一章08話 従属スキル。
「……アイヴィス様。今回ばかりは苦言を呈させて頂きますが、やりすぎです」
「すいませんでした」
「素直に反省されているのでこれ以上は控えますが、現状を整理させて頂くために敢えて直接的な表現で説明致しますね」
「はい」
「昨晩アイヴィス様のお相手を務めましたシュアですが、大事を取って現在もまだ療養して貰っています」
「……はい」
「『超速再生』を持つシュアが未だに全快に至らないということにも驚きましたが、何よりも
「すいませんでし――えっ⁉ そ、それってつまりラヴちゃんがシュアの――」
「はい。謹んで拝見させて頂きました。シュアの名誉に誓ってアイヴィス様が彼女の初めての相手なのは間違い御座いませんが、身体の一部を損傷したにも関わらず再生しないというのは今までに一度も例の無かった由々しき事態なのです」
「……意識が戻らず心配になって、隈なく検診したってことか」
「医者ほど医学に長けているとは言いませんが、これでも治癒魔法に精通した神聖騎士の端くれなので、診察程度ならばお手の物ですからね」
ラヴィニスのときに感じた達成感と今生で二度目の人生という経験値、加えて尾耳族かつ再生持ちという破格のポテンシャルを持つシュアならば、俺の欲望の全てを受け止めてくれるだろう。
そんな一方的な過信が彼女に多大な負担を掛けてしまった。なまじ前回が上手くいってしまったため、早い話調子に乗ってしまったのだ。
ラヴィニスのときは前戯からピロートークに至るまでを、幾度となく重ねたイメージトレーニングを中心とした構成で何度も何度も反芻し実行に移すことで成功した。
しかし昨晩は相手を思いやること以上に自身の手管を披露することに邁進しすぎてしまい、可愛らしい嬌声を上げ幾度とない絶頂を繰り返していた彼女がついには気を失ってしまったことに、朝を迎えるまで全く以て気が付かなかったのである。
これは言い訳になるかも知れないが、『天職』を授かり『ジョブスキル』を得たことで、”
確かに今生の身体は極めて健康的かつ優秀であり、手指や舌もヒトよりも長く器用だと自負している。
然しながら、流石に前線を張るポテンシャルを持つシュアを一方的に蹂躙するほどのスタミナは持ち合わせていないと思うし、現実的に考えて気絶するまで快楽を与えることなど、えっちな漫画だけに起こり得る過剰描写のようにも感じるのだ。
「これはあくまで私の主観を軸にした仮説に過ぎませんが、もしかしたら第二次性徴ならぬ第三次性徴のようなものを迎えたのかも知れません」
「……どういうこと?」
「私の場合は今のアイヴィス様の年齢――つまりは第二次性徴の際にユニークスキルが目に見えて強化されましたように感じました」
「ふむふむ」
「シュアに聞いたところ、彼女の『超速再生』で再生する軸となる肉体も第一次性徴と第二次性徴のものが
「……もしかして俺と一晩過ごしたことが原因で、再生する身体が”調教後の肉体”になっちゃったってこと?」
「あくまでも仮説の段階でしかありませんが、その可能性は高いと思います。アイヴィス様には私を含め、しっかりと最後まで責任を持って面倒を見て貰わないといけませんね」
”
敢えて指摘をするつもりもないが先程からそっと膝に手を添えられているし、少し身をよじれば唇が触れてしまうのではないかと思うほどには距離が近い。
……こ、これは困った。元より二人を逃がすつもりはないけれど、一切の逃げ道が無くなると途端に緊張感が増したように感じるな。
ラヴィニスの愛情の圧が以前に比べても明らかに増加しているし、にこやかに微笑む彼女の瞳の奥には底しれぬ深淵が覗いているようにも見えなくもない。
愛すよりも愛されたいとはよく言うが、愛される方にも相応の覚悟が必要なのだなと、実際に我が身で体験してみて初めて理解出来た気がしますね。
「そ、そういえばきちんと、シュアの”従属スキル”を手に入れることが出来たよ!」
「おめでとうございますアイヴィス様。長年お悩みになられていた決定力不足に一石を投じることが出来て、私は勿論シュアも光栄に感じていると思いますよ」
「本当にありがとねっ! 今まで二人に頼りきりだったから、正直少しだけ歯がゆい思いをしていたんだよ」
「むぅ。私としてはずっと傍に居てお守りし続けたいのですが、確かにシュア一人に攻撃役を任せるのも申し訳ないですし、こればかりは仕方がありませんね」
「無理はしないと約束するよ。私としても、下手に怪我するのは嫌だからね!」
「ふふっ。凛々しいアイヴィス様も素敵ですが、可愛らしいアイヴィス様もとても愛らしいですね。一粒で二度美味しいと言いますか、実に素晴らしいです」
『再生』と『变化』、シュアから得た二つの従属スキルだ。前者は文字通り自然回復の速度が上昇し、後者は自身の容姿を一時的に変化させることが出来る。
こっそりと仮面を被りギルドのクエストを熟していた堅苦しい生活から脱却出来ることが主なメリットとして、純粋に日常生活で感じる疲労が軽減できるのも嬉しい。
公務や訓練など身体的な疲労は『再生』で行い、有名税などの精神的な疲労は『变化』で木を隠すなら森の中というようにヒトの波に身を委ねることで回避する。
……ふむ。実に実用的かつ腐らない素晴らしいスキルだな。この恩恵を齎してくれたシュアにはホント、感謝してもしきれないね。
「なんかちょっと恥ずかしいな。じ、自分でも主体がコロコロ変わっている自覚あるけど、そういって貰えるならあまり気にしなくても良いかも知れないね」
「はい。それとなく心境も察することが出来ますし、他の誰にも無い魅力のひとつだと思いますので、自信を持って下さいアイヴィス様」
「俺も気が付かない心中を、それとなく察しているだと……? もしかして俺って、自分で思っているより分かりやすいですか?」
「そうですね。しかし私としては、それもまた魅力的だと感じますが。……加えて我ながら常軌を逸していますが、たとえ神や世界、アイヴィス様ご自身が否定しても貴女様の全てを受け入れる自信と覚悟を心に秘めておりますので」
「お、おう。いや、何というか。ラヴィニスがイケメン過ぎて、心臓が持たないわ」
どこか実利的で功利主義者に近い心根を持つ俺と比べラヴィニスは素直だし、深い愛情をもって接してくれている。
本来であれば留意しなければならないのだが、俺とごく一部のヒト以外に対して割と辛辣なのも彼女の魅力だと思う。
当然そんな彼女に感謝しているし、気の多い自身の不貞にどこか申し訳ない気持ちに駆られることもあるけれど、そんな自分の醜い部分すら受け入れてくれるというのだから頭が上がらない。
彼女の愛を一身に受けられることは、前世を通しても類を見ない随一の幸福なのかも知れないな。故に俺としても、
「たぁ・だぁ・しぃっ! いついかなる時でも常に傍に置いてくれないと私ぃ、拗ねちゃいますからねっ!」
「そうか、拗ねちゃうのか。ちょっと見て見たい気もするけど、嫌われなくないから止めようかな?」
「そうして下さい。私、自分で言うのもなんですが、かな〜り面倒くさい性格していますので、拗ねたら本当に長引きますよ?」
「うぐぅ。面倒くさいラヴィニスも見てみたいと思ってしまったんだが、この感情ってもしかしてやばいですか?」
こうやってむくれるのも、本当に可愛いと思う。……あれ? もしかして俺、既にラヴィニスに攻略されてしまっているのでは……?
考えてみたら、彼女が望むことで俺が出来ることなら何でもしてしまう気がする。
それこそ私以外見ないでと言われたらそうしてしまう気がするのだが、あれ? やっぱり俺、『調教師(ヒト型)』の癖に既に彼女に”調教済み”にされていませんか?
……ま、まぁ良いか。深く考えるとなんか色々と不味そうだし、気が付かなかったことにした方が幸せなことって、あると思うんだよね。
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