第16話 ブックマンのルール説明① 【日曜日:Sunday】
出版ゲームのルール説明? ここにいるみんながみんな出版できるってわけじゃないのか?
それも当然か。
こんな好条件で全員本が出せるわけがない。
――まずは最初に。すでにおひとり様につき一万ポイントが付与されています。誰かが死ねばその保有ポイントが生存者に均等に分配されます。なお小数点以下は切り捨てとなっておりまのでご了承ください。またポイントがゼロを
今、ブックマン死ねばって言ったよな? 死ねばってあの死? いやあの死しかないよな? 死ぬほど頑張らないと本なんて出せないぞってことか。
この時代にそんなブラックな条件は大問題だろう、なんて俺はすこしも思わない。
出版社だって命懸けなんだから。
俺がどれだけ書いては落ち、また書いては落ちを繰り返してきたか。
こんなに辛いならと死を願った日だってある。
だから死ぬほど頑張る。
それくらいの覚悟がないと出版なんかできない。
――例をあげてみましょう。現在ここに八人の作家志望のかたがいます。ちなみにこの空間にいるのは八人だけ。他に人は存在していません。
やっぱりここには俺ら八人しかいないんだ。
これは大切な情報だ。
単純計算で八人のうち誰かが本を出版できることは決定済み。
八分の一で出版できるなんて四次選考くらいまである公募の最終選考に残ったようなもんじゃん。
俺らはすでになにかしらの選考条件をクリアしてきたってことなのかもしれない。じゃなきゃこんな破格の条件で本が出せるなんてことはない。
――八人の中でひとりが亡くなった場合、それぞれに千四百二十八.五七……の小数点以下切り捨て千四百二十八ポイントが生存者七人に分配されます。すなわち七人の生存者のかたの持ち点は一万千四百二十八ポイントとなります。
なるほど。
ここまでのルールはわりと単純だ。
――つぎにここでいう死とはお集まりのみなさんが物理的に誰かの命を奪う場合の死と、ポイント数の条件によって行使される死があります。まあ、死ななければいいだけですけど。生き残った最高得点のかたが夢を叶えることができます。
はっ? 誰かの命を奪うって殺し合うってことか? いやいや、ここにいる誰もそんなことしないって。
ブックマンも最初に出版ゲームって言ってたし。
それくらいのサバイバルな環境にいるんだぞってことだ。
――仮に最高得点者が同率で並んだ場合はネクストステージにて決着をつけさていただきます。夢を叶えられるかたはすべてをひっくるめてこの施設内で最高得点をとったかたおひとりのみ。
やっぱりこれって出版を賭けたサバゲー的なそういうテイのゲームだ。
――ポイントを貯めるにはどうすればいいかですが、誰かの死による分配ポイントと、ちょっとしたミニゲームによるポイント。さきほどの私が三木元様に付与したようなポイントのことです。ミニゲームのポイントは最低二ポイント、最高が五ポイントまでとなっておりますのでそこまで気にしなくても大丈夫です。ただ塵が積もっていけば山になります。
「ブックマンいまのは誤用ってことでいいのかな?」
「007」宮野さんが指摘した。
なにかおかしい点ってあったか? 俺は気づかなかった。
「塵
――これは言い回しによる違いなのですが宮野さんにも二ポイントのブックマンポイントを贈呈させていただきます。このミニゲームはゲームマスターの私ブックマンの一存で決定させていただきますことをご理解ください。
「たしかに口語だと塵
宮野さんはすぐに受け入れた。
――いえいえ。つづきです。生存ポイントは一時間ごとに生きている人に均等に与えられるポイントで百ポイントが付与されます。一時間の生存判定は
サバゲー的要素どんどん追加してくるな。
――また、生死の判定ですが、みなさんの手首にあるスマートウォッチがひとつ。これは完全防水ですので水に浸けても大丈夫。スマートウォッチをしたままお風呂に入ることもできます。正式にはスマートウォッチ風の当社オリジナルデバイスでこの時計が呼吸や脈拍と連動しています。みなさんの腕につけられているデバイスが各個人を心肺停止とした判断した時点で「死」です。なお誰か死んだ場合の分配ポイントはその日の零時を回った瞬間に付与されます。最終日に関しましては複数の生存者が存在し、誰かが死んだ場合は多少の時差はありますが当日中に分配ポイントが付与されます。
「つまりは最終日以外、誰が死んだのかすぐにはわからないってことでしょうか?」
「008」の門倉さんがブックマンに控えめに訊いた。
――イエ~~~ス! そのとおり!
これは参考になった。
門倉さんとは真逆でブックマンのテンションが高い。
――手首から無理にデバイスを外そうとした場合は、ものすごい電流が体中を駆け巡って真っ黒コゲになっちゃいますのでくれぐれも乱暴には扱わないでくださいねー!
やっぱりこのスマートウォッチを外そうとすれば電気が流れるのか? あの静電気のようなビリビリはそういう仕掛けだったからだ。
あのとき俺は死にかけたってことか? マジで俺らを殺す気なのか? 何人かの人は恐る恐るスマートウォッチのバンドを引っ張って確認している。
ビリやバッっという音とともに驚く声や、マジかとか痛いって声が聞こえた。
「さっきから死ぬだ殺すだって冗談だろ?」
「006」は誰もが訊きたかったことをブックマンにストレートに問い質している。
――いいえ。本当ですよー!
口には出さないけど三木元さんがいちばん腹を立ててるみたいだ。
苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
死ぬだ殺すだなんてのは、最近漫画でも映画でもゲームでもポップに扱われるからな。
世代間ギャップがあるんだろう。
それを証拠に他の人はあまり真に受けていないようだった。
この手のデスゲームっては最初に誰かが犠牲になってその恐怖から物語が進行していくパターンが多い。
今は俺らの中で誰ひとり犠牲になってない。
ふつうならもうひとりくらい死んでていいころだろう。
「それってブックマン側、まあ、いわゆる運営側が参加者を殺すってことか?」
――いえいえ。殺す、殺されるはそこにいる八人のみなさんの行動しだいです。こちら側が直接手をくだすことはありませんのでそこはご安心ください。
だよな。
結局、ポイントいちばん多く集めれば出版決定なんだから。
これはやっぱりゲームなんだ。
運営が殺す殺さないをしてたら警察沙汰だし。
俺らを連れてきたのももしかしたら警察沙汰になるかも。
でもな、あの封筒の中身を見て説明会に行ったのは俺だ。
そして出版に関する契約書を見てサインしたのも俺だ。
他のみんなもそうなんだろう。
どっちに非があるのかを決めるのは難しい。
こういう参加者体験型のゲームってそういうものだ。
「ちっ。わかったよ」
「006」はあっけなく引き下がっていった。
この人もポイントいちばん多く集めれば出版決定なのを理解したからだろう。
――ちなみに現在のみなさんのポイントがこちらです。
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