副業、異世界

えす

『召喚士』、奮闘す

第0話:リターンを得るために…

 やはりある程度の『投資』は必要ということか。

 ”彼”は、召喚した冒険者たちの姿を見てがっくりとうなだれた。


 無料BOXから得られるレアリティは『N(ノーマル)』。限りなく低い可能性で『R(レア)』を入手することもあるらしいが、そんな幸運は当然訪れなかった。

 しかも、全員戦士。

 無料で始められて、しかも報酬が得られる……という謳い文句につれられて始めてみたが、収益化までの道のりは険しいようだ。


「召喚士様。我らを召喚していただき、ありがとうございます!」

「必ず役に立ってみせますぜ!」

「やってやるぜー!」

 しかも、全員男。やる気でねー。


 今や異世界は自由自在に行くことができるようになった。

 現代世界で生きづらくても、異世界なら何とかなる──もちろん、そんなことはなかった。

 異世界転生・転移といった”ブーム”が終わり、スキルという恩恵を得られなくなった今、危険な異世界に無防備で行くのは無謀でしかない。

 異世界は衰退し、荒れ放題。魔王も復活しちゃった。


 これに困った異世界の神様とか女神様は色々と考えた。


 そうだ。”収入”を得られる仕組みをつくってやればどうか。

 現代世界は、かつてないほどの物価高やエネルギー費の高騰を受け、生活難の状況が続いているという。今後は食糧難なども想定される事態という。収入もあがらず、出ていくものばかりが増えていく状態。


 個々個人が生きる力を身に着けていかなければならない時代。本業以外の収入源を得るために、人々は悪戦苦闘している。

 神様たちはここに目を付けた。


 すなわち『副業』の創造である。


 現代世界の人間に与えられるスキルはほとんど枯渇してしまった。元からスキルを持っていない現代世界の人間たちにスキルを付与するという荒業は頻発できない。


 それならば。戦わせるのは”ここ”異世界の住人たちだ。彼らは元から固有スキルをもったり、潜在的なスキルを持っているので開花させやすい。

 現代世界の住人から『財』をもらえれば、異世界の住人たちに力を与えることはできる。その冒険者たちをうまく使って、モンスターを倒したり、クエストをこなしたり。その収入の一部を還元してやればいい。


 苦肉の策ではあったが、意外と現代世界の人間たちは食いついてきた。


 『財』は寿命でも、金銭などの財産などでもいい。要は現代世界の人間がその命の糧としているものであり、神様たちのエネルギーとなればなんでもよかった。

 中にはどうしても『財』を払いたくないものもいることだろう。しかし、こちら側はこの異世界を救うため、ひとりでも多くの参入者が欲しい。よって、『財』を払わずとも、異世界冒険者を冒険させられる権利を与えたのだ。


 これがいわゆる、無課金者である。


 ちなみに『無料』で冒険者を召喚できるのは3人までという制限を設けた。

 はやく成果をあげたければ、ある程度の『投資』は必要。そうでないなら気長に、そしてリスクを覚悟でやってもらわなければ。神様はにやりと笑う。



 とにもかくにも。

 現代世界の人間たちは、こうして時々様子を見に来て、新たな冒険者を召喚したり、指示を与えたり、アイテムを与えたりするだけでよかった。冒険者たちにすべて一任してもいい。自由だ。


 ただし。

 現代世界からの持ち物の持ち込みは原則禁止。異世界の文明は一気に進歩することになる。それはこの世界の人々にとっての恩恵であり、脅威にもなり得るからだ。

 魔王軍。彼らが現代人の文明を得たら戦争の激化につながる。現代人の文明を入れるのは、彼らを打ち滅ぼしてからだ。

 というのは建前で、現代世界の人間に好き勝手されたら収拾がつかなくなり、面倒事を処理しなければならなくなるからだ。

 新た仕事、雇用も生まれ、よいことは増えるのだが……。



「えっと、神様神様」

「なんぞ」

「やっぱ、課金しますわ、おれ」

「ありがとうございます。では、どのBOXにしますか?」

「じゃあ、銀で。10万でいいんだっけ」

「はい。寿命1年分か、10万円でいいです」

 現代世界の人間の寿命1年が10万円の価値というわけではない。ただ、こうして提示すれば大抵の人間は10万円の方を選ぶ。その人間によりけりではあるが、こちらの異世界で寿命5年分ほどの価値のある『財』……エネルギーであった。神様は姿が見えないことをいいことに、邪悪に嗤う。


「まいどあり~!」

 銀のBOXが落ちてくる。さて、何が出るかな。

 銀のBOXは10個のアイテムか、冒険者が召喚できるもの。最低2個は『R(レア)』が入っている。その上の『SR』『SSR』も狙える。

 彼はBOXを開ける。


 金色──その輝きに、彼は期待せずにはいられないのだった。

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