短編、掌編集
式根風座
静けさに満ちた夜
眠くはないが、動きたくもない。そんな深夜の0時の事だ。
自分の身体が勝手に動くことを期待してラジオをかけてはみたものの、ノートはボツボツと殴り書きだけがある状態だった。
いっそ全部消してしまえば東北地方の新雪のような厚くて真っ白な見開きに見えるのだが、生憎と都会の薄い、砂混じりのような汚れた雪の色合いといった具合だ。
「……駄目だダメダメ。コンビニ行こ」
財布を手に取ったものの、中には1000円と入っていなかった。けれどやる事は変わらない。昼に着ていった上着をパジャマの上からもう一度羽織り、誰に行ってきますとも言わず外に出る。
初春が近いとはいえ、夜はまだ寒さが残っていた。アパートの階段は神社の柏手のようにカンカンと響く。3階分も降りれば少しは神さまも見てくれるだろうか。一旦降りきってしまった後は3分と掛からない。もう閉まっているパン屋とチェーン店の前を通り過ぎ、コンビニへと辿り着いた。
「…………」
挨拶の無いコンビニ。深夜にいらっしゃいませと言われても困るし、どうせこっちも返事はしない。
まずはATMの残高を確認。次いでチケット情報を流し見し、コーヒーメーカーの傍のスティックシュガーとガムシロップを頂く。
左手はカゴを、右手はエナジードリンクを二本取り、雑誌の前でカゴを下ろす。そのまま漫画雑誌を読むのがいつもの流れだ。
エナジードリンクが二本の時点で財布の残りは300円と無い筈で、必然雑誌を買う金はなくなる。
外の景色も、客も、店内放送も、代わり映えがしない。つい2週間前も同じだったような気がして、漫画の展開すらデジャヴに支配される。そう思うと途端につまらなくなって、腹が減ってきたのを思い出したように自覚した。
(……帰るか)
カップ麵も最近は高くなっちまってると思いながら、1個を手に取る。レジに向かう際、ただ一つポツンと残っているホットスナックのチキンが目につく。デジャヴの流れを断ち切りたくて、購入した。ひっくり返す方が早いと、財布を逆さまにぶちまける。店員が袋に詰める合間に数えていた。500、600……。
「あ」
「?」
「あの、すいません。ちょっと足りないや」
金額に対し、30円ほど足りない。店員が『何だって?』と聞き返す頃にはホットスナックは袋に詰めてテープを貼っていた頃だった。俺はまだ袋に入っていないカップ麵を手に取り、慌てて値引きシールの棚のカップ麵と入れ替える。しょうゆ味から、期間限定の売れ残りの「辛豚骨」味に変わってしまった。
「カップ麵、こっちに変えてもいいですか?」
「……分かりました」
その時の店員は少し面倒くさそうな顔をして、レジを終える。流石にその時は挨拶をされた。向こうも雑誌をタダ読みして帰る奴だと認識しているに違いない。
(……情けねえなホント)
店内でカップ麵の蓋を取り、湯沸かしポットからお湯を貰う。
イートインなんてものはなく、あったとしても外で食べたい気分だった。
出来上がるまでにチキンを頬張り、呑み込み終えれば3分と待たず蓋を開けた。
まだ硬い麺を箸でかき混ぜ、スープに浸るようにしながら流し込む。
背の方では店員がバックヤードに引っ込んでしまっていた。
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