誰よりも君と

レモン

第1話

 吸血鬼それは人の姿をして夜な夜な人の生き血を吸う怪物。人よりも身体能力は高く姿も変えられ、変幻自在、神出鬼没である。そんな吸血鬼にも弱点がある。それは日の光、心臓に杭を打たれること。日の光を浴びると吸血鬼は一瞬で灰になり、杭を打たれれば苦しみながら死んでいく、それが話に聞く吸血鬼、のはずだった。

「ねえ、いつまで寝てるの?とっくに授業は終わったよ?」

 彼女が現れるまでは。

 今から数週間前

 あの日は満月が綺麗な夜だった。

 俺は電気をつけないまま自分の部屋のベッドの横にある窓を開け月を眺めていた。

「月が綺麗だな。」

 そう一言呟いて俺は窓を開けたままベッドに横になり眠りに付こうとしてた。

 —バサッ

 強い風と一緒にまるで鳥が羽ばたくような音が突然聞こえてきた。

 俺はカーテンが強風に吹かれてる音だと思った。

 体を起こし窓を閉めるついでにもう一度月を見ようと外を見てみると彼女はいた。

 月に照らされ銀色に輝く長い髪、深みのある赤色の目、白く透き通るような白い肌、白黒のお嬢様が来ているようなワンピース、そして何より目立ったのが体の数倍大きい黒い翼だった。

「ねえ、君、さ、さっき言ってた・・・」

「綺麗だ。」

 彼女が何か言っていたが遮るようにして俺はそう言った。

 美しいものを見ると涙を流すように、無意識に言葉が出ていた。

「ふぇ!?」

 彼女の肩が少し跳ね頬が赤く染まり驚いていた。

 それが彼女との初めての出会いだ。


 教室の机で寝ている俺を彼女が起こしてくれた。

「ごめんごめん、昨日徹夜でゲームしてたから眠たくなって。」

 体をお起こすと制服の袖で机の上を拭いた。

「どうせそんなことだろうと思ったよ。早く帰ろ。」

「待ってもらって悪かったね、リアス。」

 机の横にかけられている荷物を取り学校を後にした。

 夕日に照らされながら二人は住宅街を歩いていた。

「ね、ねえ。あの夜の事、考えてくれた?」

 彼女が言うあの夜の事とは、初めて会った日のことだ。

「だから、あれはほんとに独り言なんだってば。」


 あの日の夜彼女は驚いた後軽く咳払いをした。

「コホン。とりあえずいきなりそんなこと言われても、困るというかなんというか」

「ん?何のこと言ってるの?」

「え?だって、さっき、言っヘクチ」

 何かを言いかけた時彼女はくしゃみをした。

「厚かましいけど、部屋に入ってもいいかな?外寒くって。」

 そう言う彼女の体は小さく震えていた。

 俺は彼女を部屋に入れ、窓を閉め電気をつけた。

「なにかのむ?」

 俺は彼女にタオルケットを渡しながら聞いた。

「じゃ、じゃあホット、」

 俺は頭の中でミルクかココアだと思った。

「ホットトマトジュースで。」

「わかった、ホットトマトジュースね。ホットトマトジュース!?な、なにそれ?」

「え?ホットミルクみたいにあっためたトマトジュースだよ?」

 彼女は不思議そうに俺に言ったが、俺は初めて聞く言葉に俺がおかしいのかわからなくなっていた。

「申し訳ないけど、今家にトマトジュースなくて、ホットミルクかホットココアしか出せないんだけど。」

「それなら、ホットミルクで。ごめんなさい、家に入れてもらってるのに。私も何か手伝うよ。」

「いや、大丈夫だから座って待ってて。」

 ついてこようとしていた彼女を座らせ俺は部屋を出ていった。

 マグカップに牛乳を入れてレンジであっためていた俺は頭を悩ませていた。

「冷静に考えろ、今俺の部屋にいるのは紛れもない女性。しかも見た感じ年も近そうだ。そんな女子が俺の部屋にだと?そんなことがあり得るのか、学校ではほとんど一人ぼっちの俺に?いいや、あるわけがない。きっと怪しい何かだ。そうだ、そうに違いない。」

 いきなりの事、眠たくなっている頭で考えたが何が何だかわからなくなっていた。

 —チン!

 あったまったミルクを取り出し彼女が待つ2階の自分の部屋に向かって歩き出した。

「何か変な事されて何か起きる前に彼女を返さないと、よし、一口飲ましたらすぐに出て行ってもらおう。よし!」

 覚悟を決め、部屋のドアを開けると彼女はタオルケットを膝に掛け座っていた。

「おまたせ、ホットミルクだよ。熱いから気を付けてね」

「ありがとうござます。」

 カップを受け取ると彼女はミルクに息を軽く吹きかけ一口飲み込んだ。

「あったかい。」

 俺は彼女の一つ一つの動作が綺麗で見とれていた。

 彼女を見ていると俺と目が合い彼女はニコッと笑い、俺はすぐに視線をそらしホットミルクを飲み込んだ。俺の覚悟は一瞬で消えた。

 話の切り出し方が分からずしばらく沈黙の時間が続くと彼女が話し始めた。

「えっと、それでさっき君が言ってたことなんだけど。」

「おれ、何か言ったけ?」

「だ、だから、そ、その、月が綺麗だなって。」

 彼女はカップで口元を隠しながら恥ずかしそうに言う。

「ああ、そんなこと言ったな。」

 そう言葉を返すと彼女は翼で顔を隠した。

「へ、へえ、やっぱり(私の事)好きなの?」

「うん、(月は)好きだよ。一目惚れだったよ。」

 翼の向こうで彼女の声にならない声が聞こえた。

「そうだ、とりあえず自己紹介からしよっか。俺は夜月 満やづき みちる

 俺がそう言うと彼女は翼から顔を出しながら言う

「私はリアス。リアス・ウルヴォロン・モノクローム。リアスって呼んで」

「よろしく。それで、さっきからずっと気になっているけどもしかしてえっと、リアスって」

「夜月君も聞いたことくらいあるんじゃないかな?吸血鬼の事。私はその吸血鬼の一族の一人なの。」

「は、はは」

 俺は驚いていた。

「やっぱり驚くよね。空想上だと思われていた私たち吸血鬼が目の前にいるんだものね。」

「あの、服にミルクこぼしてるよ。」

「え?」

 リアスは自分の服を見ると胸元にミルクがこぼれていた。

「あぁ!キレイにしたばっかりなのに!」

 リアスはポッケからハンカチを取り出し拭こうとするが俺はすぐに止めさせた。

「ちょっとまって、それじゃあだめだよ。」

「でもすぐに拭かないとしみになって臭いも付いちゃうし。どうすればいいの?この服私のお気に入りの服なの。」

「じゃあ、その服脱いで。」

「ええ!?い、いきなり何を!」

 リアスは突然の一言に驚いて渡されていタオルケットで体を隠した。

「ご、ごめん。別に変な意味じゃなくて、応急措置だけでもと思って。はいこれ、とりあえずこれ着ておいて。俺部屋から出るから着替えたら服貸して。」

 そう言って夜月が部屋から出たのを見るとリアスは着替え始めた。

 しばらくすると部屋のドアがあいてジャージ姿のリアスが出てきた。

「服ありがとね、あと、はいこれ。」

 リアスはシミの位置が分かりやすいようにして服を渡す。

「それで、どうするの?」

「確か、牛乳のついたところの下にタオルを敷いて、牛乳のついたところに台所用洗剤を付ける。そしたら10分くらい放置して、上から歯ブラシで優しくたたく。その後にすすぐ。それだけ。悪魔で応急措置だから後はクリーニング屋に頼むしかないかな。乾くまでの間部屋で待ってようか」

「あなたって意外と家庭的なのね」

 リアスは手際のいい作業を見て感心していた。

 2人は部屋に戻り間に机をはさんで座っている。

「それにしても私が吸血鬼って言った時驚かないのね。」

「気になりはしなかったけど驚きはしなかったな。どうしてだろうね、自分でもわからなかったよ。そう言えば服を渡しといてなんだけど、翼はどうしたの?今気が付いたんだけど翼がないよね?」

 リアスが着替える前にあった翼が着替えた後ではなくなっていた。

 服の中にしまったら背中の部分が膨らむはずだしどこに消えたのだと不思議だった。

「ああ、それなら、なんて言えばいいのかな?消してる?形を変えてる?ほら、聞いたことない?吸血鬼が煙に姿を変えたり、コウモリに姿を変えたりとか、それみたいな感じで姿を変えてると思って。」

「ああ、な、るほどね。大体理解した。」

 そういう俺の目は泳いでいた。

「ぜったい、わかってないでしょ~。ちょっと後ろ向いてて。」

 リアスの言う通り俺は背を向けると、シュル、シュル、と布をこするような音が聞こえてきた。

「こっち向いていいよ。」

「ちょ、ちょっと、なにしてるの!?」

 そう言われてリアスの方を向くと、リアスは上着をすべて脱ぎ背中を夜月の方に向けていた。

 その背中はきめ細かいだけでなく、透き通るように美しかった。

 が、俺はすぐに目を両手で覆い、リアスに背を向けた。

「いいから!こっちを見て!」

 そう言われ俺は再びリアスの背中に目を向けた。

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