二十話 『恋の決着』
「ねぇ、お兄ちゃん、結婚式いつにする?私とお兄ちゃんの結婚式だもの!豪勢にしないとね!」
「ね、ねぇ……カナ話を……」
「沢山の人を招待するのも悪くないけど二人だけで結婚式っていうのも良いよね!後は……」
「か、カナ話を……!」
「新婚旅行は何処にする?海外?それとも日本?」
マシンガントークが止む気配が全く無い。カナの目に光がなく、虚ろな目をしている気がするのは気のせいではない。どうしようかと頭を抱えていると、
「あっ、婚約するのにお兄ちゃんって言うのも変か!うーん……透さん……旦那様……旦那様はちょっと使用人感あるからアナタの方がいいかな?それとも……」
「か、カナ話を……!」
カナも別に話を聞いてくれない……訳ではない。ただ、透が何を言うのか分かっている。口を閉ざした瞬間振られることも分かっているのだろう。
だから笑顔を無理矢理作り、現実から目を背けている。透だって出来ることのならカナを悲しませたくない。でももう既に答えは出てしまっているのだ。
だって透は茜のことを愛しているのだから。茜への好意を断ち切れない限り、カナに応えることは叶わない。
後悔しない……というのなら嘘になる。だけど、このままではカナが傷つくことになるから。カナの為なら何でも出来る。だから――、
「え……?」
だから透はカナを抱きしめた。強く、そして優しく、決して離さぬようにしっかりと。その突然の行動には流石のカナも驚いたらしく言葉を失う。そんな彼女へ透は再び口を開く。
「俺は、カナと結婚出来ない」
短くそう言った。後悔なんてものはない。だって結婚なんて出来ない。妹として見ているカナと恋人になることなど出来やしないのだから。
…それでも、自分は幸せだとそう思ってるし、この選択が間違っているとは思えないし、かと言って正しいとも言えない。ただ一つ言えることがあるとすればそれは――。
「期待に応えてやれなくて本当にごめん。最低な男で本当にごめん」
自分が最低な男であることは間違ってはいない。故にカナには謝罪しか出来ない。
他に何を言えばいいのか分からないから。ひたすら謝ることしか出来なかった。
「………そんなに茜先生の方がいいの?確かに茜先生は私と違って大人の魅力もあるし、胸だって大きいし、清楚な感じもあって綺麗だけど……!私だって負けないよ?!胸は負けてると思うけど、大人の魅力は胸以外にもあるし!脚とか負けてないと……」
ムキになっている。きっと必死なのだ。自分なんかの為に。それだけは理解できた。
自分の為に頑張ってくれている彼女をどうして放り出すことが出来ようか。だけど、ここで抱きしめて期待させるのだけは駄目だ。絶対に駄目なんだ。
だから――、
「俺は茜のことが好きだ。大好きだ」
これは本当のことだ。高校の頃に知り合った成宮茜は誰よりも美しくて可愛くて格好良くて素敵な女性だった為、学園のマドンナ的な存在だった。
自分が天才だと調子に乗っていた時期に、上位互換みたいな存在が現れ、嫉妬でどうにかなってしまいそうになったときに、彼女が『私は貴方と友達になりたいわ!』とそう言ってくれて、恋をしてしまった。
その頃から茜と透は連絡を取り合い、そして気づけば休日に会って遊ぶような仲にまで発展していた上、茜が教師を目指す………と言った話もしてくれて、カナにも世話を焼いてくれた。
そしてそんなカナも大事な存在だ。だから――。
「私じゃ、駄目なの?」
顔が見えない。だけど声だけで十分に伝わる想いだ。それが痛いほど分かる。だけど、 答えるべきことは一つだけ。
たった一つのことだけを言えばいいのだ。
「最低な男なんだよ。俺は。だから、俺と一緒に居たらカナを傷つけてしまうかもしれない。だからカナ。俺とお前はこれで……」
そう言いかけたときだ。バンッ!と扉の開く音がした。何事かと思って扉の方を見てみるとそこには――。
「げっ……お父様……」
カナが嫌そうに顔を歪ませる。カナがそう言った表情をするのは一人しかいない、と思いながら透が振り返ると、
「……透くん。君にお客さんが来ている。応接室に通してあるから早く行きなさい。私はカナと話があるのでね」
圧を感じざるを得ない言い方でそう言うので思わず透は頷いてしまったが、
「……娘が迷惑をかけてすまなかった」
別れ際に京介が小声でそう言った事に透は驚いた。何せ、石田京介という男は謝ることは出来ない男として有名だから。
それに、これについては謝ってもらうことでもない。だってこれは……透自身の問題だからだ。
しかし、それを口にするのには時間も無いし、『早く行け』という威圧感もあり、口にするのも憚られたので透は何も言わずにその場を後にしながら応接室へと急ぎながら透は考えた。
「(……にしても、誰だ……?)」
誰が自分のことを呼んだのだろうか。いや、心当たりが全くないという訳でもないが、そんな都合のいい事が起こるのだろうか、と思う。彼女が待ってくれるというのならそれは都合が良すぎる展開だ。
いや……でも……と、余計な考えを張り巡らせながら応接室へと辿り着いた。
「(……結局、ここを開けなきゃ誰かだなんてわからないよな……)」
意を決して、ドアノブを捻った。そして――。
「あ…」
心臓が今にも飛び出しそうになった。何故ならば、その部屋には――。
「あ、茜……」
今、思いを馳せる女――成宮茜が座っていたからだ。
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