第2話 結婚式・後編
柚梪との誓いのキスが終わり、場所はパーティー会場へ。シャンデリアに4人用の白い円形テーブルに花の模様が施された赤い床。
テーブルの上には蝋燭や花が飾られており、会場の中央には2段に積み上げられた薄いピンク色のケーキがある。
「では、まず最初に………一流のコックによって作られたケーキに、新郎様と新婦様による入刀を行わせて頂きます。それでは、新郎様と新婦様はケーキの前へ」
男性のスタッフさんの指示に従い、俺は柚梪に手を差しのべ、新郎・新婦の席から2人で軽く手を繋ぎながら、会場の中央にある美味しそうなケーキの前に移動。
そして、会場の端で待機していた女性のスタッフさんが、銀の四角いお盆に乗った、刃に白い布が巻かれた特製の包丁を持って来てくれる。
「さあ、どうぞお持ちください。お気をつけて下さいね」
女性スタッフさんは、白い布を外す。すると、シャンデリアから放たれる光に反射する綺麗な銀の刃がその姿を現す。
まずは柚梪が包丁の持ち手を両手で握り、持ち手を握った柚梪の両手をさらに上から俺の両手で優しく握る。
俺と柚梪は、夫婦になって初めての共同作業に緊張しながらも、ケーキの2段目の中央辺りに包丁の先端を持っていく。
「それでは、新郎・新婦様による入刀です!! どうぞっ!!!」
スタッフさんの合図の後、俺と柚梪はお互いに視線を交わし合う。
「いくよ、柚梪」
「はいっ」
『せーのっ』
2人で小さく掛け声を合わせながら、俺と柚梪は包丁をケーキに差し込み、一番下まで切りきった。その瞬間、俺と柚梪の入刀を見ていた家族や知人は皆して拍手をし始めた。
「………! 切れましたっ!!」
「あぁ。上手く切れてよかったな」
包丁をスタッフさんの持っているお盆にそっと戻すと、柚梪は嬉しそうな顔で俺の事を上目遣いで見つめてくる。そんな可愛い柚梪に、俺はニコッと微笑んだ。
「それでは、新郎様と新婦様は席の前におこし下さい」
スタッフさんの指示通りに、俺は柚梪と軽く手を繋ぎながら、会場のステージ前に移動する。
「ではこのまま、次に新婦様による皆様へのお手紙になります。それでは、新婦………如月柚梪様。お願いします」
「………はいっ」
スタッフさんの合図により、別のスタッフさんがマイク付きのスタンドを柚梪の前へ持って来てくれる。同時に、スタッフさんから自分で書いた手紙を受け取った。
「スー………ハァー………」
柚梪は緊張をほぐす為に、右手を胸の上に当てて深く深呼吸をする。
「では、読ませて頂きます」
柚梪はマイクに向かってそう言うと、手紙を開き始める。そして、手紙に書かれた内容を心を込めて音読する。
「まずは、私達の為に貴重なお時間を使って結婚式に来てくださり、誠にありがとうございます。私は元々、厳しい家系の娘として産まれ、才能が無い私はひどく、辛い年月を過ごして来ました。挙句の果てには、実の父親から捨てられ、生きる理由を失っていました。ですが、そこで手を差しのべてくださった龍夜さん。それから、色々な事を教えてくださった妹さんなど、今日この日まで多くの人にお世話になりました」
手紙に書かれた長い気持ちを、柚梪は今この会場に居る全ての人に伝わるように、必死に読み上げ続ける。
「皆さんは本当に心暖かくて、どう言葉にすれば良いか分かりません。けど、私が最も感謝を伝えたいのは、龍夜さん本人です。当時、虫が集るほど汚く絶望していた私に、『生きる価値』を教えてくださいました。今日こうして、愛する龍夜さんと結婚式を迎えられたのも、龍夜さんが私にたくさんの愛を注いでくれたからでもあるのです。なので、今ここで再度感謝を伝えたいと思います………」
柚梪は手紙を折り畳むと、俺の方に体ごと振り向き、俺の目をじっと見つめる。花嫁姿の柚梪は、満面の笑顔を見せると、
「龍夜さん。こんな私に………生きる価値を、幸せを教えてくださり………本当に、ありがとうございますっ!!」
「………どういたしまして」
その言葉に、スタッフさん全員を含めて会場内に拍手が響き渡る。すぐにマイクへ全身を向けると、柚梪は「ありがとうござました」と言って、深く一礼をした。
「以上、新婦様によるお手紙でした! これより、お食事の準備をいたしますので、少々お待ちくださいませ」
男性のスタッフさんがそう言うと同時に、俺と柚梪はステージ上の特別な席へと戻って行く。
やがて、料理に飲み物にデザートのケーキと様々な食事を堪能したり、家族と会話をしたり、記念に写真を撮ったりと、楽しい時間を過ごした。
「はーい、皆さーん! 新郎・新婦様にもっと寄って~! はい、撮りますよー! 3・2・1………」
パシャッ!
そして、時間はあっという間に過ぎて、最後に結婚式場を背景に外で皆と一緒に集合写真を撮影。
撮影が終わると、俺と柚梪は10階ほどの階段を登って結婚式場の入り口前に立つと、階段の下から父さんや母さん、彩音が手を振ってくる。
「さぁ、柚梪。思いっきり空へ向かって投げるんだぞ」
「はい。もちろんですっ」
柚梪は一歩前に出ると、両手に握ったブーケを思いっきり下から空へと向かって、「えいっ!!!」と可愛い声を発しながら投げた。
柚梪の投げたブーケは、青空の下を可憐に舞って、俺と柚梪の結婚式無事終了を示したのだった。
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