3章 〜それぞれの一日〜

十六話 『パーティ』

パーティ当日になった。この日のパーティの目的は婚約者の正式発表の日だった。本来なら日にちは早くなる予定だったのだがトラブルが発生してしまい今日になったという訳だ。



「カナ」



「お兄ちゃん!」



愛おしい声が聞こえてくる。あの日以来一度も会えず、電話すらできなかった相手だ。



「久しぶりだな。元気にしてたか?」



「うん!もちろん!お兄ちゃんこそ大丈夫?」



「ああ。問題はないよ」



久しぶりに会った透の姿は少し痩せていたように見えた。何かあったのか心配だが聞かない方がいいだろうか?



「ねぇ、お兄ちゃん、私……ね……」



そう言いかけた時だった。



「やぁ、透君。来てくれたんだね」



「あ、はい。本日はお招きいただきありがとうございます」



カナの父親が乱入してきたのだ。思わぬ邪魔者だ。表情は崩れなかったものの、内心はかなりイラついていたし、早くどっかにいけ、と念じていた。



だがその願いも虚しく、カナの父親はまだ話を続ける。

今すぐここから出て行きたい衝動に駆られる。だがそれはできない。



何故なら隣に透があるし、好きな人と少しでも近くに居たいという気持ちがあったからだ。

そんな事を考えながら話を聞いていた時だ。



「カナちゃん!」



「カナちゃん!お招きありがとー!」



「あ、うん。来てもらって嬉しいわ」



現れたのはカナの友達である春香と奈緒だった。2人はいつも通り仲が良く、楽しげな雰囲気だ。思わず透と離れ、二人のそばへと行ってしまった。



でも、しょうがない。カナにとって透と同じく春香と奈緒も大切な人だから。後、父親とも離れたかったという気持ちも少しはある。



「にしてもカナちゃんがあの春人と婚約するだなんて……びっくりしたよ~」



「本当に。カナちゃん、あいつがなんかしたら私に言って!私が懲らしめに行くからさ!」



奈緒と春香が同時に言う。その言葉にカナは若干、複雑な気持ちと懐かしさが混ざったような感情を覚えた。そしてふっと思ったことは――。



「あれ……茜先生いる……」



「あ、本当だー!相変わらず綺麗だよねー!流石大人って感じ」



どうして、ここにいる……と、カナの気持ちは穏やかではなくなった。透を取られたくないという気持ちが強く湧き上がってくる。

カナにとって茜とはただの教師ではない。ライバル的な存在だ。



恐らく……とゆうか間違いなく、茜はカナのことをライバルとは認識していないだろうが……とにかくカナにとって彼女は恋敵なのだ。



例え、本人がそう認識していなくとも。

カナにとってはこのパーティは透との再会の場であると同時に茜と透の接触の場でもある。



「あ、石田さん」



「あ、ひ、氷室くんにす……は、春人くん」



やってきたのは和馬と春人だった。2人っきりの時間が終わったからか春人は不満そうな顔をしているように見える。



「この前はごめんね。俺が驚かせちゃって……」



「い、いえ。私が動揺しすぎたのがいけないんです。こちらこそすみません」



「いや、俺の方が……」



「何々~?何の話??」



2人が会話をしているところに春香が不満そうに和馬の腕に抱きつくようにして割り込んで来た。しかも今回のドレスは胸元が大きく開いていて谷間が見える。

和馬の表情が少しだけ変わったことにカナは気づいた。



「(……うわ……絶対氷室くん春香ちゃんのこと好きだわ……)」



付き合っているのだから当たり前と言えば当たり前だが……チラッとカナは春人を見る。春人が黒い笑みを浮かべながら、



「あの件は和馬が心配せずとも俺の方から誤解は解いておいたから。安心してくれ。後、春香はいつまで和馬の腕にくっついてるつもりなんだ?離れろよ」



「ええ~……分かったわよぉ」



渋々と言った様子で春香は和馬から離れた。しかし、それでもまだ未練があるのかちらっと和馬を見てすぐに視線を逸らしていた。

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