第10話 エステと注射

従姉妹に頼み、従姉妹が仕事をしているエステに通うことにした。

本来なら女性専用なんだけど、アタシのことを従姉妹が店長さんに話てくれて、特別に施術してもらうことになった。


「毛量が濃くて多いから、普通の人よりは時間がかかるけど、私が何とかしてあげる。任せて」

「お願いね」

従姉妹に頼み、全身脱毛をすることにした。


光脱毛だからあまり痛みを感じなく出来ると言った。が、…。

アタシの目に白いタオルを乗せて、ピッピッと光が反射した。

ヒゲも濃いから、顔脱毛もしてもらう。その痛みは尋常ではない。

タオルを乗せて居ても、すき間から光が見えてしまう。ピッの音がなる度に、目に光の線が見えた。

そしていよいよVラインとOライン。とても恥ずかしかった。

まず、カミソリでアソコの毛を剃ってもらった。その後にやはり同じくピッピッと、光が反射した。

その痛みはすごかった。ココとヒゲは痛みが出るらしい。ピッと音がする度全身が悶え動く。思わず

「イタッ!イッターイ!」

と、少し太い声で叫んでしまった。


数日後、今度は全身マッサージをしてもらった。

アタシはガリガリだから、代謝が悪いって言われて、先に生姜湯を飲んだ。その次にドームというのに入り、全身汗をかいた。その間30分。とても気持ちが良くて、眠りたくなった。

ドームで体を温めた後、寝台に乗り、全身オイルマッサージをしてもらった。

心地の良いアロマの香りが、部屋中に漂う。アタシは深く深呼吸した。

「とてもリラックスするぅ」

「でしょ?女の子はね、お金がかかるけど、磨けばその分今よりもっと光り輝くから、やり甲斐があるのよ」

従姉妹がそう言った。

アタシもその通りだと思った。


そして1ヶ月に一度、脱毛とオイルマッサージと、日にちを変えながら

従姉妹にエステをしてもらった。

脱毛だけは、いくらしてもアソコとヒゲの部分は、痛みに慣れることは無かった。


✤✤✤


そして晴れて二十歳になり、お酒も堂々と飲めるようになった。

キャバクラでも今まではウーロン茶か、フレッシュジュースしか飲めなかったけど、これでお客様との会話も弾むと思う。

それから何より嬉しいのは、ホルモン注射を打てることだった。

始めは二週間に一度のホルモン注射。それから女性ホルモンに良いと言われている、豆乳を飲み始めた。

バストアップに良いと聞いたサプリや、マッサージクリームを色々試したが、やっぱり効果は薄い。


ホルモン注射をすると、男性としての性欲と役割が薄くなるらしかった。

そして三回目の注射をした頃から、腰周りやヒップにお肉が付き、女性らしいラインに少しだけなった。バストもふっくらとほんの少しだけど、ふくらみがでてきた。

アタシは少しずつ本当の女の子に近づいて行くような気がした。

でも副作用もあった。襲ってくるうつっぽさ。なんでもマイナスに考えてしまう。ヤル気が出なくなったり笑顔になれなくなったり…。

だけど、栄養ドリンクを飲みながらヤル気アップで前向きになるように、アタシは必死で耐えた。うつになんて負けるもんか!って思った。


そして田舎では出来なかった、ネイルにも力を入れた。

これも従姉妹にしてもらった。

まずハンドマッサージをし、爪の形を整える。そして爪の甘皮を丁寧に取る。次に下地のネイルを付ける。剥がれにくく、また爪を丈夫にして行く機能がある。

そしていよいよ好きなイメージのネイルを施してもらう。

アタシはイメージが上手くわかなくて、従姉妹に任せた。

「バタフライ、蝶々なんてどう?華やかでいいと思うけど…」

「うん、いいね。それじゃそれでよろしく」

「OK。任せといて」

従姉妹はローズ系のマニキュアを全体に塗り、さり気ない程度に銀色のラメを入れた。そして中指にバタフライを描く。

バタフライがワンポイントになって、とても素敵に仕上がった。


田舎にいた時は、爪も伸ばせなかった。田んぼと畑の手伝いをする為だ。

爪を伸ばして力仕事をすると、爪はすぐに折れてしまうし、手袋をしていても泥が手袋に浸透し、爪の間に土が入り込んだ。

アタシは農業をするのが、嫌でたまらなかった。


厳格な父親から逃れたくて仕方なかった。

「そんな爪じゃ何も出来ないぞ!もっと短くしろ!」

と、言うがまま。母親もやっぱり父親と同じ意見だった。逆らうことが怖かったのだと思う。

だからアタシは、こっそりと透明のマニキュアを買って付けていた。

短く切った爪でも、透明なマニキュアは自然の色を放ち、キラキラ光ってキレイだった。


アタシは爪を見る度に、女心をくすぐられるような気がした。




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