第26話
自分たちの身の安全を確保したからってジャックたちの昇格に付き合わないほど薄情なつもりはないので、〈爆炎の翼〉メンバーの昇格試験にも付き合った。
彼らはドラゴンほど分かりやすいランクアップ条件の討伐はないものの、コツコツ積み上げてきた実績と強制依頼など協力的だったことで人格面の評価が元々高い。
メンバー五人相手ということでアウルとシグって団長と副団長なコンビが相手になった。
アウルはルカとの時と同じでほとんど動きがないと言うか動きが見えない。
シグは重戦士でこちらもドンと構えてる感じで二人とも隙がない。
ジャックたちはと言えば、私たちと同じようにあしらわれる感満載だけど、ほんの少しの揺らぎ(アウルたちのお誘いなんだけど)を見つけて確実に一撃を出す。
リュートと言う魔導師がジャックの動きに合わせて火炎弾や炎風を打ち込む。
言葉に出すと単純なんだけど結構高度な戦い。
私たちが対人で戦う時は野盗とか密猟団みたいな相手で、ぶっちゃけうっかり死なせても大丈夫だから方法とか選ばず、一気に片付けようと動くから試合的な戦闘経験が少ないんだ。
言ってしまうとここまで強い相手と戦うことはないからやりにくい。
高ランクの昇格試験は、経験値と人格を見て受ける資格を貰えるものだから実力を見せればほぼ合格なんだけどね。
実力が無ければ試験を受けられないから。
なのでジャックたち〈爆炎の翼〉もバッチリ合格をもぎ取った。
ギルマスの承認の後に〈白夜の梟〉が証人、私たちも証人って時に名前言ったんだけど。
「良い加減パーティ名を決めてくれ」
二人だけなのに要らん!って言うのにみんなに言われちゃって。
結局世間に馴染みがいいから〈白銀の双竜〉って名乗らされることに。
「〈白銀の双竜〉、リンクとリュカが証人する」
って言わされちゃった。
「やったぜ!アウルさん、シグさん、みなさんあざっす!リンクとリュカもな」
ジャックたちがメンバーみんなでハイタッチしてる。
「若い連中が育ってくれたのは嬉しい。俺たちの仕事が減るからな~」
シグがそんなことを言うもんだから、ジャックたちが「早まったかぁー!!」って崩れたのを見て〈白夜の梟〉が大笑いした。
憧れの、遠い存在な、〈白夜の梟〉が、アウルが、手に届く場所にいることにジャックが目を潤ませてる。
良かったね。
ギルマスが冒険者証の更新をしてくれた。
青みがかった銀のタグになった。
「よし!みんな飲みに行くぞ!」
「「「「「おー!!」」」」」
シグとジャックが肩を組んで良いんだけど、残念ながら私たちは祖父様に冒険者証を見せつけて、除籍してもらわなくちゃいけない。
「ごめん。家のこと片付けなくちゃだから、王宮の祝賀会の後に都合が合えば誘わせてくれないか」
「あー」
ほんと。気ままに行きたいけど、弟妹が心配だって言えば納得してくれた。
「それでお前たち王宮でも偽名で行くんか?」
ギルマスがこそっと聞いてきた。
「冒険者として出るからそのつもりだけど、顔見ればなんか言ってくるだろうから、その時は貴族籍抜けて、Aランク冒険者ってのをひけらかすよ」
わざわざランクアップしたんだから有効活用せねば。
「そうか、ま、Aランクに無理強いするようなのがいたらギルドが制裁加えてやるからな」
ボソって言ってくれた言葉はさりげに怖い。
元SSランクが敵になったら超ヤバいよね。
「ありがと」
「せっかく育ってくれた冒険者を大事にするだけだ。無茶を通してやったんだから今後も頑張ってくれ」
ぐっ。国を出るのは難しくなった!?
「期待してますよ」
アウルの綺麗な笑顔がほんのり怖い。
どこで飲むか盛り上がってる〈白夜の梟〉と〈爆炎の翼〉をちょっぴり羨ましく思ったりなんかしつつ、受付で仕事中のモニカちゃんたちに手を振ってギルドを出た。
予定よりは時間がくったけど、試験がどうなるかわからなかったわけだからこれで終わってよかったわけで。
ルカと二人寝る前に一杯ってことで高級なワインとメルとファナに甘いおやつを買って。
辻馬車を使おうかと思ったけど侯爵家に辻馬車もどうかと思って裏に入ってから転移を使った。
屋敷近くに出てフードマントを裏返し貴族風に。めんどくさい。ドレスは部屋で変えよう。
伯父たちに見つかると面倒なので使用人や商人が使う方の門を通る。
さすがに私たちの顔を見て身元確認とか要らないよね!
「おかえりなさいませ」
「お迎えに上がりましたのに」
マントを預かるとかもいいから。
侍従が声をかけてくる。
「兄さんたちは部屋?」
「はい。食事を終えられましてお寛ぎでございます」
「そう、お祖父様のご都合をお聞きして」
「お二人が戻られてからいつでも良いとのことです」
まぁそうなるか。
「着替えてから伺う。お祖父様との話の後、軽食を部屋にお願い」
歩きながら要望を伝えて、与えられている客室についたので下がるように言う。
「ではそのように」
侍従が離れていってやっと一息。
「使用人が張り付く生活は慣れてないから息が詰まる」
ルカがうんざりした口調でマントを脱いで椅子に座る。
「まぁねー、でもルカは大貴族になってもやっていけそうだけどー?」
「何それ」
面倒なので〈浄化〉を使ってバサバサ服を抜いて一人で着られる簡易ドレスに着替える。
ルカは上着を変えただけ。男は楽だな。
「ルカは環境に合わせて人を使うのもすぐ慣れそうだし」
「やだよ」
一応一族の長に対する礼儀で化粧と髪を整える。
「そういえば、地味メイクも終了?」
「そうねー、隠す必要はもうないかな」
「冒険者仲間には素顔だし、祝賀会は冒険者として出るならメイクした方が変か」
「だね。いっちばん煌びやかにしてやろうか?」
悪ノリで答えるとルカは逆にスンってなる。
「母さんのやつ以上に変なの引っ掛けたくないだろ」
ムー。ノリ悪い。
そんな感じで祖父さまにも素顔で対面することにした。
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