しっかりと聞こえた。奏太の顔を見ると耳まで真っ赤になっている。ハッキリ言えと、そう言ったのは自分なのに、恥ずかしくなってきた。顔が熱い。多分今の自分はゆでダコみたいになってるんじゃないかと思う。
「………僕、初めてなんですよ。また会いたいって思った人。それくらい好きです」
真剣な目だ。嘘ではないことがわかる。それが分かっているから。
「……だから、その……先は、想いが溢れてて……気付いた時には……もう声に出ちゃってました。本当にごめんなさい……」
「……」
それは馬鹿正直すぎる告白だった。普通こんなに正直に言えるものなのかと思った。だから――。
「……あははは!!」
笑った。心の底から笑えた。涙が出るほど笑った。別に笑うタイミングではなかったのだが、自然に出たのだ。
そして――
「私も好きよ、奏太さんのこと」
そう言ってしまっていた。もう引き返せないけど、後悔はしない。根拠は無いけど、茜はそう思いながら奏太の唇にキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます