猫大名
冲田
猫大名
昔々、江戸の
長く続く平和な時代、
しかし、この男はいつか良いことが起こるに違いないと、
ある日のこと、さっきまでからりと気持ちよく晴れていたのに、急な
「ごめん。傘を二本くれ」
その武士が言った。少し向こうにはたいそうかわいらしい
普通、
「あんな愛らしい娘さんを
忠篤は
そのまたある日のこと、晴れた日に紙を
「あの、傘を……」
娘はおどおどと視線を泳がせながら忠篤に言った。
「こんな晴れた日にかい? それに、
「そう、ですか」
「しかし、まあなんだ。綺麗な娘さんがわざわざ足を運んでくだすったんだから売らぬわけにもいかんだろう」
きっかけはこんなところで、この二人が
だが、このようなことが長く続くわけもなかった。ある時、姫は
忠篤は「ここで待て」と言われた小部屋にぽつんと
姫様に失礼をはたらいたと、
そのうち、
「なに、
「殿様ですと?」
まさか、殿様にお
「姫から話は聞いた。その
殿の第一声はこれだった。忠篤は思わず顔をあげて
「は?」
と聞きなおした。
「一人娘の姫には、ただ気に入った相手と結婚してもらいたいと姫が幼い頃より思っておったのだ。身分など婿に入ればお
「はぁ」
あまりにも
忠篤は番傘内職で生計を立てる御家人下級武士から大名家への大出世を
忠篤はめでたく姫と結婚、猫田家に婿入りした。夫婦の間に姫が生まれるとほどなくして殿様はぽっくりと亡くなり、忠篤はついに大名家の殿様となった。
美しい妻、
ある
「どうじゃね? 番傘づくりから大名へまで出世した気分は」
猫が忠篤に話しかけた。
「最高だ。すっかり忘れていたがひょっとして、これはお前さんのおかげか」
「それ以外に何があるというのだね?
忠篤の顔がさっと青くなった。
「こんなに早くか? まだ娘も小さいし、殿様にもなったばかりだ。なんとか、もう少しなんとかならないか」
「
「なんだ」
「お主の一人娘には 娘がただ気に入った相手と結婚させてやり、婿に
「そんなことか。よかろう、のもう」
忠篤はこの幸運を
「よし、では
* *
その若い
「生まれが悪けりゃ
浪人が一歩足を
「そうじゃ、この世は
浪人はたいそう
「ば、
「いきなり
で、どうじゃ、話を聞いてみる気はないか」
「化け猫の言うことなんか、良いことなどあるものか」
「ほんのちょっと
「
「馬鹿はお前さんじゃろう。今まさに、命を
とはいえどうせ、ここで死ぬ
浪人はしばし考えた。
「確かにそうだ。
よし、その申し出、のもう」
「良い選択じゃ。では、残りの人生せいぜい楽しむんじゃな。寿命をいただくときにまた現れるよ。その日までは、さよならじゃ」
猫は満足げに
終
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