三十二話 『愛してる』

愛する男が隣にいて、男は女の欲しい言葉をくれる。その幸せは誰にも計り知れないものだ。



少なくともカナはそう思ってるし、それは隣にいる……透もそう思っていると……思う。



「……思っていようが思っていまいが、関係ないけどね」



今石田カナは愛した男の隣にいるのだ。勝ちヒロインから透を奪ってカナ負けヒロインがここにいる。ただそれだけの話だ。



ベットの上で寝ている透を愛しているし、透もカナのことを愛している。それが事実であり、全てだ。



それ以上のことは考えてはいけない。考える必要もない。

カナはベットの脇に腰掛けて透を見つめた。



「愛してるよ。透さん」



この呼び方も今で慣れたが最初の頃は違和感があった。でも今ではこれが当たり前になっている。



あんなに茜のことが好きだったくせに、今はカナと一緒にいる透。どれだけ言ったってそれはもう変えられない事実だ。そしてその事実がカナを興奮させ、安心させる。



お互いがお互いに依存――いわゆる共依存というやつだ。駄目だと理解している。



こんな関係は長く続かないことも知っている。それでも止められない。止める気もない。



「だって私は透さんがいなかったら生きていけないし……透さんも私がいなくなったら死んじゃうもんね?」 



独り言を言いながら、透の頬を撫でる。気持ち良さそうに目を細める透を見て、自然と笑みがこぼれる。



「……誰にも渡さないし、渡す気もない。ずっと私だけのものでいて……」



自分のものにならないならいっそ殺してしまいたいくらいには透のことを愛しているし、今では茜も来ないから透のことを独り占めできる。



「……んっ……」



カナがそんなことを思っていると、透がゆっくりと目を開いた。まだ半分夢の中にいるような顔をしながらカナの方を見る。



「おはよう。透さん。私ねー、また激しくしちゃったみたい。でも、しょうがないよねー?あの女の匂いを消すにはもっと激しくするしかないんだから」



「うん……そうだな」



起き上がることもなくそのままの状態で返事をした透。激しくやり過ぎたので腰が立たないのだろう。



「ねぇ……透さん。私だけ見ててね?私のこと以外何も考えないで、私だけを好きでいてね?」



「ああ……分かってるよ。俺の心はもうカナのもの。誰のものでもなく……お前のものだ」



洗脳のような言葉に抵抗せず、素直に従う透。きっと今の彼の頭の中にはカナしか存在しないはずだ。



それを考えるだけで背筋がゾクッとするほどの快感に襲われる。

本当に透は自分のものだ。自分だけが彼を手に入れることができた。他の女なんか入る余地はない。



キスマークだってたくさんある。カナにも透にも。

この印がある限り彼はカナから離れられない。離れることなんてできない。



だから――。



「……ずっと一緒にいようね?透さん」



「……あぁ。ずっと一緒だ。俺は死ぬまでカナと一緒にいるよ」



透の言葉を聞いて、カナは満足そうに微笑みながら、透にキスをした――。

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