第5話 招待状②

 封筒から紙を出した瞬間にでかでかと書かれていたのは「招待状」の三文字と「おめでとうございます。当選されたあなたへの特別企画」という仰々しい一文だった。

 そこに権威づけるためなのかなんなのか右上には金のメダルと栞が合わさったようなマークまである。

 最初に上げておいて最後に出版するにはこれだけの費用が必要ですってパターンか? 重なってもう一枚紙が同封されていた。


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 あなたの夢叶えます!


 協賛 企画賛同出版社一同


 優秀賞 書籍化(商業出版) ※該当作品がない場合もあります。


 特別賞 書籍化(商業出版) ※該当作品がない場合もあります。


※選外でも運営推薦で商業出版される可能性があります。


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 「あなたの夢叶えます!」だけが特別に大きな文字と太字フォントでやけに強調されている。

 自費出版じゃなくちゃんと商業出版って書いてあるけどこれって詐欺師が自分で詐欺じゃありませんって言ってるようなもんだろ。


 誰かのいたずらか? そういや俺ってけっこう周りに作家志望って言ってたなと自省する。

 バイト中の俺をどこかからスマホで撮ってあいつあんなに舞い上がってるじゃんって動画サイトにアップされるとか、か?

 

 人の夢をもてあそびやがって、あっ!?

 う、うそ、俺が過去に公募に応募した作品の一覧が載ってる。

 

 紙の下に折り畳まれるようにして俺の公募歴の欄が存在していた。

 迷走に迷走を重ねて時代小説の賞に送ったのまである。

 うわっ、これなんて十数年前に初めて送ったやつだ。

 こっちはケータイ小説の賞に応募した小説。

 

 こんな一覧表を作れるなんて俺本人以外じゃなければ原稿を送った出版社くらいだよな? 俺にストーカーがいるとしても過去の作品で使った構成を解体し新作で再構築してるのもあるからさすがにこれだけの作品の情報を集めるは無理だろ。


 もうこの世には存在してない作品まで載ってるし。

 なつかし~これも送ったな~。

 書き慣れてきて過去作品を読み直してあまりのひどさにPCから削除したものまである。 

 よくあんな完成度で賞に応募したなと逆に自分で感心するわ。

 無知とは恐ろしい。

 

 仮にその作品をいま出版しようとなってももう俺の手元に原稿はない。

 送った出版社にはまだあるのか?

 

 でもよくこれだけ俺が応募してきた小説の情報を集めたもんだ。

 俺はもう一度封筒の裏を見返した。

 

 「総合出版社財団」


 総合出版社か……。

 総合っていうくらいなんだから、いろんな出版社が集まってるって意味にとれるよな。

 もしかして大手出版社が集まって俺のように公募で落ちつづけているワナビーに救いの手を差し伸べてやるかってことか? 協賛のところにも企画賛同出版社一同ってあるし。


 日本の三大週刊少年漫画の二誌がじつはグループ会社ってのはあまり知られていない話だよな。

 経済用語でいう資本関係だっけ? 小説で二大文学賞を輩出しているくらい有名な出版社と別のある出版社も、じつは系列会社ってところもあった。

 あれは税金対策で別会社を作ったときいたことがある。

 経済はあんまり詳しくなけど「総合出版社財団」っていうそういう出版社の集まりが存在してるのかもしれない。

 

 これは信頼に値すると思っていいだろう。

 マジなやつだ。

 ワナビー十数年にして俺にもようやくチャンスが巡ってきたかもしれない。

 軽くガッツポーズをしながら目の前にあるスマホを手にとり画面をタップする。


 検索サイトで「総合出版社財団」を検索してみるけど正確に一致する言葉はなかった。

 「総合図鑑」「出版社」のように単語が分かれてヒットはしてる。

 もう一回だ。

 俺は何度か検索をつづけそのたびに画面を下にスクロールさせていったけどやっぱり完全に一致する出版社はなかった。


 もし俺のようなワナビーに救いの手を与えるならそこまで大々的に宣伝なんてしないか。

 

 俺は送ってきた原稿一覧の下には説明会会場という文字ととも簡略的な地図があった。

 印鑑など説明会当日に必要なものも書かれている。


 俺がそこで目に留めたのは説明会の会場の部分にある総合出版社財団サテライトオフィスという一文だった。

 サテライトオフィスってことは別にちゃんとしたオフィスがあるってことだ。

 俺がイメージする出版社は何十階もの高層のビルで、一階は受付のみで、二階からは各編集部になっています的な近代的なビルだ。

 ああ、妄想が膨らんでいく。


 でもこのサテライトオフィスってあらかじめ俺が行きやすいように近くに開設してくれたのか? いや、きっと俺以外にもこの封筒が届いた人がいてその人たちが集まりやすいハブ的な位置がここだったんだろう。


 説明会の日付は断定はされていなくて、何日から何日のあいだの都合の良い日にお越しくださいとなっている。

 意外とゆとりがある。


 ただ、そのあいだに行かないと俺の参加権は別の誰かに譲渡されるらしいからそこだけは注意が必要だ。

 俺にこんなチャンス二度とこないかもしれない。

 絶対に逃さないようにしないと。


 予約も不要でこの用紙を持参していくことが説明会の受付になるということだ。

 この紙を持っている人、イコール参加権のある人ということでわかりやすい。


 説明会の時間も朝の九時から夜五時までときっちりしてる。

 大手出版社が関わっている以上時間管理もしっかりしてるんだろう。


 コンビニバイトの俺にとっては日程の都合はつけやすい。

 いや、こういうときのために時間の融通が利くところで働いてきたんだ。

 

 俺は座卓の上からスマホをとり絡まっていたイヤフォンを抜きバイトのシフトを確認するためカレンダーアプリを起動させた。

 一週間先までの勤務表の画面をスライドさせていく。

 しばらく昼勤シフトだからどこかでシフト変更ができないか明日、店長に相談してみよう。


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