第13話 大広間 【日曜日:Sunday】
大広間にはすでに人がいた。
この部屋も俺がいた「002」の部屋や廊下と同じで消臭剤のニオイがしている。
大広間は大きな円形で余計なものは何も置かれていない。
腕を組みながら俺のことを見てる大柄の男もいるし、壁にもたれてしゃがんでいる老人の男もいた。
しゃがんでいても小柄なのがわかる。
右膝を立てて座っている細身な男の人もいる。
この人もその老人と同じくらいに小柄だ。
もうひとり膝を抱えながら座っている娘はポニーテールのいわゆる眼鏡っ娘。
青いつなぎに「003」という数字が見えた。
眼鏡っ娘が「003」で俺が「002」なんだから隣の部屋の人か。
逆に「001」が見当たらない。
腕を組んでる人としゃがんでいる老人と右膝を立てている男の人の番号はわからない。
「やあ」
甘いかんじで声をかけてきたのは細見で少しウェーブがかかった目がきりっとした年上っぽい男の人だった。
こういう人を世の中では雰囲気イケメンって呼ぶんだろう。
「あ、どうも」
俺もお辞儀で返した。
その人も例にもれず青いつなぎを着ていて胸に「007」という番号が縫われていた。
態勢よって番号が見えないだけで、おそらく全員が青いつなぎに番号があるんだろう。
なんせそれぞれの廊下の出口にも白地に黒い文字の「001」「002」「003」「004」「005」「006」「007」「008」というプレートがあるからだ。
青いつなぎの番号と部屋の番号はイコールだろう。
「あの、ここってどこなんでしょうか?」
「僕も知らない」
何か知ってるのかと思って訊き返したけど知らなかった。
甘いかんじの声は地声なんだ。
「ここには番号001、002、003、004、005、006、007、008までの八人がいるようだね」
「僕もそう思います」
「わかりやすいから気づくよね。僕は007番のみやのりょう」
その人は「みやのりょう」と名乗った。
数回の会話のやりとりをして物腰の柔らかい人だと思った。
「あっ、俺は
俺は大げさに「002」の刺繍を掴んでみせた。
「へー。もろぼしくんか?」
「はい」
大広間には三台のモニターが壁にはまっていた。
三台とも同じくらいのサイズで家電量販店にあるテレビでいえば六十五インチくらいはありそうだ。
家電量販店だと大きなテレビがたくさんありすぎて目が錯覚するのと同じようにこの大広間じゃそのモニターもそんなに大きくはかんじなかった。
いまの俺から見ていちばん左のモニターは電光掲示板になっている。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」「H」「I」「J」「K」「L」「M」
「N」「O」「P」「Q」「R」「S」「T」「U」「V」「W」「X」「Y」「Z」
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AからZまでのアルファベット二十六文字があってそのなかで点灯しているアルファベットと点灯していないアルファベットがある。
今LEDが点灯しているアルファベットは「F」「M」「S」「W」の四つだ。
なんだろこれ?
「よろしく」
「はい」
俺はみやのさんと握手を交わす。
こんなことを言っちゃなんだけど手もきれいだ。
みやのさんがこの手でキーボードを打ってるのが想像できた。
雰囲気だけじゃなく全体がスマートだ。
中央のモニターとその右横のモニターは真っ暗なまんまで画面に一言「しばらくお待ちください。」という放送事故のような文字浮かんでいた。
大広間はこの三連モニターを十二時の位置にして反時計回りに「001」「002」「003」「004」の部屋が配置されているようだ。
三連モニターの真反対の位置にある扉は扉の真ん中に縦線が入っていて左右に分かれているからおそらくエレベーターだろう。
よく見かける特徴的な押しボタンが右側に並んでいた。
ただボタンは上を向いた正三角形のひとつだけしかない。
これ以上、下にエレベーターは降りないってことか? それにエレベーターの左右の扉が横長なのも気になる。
俺、いや俺らはあそこからここに連れてこられたのか? エレベーターを六時の位置と考えて五時、四時、三時の方向に「005」「006」「007」「008」の部屋が割り振られている。
簡単に言えば俺が今いるこの大広間から放射状に部屋が配置されているということになる。
みやのさんは「007」だから俺が今いる位置の斜め右から大広間にやってきたんだ。
「007」を方向を見ていると「005」のプレートある廊下から青つなぎを着た誰かが顔をのぞかせた。
「003」の眼鏡っ娘と同じ年くらいの若い娘だった。
廊下の出口でいったん後ずさったあと数秒してまた顔を見せた。
「な~に、ここぉ。ゆうな。嫌になるな~」
”ゆうな”とは自分の名前だろう。
一人称が自分の下の名前で呼ぶタイプか。
それでも人がいることに安心したのか大広間に入ってきた。
壁際で腕を組んでいた「006」の人が右側を凝視している。
バラつきはあったけど他の人も同じ方向を見はじめた。
あっ、あっちからも誰かきた。
最後に姿を見せたのは「001」の廊下からきた謎の人物だった。
「001」も当然、青いつなぎを着ていて胸元にはちゃんと「001」という番号が縫われている。
顔をタオルで覆っていて目元以外の露出はない。
まずタオルをほっかむりのようして顎の下でタオルを結び、そこから口元をタオルで覆い隠すようにして後頭部付近で結んでいた。
あのタオルってクローゼットに置いてあったやつだ。
他の人の部屋にも俺の部屋にあったタオルと同じものが置いてあるのか。
「001」はそれを使って顔を隠したんだろう。
「001」はタオルで顔を隠したうえに青いつなぎという異様なかっこうで、どこかの建物を占拠した反社会組織のリーダーみたいだった。
これで俺を入れて「001」から「008」まで八部屋あるうちの八人がこの大広間に揃った。
ただ「001」、「002」、「003」、「004」、「005」、「006」、「007」、「008」のそれぞれの個人情報はわからない。
「001」、タオルマン。
「002」、俺。
「003」、眼鏡っ娘。
「004」、壁にもたれて座っている高齢の男の人。
「005」、一人称が”ゆうな”。
「006」、腕を組みながら部屋全体を観察している大柄な男。
「007」、みやのさん。
「008」、右の膝を立てて座っている小柄な男。この小柄っていうのは言い方が悪いけど貧相という言葉が似合う。
みやのさん以外、みんながそれぞれを警戒しているのがはっきりとわかった。
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