第30話 使命


 運命とは何だろう。使命とは何だろう。それも分からず人は生きていく。

 私は視覚からその人の使命を見る事が出来る。

 ──愛する人を救いなさい──

 鏡に映った自分自身の頭の上に文字が浮び上がる。

 私には愛する人なんて居ない。家族も事故で失い、親友と呼べるような人も居ない。恋人なんて以ての外だ。

 そんな私に誰を救えと言うのだろう。

 ぼんやりと歩道で信号待ちをしていると、私の横を通り過ぎる男性が居たのだ。


「……ちょっと! 信号!」


「えっ?」


 その人が振り向いた瞬間、トラックが猛スピードで横切って行った。

 危ない所だった。もし私が声を掛けなければ、この人は──

 次の日の朝、私の使命が変わっていた。

 ──愛する人に逢いなさい──

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