第27話

 お祖父様の私室に向かう前に兄さんとファナとネルの部屋に顔を出した。

 ファナとネルは待ちくたびれて寝てる。天使の寝顔。可愛いねぇ。


「戻ったか。首尾は?」

「んー、Aランクになったよ」

 兄さんは私とルカが出した冒険者証をみて固まった。

 平たく言えば、これで王侯貴族の強引な求婚も断れるし、家族たちに私たちのことで無理強い出来ないようになった。


 Cランクに留まらずさっさと上げておくのが正解だったとは。

 でも流石に今回の討伐がなきゃBが限度だっただろうから仕方ないと思っておこう。


「兄さんの結婚は多分爺さまが覆すことはないだろうけど俺たちの話は無しに出来るし除籍も出来るよ」

「もう除籍はしなくっても良いんじゃないか」

 兄さんは父さんと似た顔でしょんぼりするのやめて欲しい。

「それはまぁそうなんだけど、伯父さんたちが利用してきそうだし、離れておいた方が多分母さんたちも安全~。要するに嫁に行ったとか婿に行ったって感じの間柄で?」

「そうそう、別に家族じゃなくなるとか縁を切りたいわけじゃないし」

 兄さんは少し考え込んでから頷いた。

「最終的には父さんと母さんを説得してからだ」

 うーん、難関かも。

「とりあえず爺さまに報告してくるね」

 


 お祖父様は夜着で執務机に向かっていた。

「それで目的は果たせたのか」

 ジロリと視線を送られたのでルカと示し合わせて冒険者証を見せる。

 鼻高々になっても良いやつだよね?

「・・・なるほど、私の孫は計り知れない存在だったな」

 お祖父様は机を離れ私たちにソファを勧めてから向かいに座る。

「一体どんな大物を討伐したんだ」

「今回の祝勝会の討伐以外だとドラゴンですね」

「あとはコツコツ?」

 流石のお祖父様様も次の句が出てこない。

「数ヶ月前だっか、状態が極めて良いドラゴンの素材が市場に出てきて大騒ぎだったな」

 あ、それ私たちじゃない方。

 私たちが討ったドラゴンは美しい銀の龍だったので討伐証明以外はアイテムボックスの中でーす。マネーと素材が貯まったら素敵装備にするんだ。お肉も小分けで食べまっす。

「そのドラゴンは多分〈白夜の梟〉が出した方」

 お祖父様はフリーズしてる。しっかり者のくせに肝が小さいのかしら。


「ルカ、爺さまにウロコあげて良い?」

「良いんじゃない」


 そんなわけで手のひらに乗る大きさの銀龍のウロコに防御の付与をつけてお祖父様の手のひらにポーイとな。


「嫌なものを弾く効果だよ」

「相当なものだが良いのか?」

 お祖父様はほんのり嬉しげ。ドラゴンのウロコなんて少年心をくすぐるよね。

「兄さんのことでのお礼ってことに」

「ああ、ヘイストには婚約破棄を受け入れさせて少しばかり意趣返しをしておいた」

 仕事が早い!

 お祖父様に嫌われたなら男爵家は終わりかな?

「あとはベンに伝えてあるが、これだ」

 渡された書類には、婚約時の契約違反と婚約者の交換などと言うあちらの勝手な言い分に対しての迷惑料など結構な項目で慰謝料マシマシだ。仕事のできる男、すごい。


「相手を詰めたのは私だがそれの項目を書き出したのはジョルジュだ」

 敏腕執事!!!

 扉のそばに控えていたジョルジュを尊敬の眼差しで見ちゃう。

「恐れ入ります。マートム家の美貌を勝手に自分の駒にと考えておられたようですのでマートム家の赤字の補填にご協力頂いても良いかと思いまして」

 うんうん、利用する気だったならば利用し返しても良いよね!


(・・・うちの赤字が半端ないんですけど)

(・・・仕送り増やしておけば良かったな)

 父さんも兄さんも私たちに家のことは言ってくれないから。

 ルカの目を見ればお互いに慰謝料の金額に震えたよ。補填ってまだ足りてないって含みに思えて。


「ガドルは土地がもともと荒れているところに二年前に水害が起きて致命的だった。もちろんデガートから予算も出しているから全部がマートム家の借財ではないぞ」

 二年前はあんまり家に戻ってなかった。心配かけないように話してくれなかったんだろうな。

「領地維持の借財だからな、最終的には私が補償する予定のものであったがヘイストのおかげで楽になったな」


 んー、父さんたちベン兄さんのものとか言って受けとらなさそうだけど。

「ベンはジュダスに行くのだし、ジャクリーンの迷惑料だ。そのつもりで毟ったのだからマートムのために使うが良いだろう」

 ジュダス家に持って行く持参金も必要だよね?

「持参金は結婚祝いにこのジジイが出すから心配するな。お前たちも結婚するならそれなりの用意はしてやるぞ」

 お祖父様がニヤッと笑う。結婚する気がないから貰えない祝いだね!

「困ったらドラゴンを売るからいい」

 ルカったらお祖父様の遊びには付き合わない。

「ほう、売りに出す時は私にも声をかけろ。装飾品に欲しいからな」

 お祖父様は個人資産どんだけあるんだ。全くマートム家の慎ましさを見ろって。


「それで祝賀会に着ていくドレスはあるのか?」

「私?冒険者として出るからドレスは着ないよ?」

「・・・孫の着飾った姿を見たいと言う老先短いジジイの願いを叶える気は無いのか」

「お祖父様、孫は他にもいるし良いじゃない」

 百まで生きそうだし。

「除籍の話は?」

「Aまで行ったんだから籍は置いておいても問題なかろう?」

 ドレスの話で思い出した。貴族籍離脱!!

「ランク上げたら良いって言いましたよね?」

 ルカがお祖父様に迫る。

「伯父上たちがいる以上デガート家の縁続きは嫌ですけど?」

「それなんだがな、Aとなった以上はあやつらもいくら親族だからとお前たちに無理強いはできない。そしてだ、お前たちが防波堤でいる以上はハインツやソニア、マートム家に必要以上の接触は出来ぬであろう」


 やられた!

 最初からお祖父様に政治力で負けてたんだ!!


 ルカと二人、めちゃくちゃ腑が煮え繰り返ったけどぐうの音も出なかった。






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