第36話

 ギルマスとアウルは、テーブルに上に装身具を出した。


「ランクアップの祝いだ」

「友誼の証に」


 ギルマスからは〈隻眼の大鷹〉のライナスとして使っていた印である鷲をモチーフにした指輪、アウルからは梟のモチーフな腕輪で、少しずつデザインが違う物だった。


「なんか魔術の痕跡があるんだけど」

 爆炎のニックが呟くと、

「あ。わかるぅ?」

 白夜のアルビダが嬉しそうに腕輪の説明を始める。

「せっかくだからぁ、一回だけ難敵の攻撃を回避出来る〈絶対防御〉を仕込んだのよぉ~。全部弾いたら貴方達に成長を阻害しちゃうから命の危険がある時だけね☆」


 アルビダは、おネエさんだ。マッチョボディにマッチョなお胸を強調した衣装を好む魔術師。

 今日は礼装で露出は控えめ、装身具がキラついてゴージャス。

 おネエはわりと普通にいるのでみんな気にしない。

 けど女っぽいかマッチョかとで極端なのでマッチョ組は迫力があるよね。


「めちゃくちゃすごい魔道具じゃないですか!?」

 ジャックたちが受け取れないって大慌て。

「そーお?私が作ったから珍しくもないわよぉ?」

 さすがAランクパーティの魔術師だ。難易度高めなダンジョンでしか出ないレベルを平然と作っちゃうのね。


 ギルマスの方はギルマスの古くから付き合いのあるドワーフ製でこれまた貴重な物だ。

 しかも〈緊急連絡〉が仕込んであって、何かあれば、ギルマスが飛んでくる。

 めっちゃ過保護やん!

 教える気はないみたいだけど、私は鑑定出来るからギルマスも私にバレるのは承知なんだろうな。


「俺、腕切り落とされて盗まれる気がする」

「バカ言うな。お前たちは自分の身ぐらい守れる強さがあるんだろ?」


 恐る恐る受け取って装着する爆炎のみんなに比べて私とルカは淡々と装着した。

「肝が据わっていていいねぇ」

 楽しそうにアルビダとシグに言われた。

 魔道具自体には慣れてるから。


「んじゃ、王宮に向かうか」

「「「おう」」」

「「「「「「はい」」」」」」


 冒険者は武器の携帯は認められている。

 腕の立つ冒険者として、王侯貴族のの前で見栄えを持たせるために昔の冒険者ギルドがそうさせたらしい。

 バカな冒険者が暴れるとかしたらどう責任取るんだかと思うけど、獲物を持って歩きたい者が多いのも確かだ。

 相棒を信用できない場所に預けたり、自宅に置いて行き来の間、手ブラって言うのも心許ない。


 そんなわけで日本刀を剣帯に差し込む。

 これ見よがしに打刀と脇差を。

 ルカは太刀と打刀をね。

 流石に腿のベルトには投擲ナイフは仕込まない。

 

「お前らどこから出したよ」

「「あ」」


 やっちまった。

 身内しかいない気になってたわ。

 

 マジックバッグ持ちで通してたのに今はやらかした。

 礼装にマジックバッグ含めてなかった。


「えへ?」

「俺たちじゃない時は絶対やるなよ?」

「「ふぁい」」

 頬をギルマスのデカい手で潰された。


「・・・前から変だと思ってたけどやっぱか」

「でもマジックバッグも本物・・・」

 ジャックたちが微妙な顔してる。


 前回のゴブリンの時サーペントやら遺骨やらいっぱい回収してたのバレてるよねー。


「あら隠してたの?魔力ビンビンだから隠してないのかと思ってたぁ」

 アルビダが言うとアウルたちがうんうんと頷く。

 マジか。そんなビンビンしてる気はなかったんだけど。


「上位ランクくらいしか気づかないわよ」

「そうだな、気配を常に探る癖がないと」


 うーん、学園通ってた時は〈隠蔽〉使ってたからちょっと気が緩んでたかな。


(ルカ、これは問題だね。魔力をコントロールしないと)

 アイコンタクトで会話する。


「頭のいいやつならお前らを襲ったりしないだろう。まぁ目に見えておかしな事はするなよ」


 くぅ。おかしくなんかないもん。

 ちょっとチートなだけだもん。


「ほれ、準備ができたなら行くぞ」


 階下に降りていけば、王宮に向かうか他の冒険者たちも揃っていた。

 いつも身汚かったり、露出が多いのとかが普通に畏まってる。

 流石に国王に会えるとなると気も引き締まるんだ。


 王宮までは近いと言ってもまぁまぁな距離だ。

 貸し馬車屋が縦列を作って待っていた。

 主催であるアロンド公爵家が用意したらしい。


 貴族的に見れば安っぽいが庶民的にはそれなりな作りのなので文句はないけど。


 現在王国で最強の〈白夜の梟〉にはちょっと安っぽすぎるだろう。


 彼らは偉ぶったりしないのでそのまま乗ったけれど、ギルマスも渋い顔だ。


「お前ら二人だけだから俺も乗せてもらうぞ」


 Aランク、Bランクはパーティごとに用意されてるらしいので私たちは二人。別に他のパーティーと相乗りでも良かったんだけど、ギルマスが乗り込んだらも扉を閉められた。


「えー」

 ルカがちょっと声出した。

「んだよ?」

「むっさい」

「うっせ」


 王宮の馬車寄せまで三十分と言ったところか。

 冒険者だけじゃなく貴族もやってくるのでノロノロと渋滞だろう。


「お前らに事情があるのは知っていたが、デガート侯爵から連絡があった」

 ギルマスが渋い顔で語り出した。

「俺たちに貴族のしきたりや柵は関係ねぇが、お前たちが王族やアロンド公爵家、元王弟に枷をつけられるのは本意じゃねぇ、いいか。お前たちは俺でも爺さんでも使えるもんはなんでも使って自由を確保しろ」

 ギルマスがなぜここまで親身になってくれるのか、ルカの警戒が強くなる。


「王国は今冒険者ギルドどころか商業ギルドにも強く出られない。お前たちのような貴族出身の高ランク冒険者を取り込んで王家や貴族に都合よく使えるように仕向けたいんだ」

 めんどくさい〜。

「そうなっても全ギルドごと他国に逃げるだけだがな」

 それがいい。

「だからって言ってもお前たちの回りがめんどくさいことになるのは確かだ。俺でもアウルでも好きに名前を出していい。誰にも支配されるなよ」


 うーん。やっぱ除籍しちゃえば良かった。でも血筋からは逃げられないのかな。


 ルカが鼻頭に皺を寄せてる。

 多分私も同じ顔になってるんだろうな。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る