第34話 身分を捨てて


 私は悪い事なんて何もしていない。それなのにどうして。

 背中に銃口を突きつけられ、身体が凍り付いた。


「姫」


 男の声は低く、小さい。


「貴女は本当にあの公爵家に嫁ぐつもりか?」


 嫁ぐ以外に選択肢は無い。答えようにも声が出てくれない。


「あの悪名高い公爵家と知っても尚」


 それは私も知っている。善の方向に導くのも私の務めだ。

 生唾をゴクリと飲む。


「沈黙は肯定だと受け取る」


 もう私は此処で殺されるのだろう。

 あまりの恐怖から首を横に振っていた。


「それなら俺と来てもらう」


 首を殴られ、瞬く間に気絶してしまった。

 あの時に襲撃に来た男は、今は優しい私の夫だ。

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