第8話二国の過去
むかし、
かれこれ500年はゆうに遡るだろうか?
その時の殷と羌族は、とても仲が良かった。
侍従関係を結んではいたが、それはどちらが上というものではなく、お互いが尊敬の念を抱いていたからこそ、出来たのである。
しかしいつの頃からだろうか。
その関係は砂山のように、徐々に崩れ始める。
“これ以上放っておけば、いつか彼等に滅ぼされてしまうかもしれない……”
そんな、まるで高い壁が音もなく迫り来る恐怖に耐えかねた
だが、それ以上に彼らの存在そのものを消そうと考えたのだろう。
それどころか、
しかし、
事実、数回に一度は
それでも多勢に無勢、
兎に角自分達に出来る術があるのなら、諦めずにに戦い続ける。
だが、何かが足りずに次々と仲間の集落が、跡形もなく
そうしているうちに、
奴隷となった
勿論、この他にも神の貢ぎ物-いわゆる生け贄-にされ、息を返さぬようにと首から上を切り離される形で埋葬される。
他にもまだあるが、これ以上は残酷極まりない表現になる為、読者のご想像に任せよう。
だが
それでも無意識とはいえ、戦いの場に足を運ぼうとしないのは、きっと頭の何処かで、平和だった村に
今でさえ、淡々とした表情で話を進める
「それで散り散りになったと思われる、わしの一族の生き残りは、今はどうしているのです?」
静かに見守る
(結果論として仲間はいない)
“だから、訊いても虚しいだけ”と、彼は心の中で糠喜びする自分を嗤った。
「生き残りはいないと聞いている」
「矢張り」
「しかし、それは見せかけの情報に過ぎない」
「?」
「そういう噂を広めなければ、
「あっ!」
それと同時に自分の胸の奥に広がっていた諦めにも似た感情が、ゆっくりと消えていった。
「師匠、という事は」
入り口から入ってくる涼やかな風に背中を押させるように、呂望は期待に満ちた瞳で訊ねる。
「
そこには仲間もいるから、安心しなさい」
“大分年齢はいっていると思うが”と、言葉を付け足した
「そ、それは嬉しいのう……」
ずっと……心の奥に押さえつけていた感情。
人前では出してはならないと常日頃から言い聞かせ、自分で自分を思った通りに動かせなかった日々が、本当は辛くて辛くてどうしようもなかった。
ただ、本来の自分ではない“何者か”を演じることによって、少なからず
「かなり無理をしていたようだな」
「えっ……?」
気付けば黒色の双眸から一筋の涙が頬を伝っていた。
“そんなことは……ない”
そう言い張りたかったが、心とは裏腹に
「わしは矢張り無理をしておったようです」
と、素直な気持ちを打ち明ける。
ややあって落ち着きを取り戻した頃。
「師匠、
「行ってきなさい」
「出発の朝に渡したいものがあるから、楽しみにしておきなさい」
と、何処か嬉しそうに、まだ緊張している素振りを見せる
斯くして、
これから何が起こるのか分からないが、それも含めて楽しもうと心に誓ったのだった。
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