一章17話 新たなる家族。

「さて紫苑ちゃん。キミの見立てを此方はこう解釈したのだけど、これであっていただろうか?」

「……私のような小娘に何故そこまで警戒されているのかは分かりませんが、結果だけ見れば蒼空姉さんは大金星と言えるでしょう」

「ふふっ。この世界ではヒトを見た目で判断することはそれ即ち死に直結するからね。警戒し過ぎて杞憂で終わったとしても、その過程にこそ意味があると思っているのさ」

「……自ら口説くどころか、正妻であるラヴィニスさんを使ってまで蒼空姉さんを欲しがる貪欲さは嫌いではありません」

「意外な意見だな。私としては非難されて然るべくと踏んでいたのだけど」

「……私としては以前から、蒼空姉さんの価値を正しく理解できる人にこそ蒼空姉さんは相応しいと考えていましたので」

「ふふっ。そのお眼鏡に叶うように、今後とも精進させて頂こうかな」


 おいおい。なんだよこの娘。想像の数倍狡猾で恐ろしく、頭も切れるだけど? ねぇ。超怖ぇんだけどシュア、助けてくれない?


 この感じ、まるでラヴィニスの母であるリドリーさんを彷彿とさせるほどなんだけど? ……え? もしかして紫苑ちゃんって、爆心地でした?


 隣国では戦力とならない『天職』や『ユニークスキル保持者』はあまり歓迎されていないとか言ってたけど、これってかの国の王様たちに紫苑ちゃんがそう勘違いするように仕向けたのではないだろうか。


 ま、まぁ確かに召喚した若者に戦場で殺し合いをしろとかいう国家が真面なわけないと考えるのはごくごく自然なことではあるけども、召喚に巻き込まれた高校生という立場でそれを正しく理解できるものが、一体どれほどいるというのだろう。


 何よりその後の行動力が非凡過ぎるんだよね。一介の学生が隣国に亡命する選択肢なんて、普通考えるか? 仮に考えたとて、それを実行に移そうなんて思うだろうか?


 ……否。断じて否。とてもじゃないが、普通ではない。これほどの傑物は、後にも先にもそうそう現れないだろう。


 はっきり言って怖すぎるから逃げたいが、同時に得難い人材でもあるのでそれも難しい。……いやぁ、困っちゃったな――あっ。


 そうだ。この子はシャルルに預けよう。きっと相性がいいと思うわ。


 あの子にはいつか信頼できる同程度の能力を持つ存在が必要だと感じてたし、同性だから姉としても一安心だからな。うん、それがいい。


「……一つだけ、お願いがあるのですが」

「うん? 何かな? 私にできることなら叶えよう」

「……異世界という未知の境遇で姉妹と離れるのは不安なので、出来るならば私たちも蒼空姉さんと一緒に行動をさせて頂けないでしょうか?」

「ふ、む。確かにそうか、配慮が足りなかったね。……そうだな。では君たちを私の義姉、義妹としてこの屋敷で受け入れよう。—―セイン」

「はっ。今すぐに取り掛かりましょう」

「うん。よろしく頼む」

「他にはあるかな? ……ん、優香さん?」

「……アイヴィス様は、ちゃんと蒼ちゃんを幸せに出来ますぅ?」

「勿論です。それに、私にはラヴィニスも付いていますので」

「即答かぁ。むむぅ、嘘もついてなさそうねぇ」

「当然です。私は出来る約束しかしないと心に決めていますので」


 我がユニークスキルに隙は無い。というよりは、ラヴィニスの容姿と性格に勝てるものなど……この世にも、あの世にもいないのだ。


 まして蒼空ちゃんは椿紗ちゃんを溺愛している。つまりはラヴィニスが椿紗ちゃんである以上、その存在に勝るものは存在しないのである。


 あとは俺はどの塩梅で介入するかが鬼門ではあるが、一度こちらに取り込んでさえしまえばいつでも料理出来るので、特に問題はないだろう。


「さて。特に無ければ紹介したい人が一人いるんだけど、良いかな?」

「……はい」

「あらあら、楽しみですねぇ」

「シュア。新しい家族となる優香義姉さんと紫苑ちゃんに挨拶をなさい」

「……?」

「あ、あらぁ? 誰も来ませんねぇ」


 え? ちょ……えっ? おかしいな。いつもの彼女なら呼ぶ前から常に準備していて、用があるときはいつもすぐ近くにいるというのに……。


 もしかして憑依中だと勝手が違う? 人前かつ任意のタイミングで『憑依』を解除したことって、今まで確かに無かったもんね。


 あの、シュアさん? 俺ってば『憑依』の解除の仕方が分からないから出てきてくれないと困るんだけど、どうしたらいい? 


 あ、自己分析をするみたいに脳内で会話をすればいいのかな? たしかシュアが以前そんなことを言っていたような気がするし。


(……しゅ、シュア?)

(……アイヴィス様の体内は心地よいのでまだ入っていたいのですが、命令とあらば仕方がありませんね)

(—―ちょっ⁉ な、なんか言い方がやらしくない? それに最近やたらと憑依したがるけど、仕事に支障をきたしてないの? 大丈夫?)

(私の務めはアイヴィス様のお世話なので問題ありません。むしろ合体している今こそがその奉仕の究極と言えましょう)

(が、合体って言うなっ! お、おかしい。シュアってこんなキャラだったっけ? 以前は違ったような……)

(私は以前と何も変わってなど居りませんよ? ただ、強いて言わせて貰うならば、それはアイヴィス様のせいであるとだけ言っておきましょう)

(やっぱり俺が何かしてたんだっ! 心当たりが有り過ぎて分からないけどっ!)

(ふふっ、大いに悩んでくださいませ。愛していますよ、旦那様♡)


 ぐ、ぬぅ。そんな可愛いこと言われたら怒るに怒れないじゃないか。


 ラヴちゃんのときもそうだったけど、”テイム完了”になってからのシュアも俺に一切の遠慮がなくなったよね。


 ま。俺としてはその方が嬉しいからどんとこいって感じなんだけども。


「改めまして優香様、紫苑様。アイヴィス様の専属従者メイド兼第一測妃の、シュアと申します。言わずもがな、狐耳と狐尾は私の自前の一品で御座いますよ」

「ふっふっふ。あの変てこなバーロウを簡単にあしらえたのも、実はいうとこのシュアのおかげなのさ。彼女の戦闘力は皇国随一だからねっ!」

「……驚きました。まさか二人で一人だとは思いませんでした」

「それに二人とも凄く綺麗だわぁ。シュアさんはグラビアアイドル顔負けなほどに完璧な美ボディだし、アイちゃんなんてお伽噺に出てくるお姫様そのものじゃない」

「ありがとうございます優香様。私はともかくお嬢様はこの世はおろか、死者の世界を探してもまず見つからないほどだと自負しております故」

「そう? 確かに飛びぬけて可愛いとは思うけど、二人には負けるよ。特にスタイルなんて私、平凡そのものだからね」

「お嬢様。それは謙遜が過ぎますよ。着やせして見えますが、バストも”Dカップ”と申し分ありませんし、形の美しさや柔らかさ、感度に至るまでもが他の追随を許しません。個人的にはキュッとしまった小振りなヒップラインなどが一番好みではありますが――」

「—―ちょ、ちょっとシュアっ⁉ さ、流石の私もそこまで赤裸々に自分の身体を語られたら恥ずかくて困っちゃうからやめて? ね?」

「むぅぅ。まだほんの一分も語れていないというのに……残念です」


 ま、まさか自分の身体をヒトに語られることがこんなにも恥ずかしいことだとは……っ!


 なまじ自分も声を大にして総評してただけあって、少々心に来るものがあるな。


 ただ反論を言わせてもらうならば、ラヴィニスとシュア相手に私程度が勝てるはずもなく、そもそも勝負の土俵にすら立てないだろう。


 二人のバストサイズは言わずもがな、”桜”と表現するのが最適であろう色素の薄い乳頭と乳輪は奇跡的なバランスの元に構成されており、その感度たるや、まさに”第二の性器”と呼んでも過言ではないだろう。


 何よりこの世のものとは思えぬほどの柔らかさを持つにも関わらず重力に逆らい自立するお椀型の双丘はもはや神、まさに女神がかっていると言っても過言ではないのだっ!


 ……こほん。は、本来であれば胸だけでなく尻や他の部位全てを一晩掛けて語りたいところではあるが、とても人との会話中に突き詰めることではないので、今は泣く泣く自重することにしようではないか。

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