酪農家の跡取り息子、ミノタウロスになる〜幼馴染の養鶏場の跡取り娘はハーピィになる〜

川崎そう

第1話 牛と共に起きる

「ヴゥォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」 



「何何何なになになにィ!?」


 暗く、狭く、細長く、無機質で冷たい空間に、雄叫びが轟く。

 重低音の、唸る様な咆哮。

 更に、もう一つ。


「ヒャッ……ハハハハハハハァァ!!!!」


 空間の隅々にまで響き渡る、威嚇、牽制、挑発の、狂った鳴き声。


「ウォォォォォォ!!!!」


 かと思えば、鈍重な轟音。大質量と大質量の金属同士のぶつかり合いの激音。

 そして。


「テメェをブッ殺してェ…俺が奪い尽くしてやるヨォォォッ!!!!」

「適当な事…言ってんじゃねぇぇぇぇぇッ!!!」


 『鼻息』が、滅茶苦茶荒かった。



ーーーーーーーーーー








 《ppp ppp ppp ppppppppp…》

 「うぉっ………うるせぇ…なんだ今日の夢は……」


 少年が一人、等間隔にリズムを刻むのを諦めるのが早過ぎる、携帯のスヌーズを止めて、ムクリ。

 とは行かずに、のっそりと起き上がる。

 カーテンを開ければ、外は漸く白んで来たかという様な、今の少年の頭の中と同じくらいの、ぼやけ具合だった。


「…ジジイかよ……うん。今日もカッコい良いな、俺が組み立てたのは」


 何時もの起床用の決まり文句を呟いてから、出窓に並べてある、人型機動兵器のプラモデルの数々を見て満足気になると、漸く立ち上がる少年。

 携帯のスヌーズ画面は、午前五時を表示していた。


「はよー。相変わらず誰も居なーい俺んちー」


 テレビと電気は点いているが、無人のキッチンに降りて来る少年。

 『超早起き健康優良児』を自称する身よりも早いのだから、恐ろしい大人達だと思っている。

 とはいえ将来的には自分もそうなる…のを考えるのは先行き不安だからから、そそくさと顔だけ洗いに、洗面所へ向かった。


「うーつべてー……まだお湯で良かったな」


 五月半ばの洗顔用水温の選択に悩みつつ、拭き終わったら鏡に映る、三白眼の間抜け面を一瞥すると、天然センター分けの前髪を整えて着替えた。

 上下を水色のツナギに着替えて、足には長靴。腕にはゴム手。

 最後にキャップを被れば漸く真っ当に昇って来た太陽と同じタイミングで、外に出た少年ーーー斧田丈一だった。



【モォォォ〜〜!】

「もう鳴いてんな。まだ二歳なのに年寄りウシかよアイツらは……」


 同時に、その鳴き声も聞こえて来て。







「おはよ」

「あーおはよ。ハイコレ朝の」

「あいよー」


 玄関を出て十メートル程歩けば、飼料小屋。

 そこに居る中年女性…丈一の母親から、側にある巨大な牧草の、四角いブロックを指さされる。

 一つ、人間一人程ある重たさのそれを担いでは、一輪車に乗せ、それを三つ、ピラミッド状に重ねたら、次はそこから五メートル。


「おは【モォ〜〜〜!!!!】朝から元気が過ぎるんだよ…」


 牛舎に入るや否や、横並びの牛達が、一斉に鳴き始めた。

 牧草の匂いが近くなったのを察知して、我慢出来なくなったのであろう、食欲旺盛な牛達が。


「…ほい」

【モォ】

「ほれ」

【ンン〜】

「そら」

【ンモ…】


 塊状の牧草ブロックを、四本爪の巨大クワ、牧草ホークで刺しては拾い、飼料箱へ突っ込む丈一。

 入れた瞬間貪り始める牛達だが、ちゃんと食べないと元気が出ないのは、人間も牛も問わず一緒である。

 故に一頭一頭、食欲の具合もしっかり見ておかなければならない。


「とりあえず全員ちゃんと食ってんな。ヨシ!」


 某現場猫の如くビシッと指差しをした所で、追加のブロックからまた牧草を解して下ろす。

 コレをあともう一回やって、朝のエサやりは終わりになる。


「ふぁ…」


 そして一発、欠伸も掻いておいた丈一だった。





「アレ、じいちゃんまだ?」

「そうねー。もう少ししたら帰って来るでしょ」

「ふーん」

「にしてもアンタ、牧草ロールそのまま運べる様になったのね」

「ん」


 エサやりが終われば長靴消毒の後、ツナギをとっとと脱ぐと、本職の高校の制服に着替えである。

 先に家に上がり朝食を作っている母親に、ワイシャツのボタン留めながら訊ねると共に、更衣期間に入ってブレザーを着なくて良いのは楽だなぁと思う丈一だった。


「成長期に筋肉付けすぎると身長伸びないわよー」

「別に筋トレしてねーし。第一家業的に勝手に筋肉付くだろ。身長はこっからなの」


 母親の小言を避ける様に、音のする方に顔を向ければ、朝から世界情勢の膠着や緊張が流れているテレビ。

 それを傍目に、シャケとウインナー、目玉焼きを交互に食べながら、ご飯を掻っ込んでいった。


 牧草のブロックは大元があり、その通称牧草ロールは大体一つ350kg位。

 小分けにして一つ40〜50kg程なので、特段重過ぎる程でも無い。

 というのが丈一の考えである。


「てか丈一アンタ部活決めたの?」

「いや帰宅部っしょ。このままフツーに」

「なーに言ってんのよ放課後何か青春しなさいよー。プラモ部とか無いの?」

「無いわ。あったら入ってるっての。第一帰って干し草干さなきゃならんし、牛舎の掃除もあんじゃん」 


 味噌汁をゴトっと置き、そんな事を言う母親。

 中学時の部活は強制だった為、止むなく文化部をやっていたが、高校は自由なのだから、わざわざ牛達の足を引っ張る必要は無い。

 というのが今のスタンスであった。


「あんた…あのね、ウチの事やってくれるのはありがたいけど、高校生は三年間しか無いんだから、もっと沢山友達と「帰ったぞー」ああおじいちゃん来た」

「じいちゃん遅かったじゃん」


 玄関の方からしゃがれた声が聞こえれば、そのままステテコ一丁の、朝の木樵終わりの老人が入って来る。

 体型は大分細く、骨と皮な痩躯だが、背筋はまだピンとしている、齢八十にすれば若く見える、丈一の祖父だった。


「何、年寄り共は朝早いからな。道草が増えんだわ」

「ソレじいちゃんが首突っ込んでんじゃね?」

「ハハハ。それもあるかぁ」

「つか…なんかじいちゃん、最近朝、やたら汗掻いてるけど」

「…近頃は、帰り道軽くジョギングしとるからな」

「ふーん」

「しかし丈一、またロール一纏めに運んだのか。成長したなぁ」

「成長なのか?」


 納得し辛いものの、祖父も昔の写真は筋骨隆々だから、家系なんだろうと思う丈一。


「いいからおじいちゃんも早く食べちゃって」

「すまんすまん。うーむ。朝はやっぱり赤ダシからだな!」


 明るく笑いながら、食卓に座る祖父。

 ただ丈一は、一瞬だけ奥歯に何か挟まった様な顔をしたのが、少し気になった。

 何れにせよ大方このルーティーンで朝食をを囲むのが、斧田家の習慣だ。





 そして。


「おはよーございまーす!」

「!桜子ちゃん来ちゃった!丈一早く出な!」

「そんな急がなくても「さっさとする」へいへい…」


 玄関から次に聞こえるは、朝から元気な女子の声。

 食器を流しに持って行き、リュックを担いで急かされながらも小走りで向かうと、そこに居るのは。


「ジョーおは!」

「おはじゃねぇ、一々ウチに寄るなよ」


 焦茶のボブカットに、ピンク色のカーディガンを押し出すかの様な、胸部の主張が激しい女子が一人。

 小柄な体型ながら出る所はしっかり出ている、所謂のトランジスタグラマーな少女だった。

 名は、若山桜子。


「だってまだ道分からんし〜」

「もうそろそろ覚えろ…」


 スニーカーを履いて玄関出を出れば、庭に停まってるは原付スクーター一台。

 黄色く、丸みを帯びたフォルムが特徴的な、女子向けスクーターであった。


「それに久美お母さんにもジョーの事見張っとけって仰せ使ってるもの!」

「俺が先導してやってんじゃねぇのかよ」

「なんでも良いから早く行こ!」

「なんでも良いのかよ…」


 丈一も車庫から原付を持ってきて、とっととエンジンに火を入れる。

 こちらはスクーターでなく、ミッション付きであった。


「良いなージョーのバイクカッコ良いので〜」

「ただの牧用の原付オフロードバイクだろ。じいちゃんのお下がりだしよ」

「あんまスピード出さないでね。見失ったら迷子になるし」

「その時は一人で行ける様に練習だな」

「やーだよ」

「やれよ」

「ジョーと一緒に行かなきゃだし」

「…へいへい」


 そんな事言いながら、ボブカット頭にジェットヘルメット被る桜子。

 丈一もまたオフロードヘルメット被って、二人タイミング同じくして跨れば、山を降りる様に出発した。






 T県倉田市。市街地はそれなりに栄えているが、大通りを一本外れると、田畑の広がる典型的な片田舎である。

 その街外れで、丈一の家は牧場を家業とし、後ろを走る桜子も、その近所の養鶏場を営んでいた。

 また、山奥に住んでいるのもあり、小中と、学校という場所からは毎回遠かった二人。

 高校ともなるといよいよそれは顕著で、片道15kmも掛かる手前、バイクも原付なら通学許可が出ている程である。


「ねぇジョー、最近息白く無くなってない?」

「だな。もうそろそろマスク無しでも良いかもな」

「寒いと喉やられて嫌だったもんね〜ふぁぁ……」

「おい、運転中寝んなよ……ふぁ……」

「ジョーも寝不足じゃん!」

「違う。寝覚めが悪いだけだ……行くぞ」


 信号待ちで、妙な朝の共通項を話しつつ、青に変わって発進する二人。

 喉を痛めて、幼馴染のコロコロと鳴る、鈴の様な声の調子が悪くなると、自身も調子が狂いそうであった為か、コレからは気分が少し、楽になる気がした、丈一だった。


 




ーーーーーーーーーー


「斧田、進路希望、コレだけか?」

「まぁ、そうっすね」


 昼休み、担任の教師に職員室まで呼ばれた丈一。

 年季の入った高校故の暗さが余り好きでなく、加えて未だに喫煙スペース付きな、前時代的職員室なのが、一層そう思わせていた。

 一方で担任教師の四方田は、中年ながら非喫煙者なのは、辛うじてマシと思っていたが。


「第一志望、家業を継いでの就職、第二志望、県内の農業大…」

「まぁ、一応酪農継ぐ気ではあるんで」

「いや、その気概はとても感心だし、今時一次産業も大変な時勢だから凄く偉いと思うが、もっとこう、したい事とか無いのか?」

「……もう少し牧場の設備改修したい…かな」

「そういう…まぁ、そうか。いや、一年でコレ聞くのもまだ早いとは思うが、斧田は成績も悪くは無いし。家業手伝いの賜物でもあるだろうが、身長はコレからだが体格も良い」

「そっすね。身長はコレから」


 褒める時に飴と鞭のバランスを考えているのは、長年の教師生活で得たテクニックだろうかと思った丈一。



「だから、別にそんなに直ぐ決めなくても良いんだぞ」

「まぁでもかれこれ十年は考えてますからねぇ」

「うむ………ふぅ」

「あ、何か困らせる事言ってます?俺」

「あぁいや、最近寝不足でな。夢見心地が悪いんだ」

「あ、そこは先生に同意です。俺もめっちゃ眠いっす」

「中年と十代じゃ比較にならんぞ」


 だが、今朝の通学途中の桜子といい、寧ろ同じ様な眠気、睡魔に襲われているかの様な、妙な感覚をおぼえていた。






「えっと…来月の文化祭での装飾担当、玉野君ともう一人、誰か名乗り出て貰えるとありがたいんだけど…」


 眠気も相俟って早々に帰りたい中でのホームルーム。

 学級委員長と、担当の小柄な男子生徒が一人、少し後ろめたそうに尋ねてるが、案の定この手の立候補は誰も手を挙げない、ジリ貧コースが決まっていると、諦観の雰囲気がクラスを包み込んでいた。


「俺大会ちけーよ」

「あたしも来週地区大ー」

「ウチも発表会あるわー」

「あーじゃあその、出来たら部活やってない人に担当してもらえるとこっちとしては助かるかな…」


 部活勢はこういう時に断る理由を簡単に拵えられるからラクである。

 学校に来るスタンスの主軸が校舎外だものな。

 等と丈一が考えでいれば、自然と矢印は向き。


「あの、斧田君とか……どう?」

「俺は家の事があるから出来ないよ」


 変な期待をさせて落胆させても申し訳ない為、スパッと断るのが信条の丈一。

 しかして、昔からそういう事を言えば、「大した仕事でもねーだろ」とか「ホントは手伝って無いんじゃないの」とか、ボソボソ言ってきたりするのも知っていた。

 そうなると内心『生憎お前らの大半が朝練行く日より早起きなのだが』と思うものの、一々相手するだけ無駄であった。


「そっか……えっとじゃあ………」


 委員長がその後も何人か誘ってみたが、誰も彼も反応は乏しく、結局この日も話は持ち越しとなった。







ーーーーーーーーーー


 『部活というのは、自主的にやるものなんだろうが、何故かそれを理由に物事を断る時は、受動的な体で、やらされてるからといった風体で使う。少なくとも能動的には見えない。

 若者が夢を持てなくなった時代だなんて年寄り達は言うが、雁字搦めにされて生きる俺達には、光明を自発的に見つけるのも難しい気がする。

 俺は、牛と牧場、酪農という道が拓かれているだけ、絡め取られているモノは少ないのだろうが』


「うぅ…何で教室棟のトイレ、大が全部使用中なんだよ…」


 斧田丈一がそんな事を考えながら、理科棟トイレから出れば、見える風景が一つ。


「オイ玉野、一々足引っ張ってんじゃねーよ」

「あんさー、美術部なんだから一人で出来んしょ〜?」

「つかオタク絵描くの得意だろ?」

「あの…でもこの大きさは流石に一人だと…」


 男二人、女一人、三人掛かりで空き教室で詰める光景に、芸の無い連中だなぁと思う丈一。

 そもそも、本当に部活で忙しいのならこんな所で他人に構ってる暇など無いのではあるが。


「うっせーよ。良いから一人でやるって言っとけオタク。クソダルくて眠ぃのにヨォ」

「佐野分かるわ〜マジ眠たみ〜。つか何の絵描いてんの〜?アニメのエロい女の子のヤツ〜?キモいんだけど〜」

「自分で描いてシコってんのか〜?ハハハハハハ!!ファ〜あ…」

「オイ酒谷寝てんじゃねー」

「いって!佐野もアクビかいてんじゃんよぉ〜」


「………」


 

 今日は嫌な所で俺と共通項だらけだなと思う丈一。

 加えてその相手が桜子以外、余り心象が良く無いと来ている。


「あの、僕は…今度の展覧会用の絵を描いてて「んなんどーでも良いからよ」あっ!」


 引ったくられたスケッチブックが、何ページか捲れながら宙を舞い、丈一の足下へ落ちた。

 描かれたモノが、眼に留まる。


「マジあんま手間掛けてっと……学校来たく無くなっかんな?」

「ちょっと佐野コワ〜」

「玉野のタマ取れちまうぞー?」

「あ…………なら「綺麗な山だな。ウチの近くの山に似てる」!斧田くん…」


 その絵は、青々とした山緑と、透き通った青空のコントラストが落ち着く、一目で心が穏やかになる絵だった。風景画だろうか。

 斧田家の牛舎から見える景色に、少し似ていた。


「オイ斧田ァ。牛乳野郎は帰って乳絞ってろよ?」

「手つきエロそ〜」

「むっつりスケベなんじゃね?」

「うるせぇよ貧乳とバカスケベ。ねみぃなら帰って寝ろ。俺は明日も朝が早い」

「はぁ!?サイアク!」

「二つも言うなよ!!」


 図星なんだな。と得心する丈一、

 とはいえ自分を顧みる事も大事な事だと思っていた。


「あとお前……名前分かんない真ん中、恐喝してる時間を部活の練習に充てろよ」

「ッ…何が名前わかんな………っ!!??」


 リーダー格が、丈一の肩を押す。

 だが、その身体を1ミリも押せないまま、反動で自分で後ろに吹っ飛んでしまった。


「…バックステップ。の、練習?」

「〜〜〜うっせ!んだコイツ!!オイ行くぞ!!!」

「あっちょ!!」

「待てよぉ佐野ぉ〜!!」


 文字通りのトンズラといった体で、素早く居なくなった三人。

 『ちゃんと部活中に体幹鍛える練習しといた方が良いぞ』

 とは言わないでおいた丈一であった。


「ほいコレ」

「あっありがとう斧田くん。あの…」

「!だからって装飾係は無理だからさ。じゃっ」

「えっ、いやそうじゃなくて!」


 まだ何か言いた気な玉野に早々に別れを告げ、とっとと単車に乗って帰らねばと、駐輪場へ走り出した。







「どったんジョー。いつにも増して仏頂面」

「お前みたくコロコロ表情変わる程顔面忙しくねーよ」


 駐輪場で桜子と落ち合う。

 相変わらず帰りも先導が無いと帰れんと待ち続けていた幼馴染の少女。

 『女は方向感覚が弱い』という、大分バイアスの掛かったパブリックイメージの度を超えている気もする、丈一だった。


「職員室呼び出されてたりしたんでしょ?わかった!バイクのふせーかいぞーだ」

「ちげーよ。色々だ。あ、そうだ。母ちゃんが帰りウチ寄って、余りのチーズとバター持ってけって」

「!マジ?やったー!久美お母さんの乳製品大好きー!」


 ぴょんぴょんと喜んで跳ねる桜子。

 連動して激しく揺れるバストに、思わず視線を逸らす丈一だった。


「……ちゃんと辿り着けたらな」

「あ、ちょっと!先行かんでよ!!道分からんし〜!なんか眠いし〜!」

「後者は俺も同じだからとっとと帰んぞー」


 一発エンジンを吹かして、早々に帰路に着く二人。

 兎に角眠気が邪魔だが、渡す物を桜子に渡したら、早く明日のエサの、干し草の天日干しの準備をしなければと、意気込んだ丈一だった。



 等と思っていたのも束の間。


「…あと少しで着……!!!」


 下校路の交差点。

 青に変わって発進する二人の横から、ノーブレーキで信号無視をして、突っ込んで来ようとする車。

 辛うじて丈一はフルブレーキで止まり、桜子にも思い切り左手を伸ばして合図を送り、止まる事に成功させてはいたが。


「……ご…ごめんなさい…!」


 窓から顔を出して謝る運転手。

 文句を言いたくなる丈一の目に映る、その『クマだらけの寝不足の目』に、底知れない恐怖を、覚えていた。







つづく

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