第7話 シフトチェンジ②
――オ゛ォォォォォォォォォォォ! オ゛ォォォォォォォォォォォ! オ゛ォォォォォォォォォォォ!
このタイミングで店内にシャーデンフロイデの
俺の気分も
――――SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。SEN・ZAI・ICHI・GU。
そっかデスメタルを愉しむってこういうことか。
――コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。――
「殺す」は「コロス」で死を連想させるんじゃなくて、ただ心の衝動を吐き出しているにすぎない。
この激しいノリが高揚感と相まってシャウトしたくなるかんじ。
ドラムを叩いたことはないけどスティックでも持ってドカドカやりたくなる。
恥ずかしながら俺はコンビニの窓辺でひとりドラムを叩くジェスチャーをしていた。
完全にシャーデンフロイデに影響された人みたいになった。
正気を取り戻してつぎの本を直していこう。
腕を組んだ比留間勇と目が合う。
紙に印刷されたものなのに眼光が鋭くものすごい闘志が伝わってくる。
よっぽど努力したんだろうな。
俺もやってやると頷く。
比留間勇とアイコンタクトを交わしその周囲にある雑誌を整え、その勢いのままコミック棚の整理まで終わらせる。
いったん引き返しカップ麺の棚にいき商品を最前列に出そうとしたけどそれほど乱れてはいなかった。
なぜかカップ麺はみんな手前からとっていくから不思議だ。
非常食のイメージがあって最初から保存の利く食べ物だからか?
この通路の商品棚をチェックし最後は電化製品の小物類売り場だ。
うちの店では無線のマウスやスマホの充電器だって売っている。
まあ、ここはそんなに売れ筋の商品があるわけじゃないから整えるまでもなかった。
店内に音が響いた。
入口のドアが開くとまるでトラップに引っかかったような音が鳴る。
誰かが店に入ってきた合図だ。
俺は入口を目視できないまましゃがんでいると商品棚の棚と棚のあいだからタブレットを持った店長がひょいと顔をのぞかせた。
「諸星くん」
店長は従業員専用の裏口から入ってくることもあるし店の周りや駐車場、ごみ箱の見回りをしてから客と同じ入口から入ってくることもある。
今日は後者だ。
とくにコンビニの顔であるごみ箱のチェックは大事だ。
いまだに家庭用のごみをコンビニのごみ箱に捨てていく人は多い。
なんで赤ちゃんのおむつが捨ててあるんだ? この国のモラルはどうなってるんだか。
俺は店長に名前を呼ばれ店長のもとへ駆け寄っていった。
「はい」
「僕らにはあまり関係ないと思うんだけど」
店長がタブレットを見ながらなにか操作をしている。
「はい。なんですか?」
「火曜日の深夜から早朝くらいまでサイトの緊急メンテナンスがあるんだって。いちおう心に留めておいて」
「わかりました」
「ただ、そのメンテナンス時間も暫定的で延長する可能性もあるから。お客さんに訊かれた場合すぐ答えられるようにね」
うちのコンビニの親会社は総合スーパーや不動産、飲食系フランチャイズ、ECサイトまで手広くやっている。
ECサイトで購入しても「5%付与」のキャッシュバック商品があってその場合のポイント付与日はまちまちだ。
メンテナンスによっては影響を受ける人もでるな。
ECサイトの品揃えはうちの店とは比較にならないほど多く、利用者だって相当な数にのぼるはずだ。
「はい。覚えておきます」
「よろしくね。ああ、あとこれうちの系列会社で働いてる人みんなに訊いてるんだけど。防災セットに入ってたら嬉しいものってある?」
店長はタブレットのなかのアンケートのページを俺の見せてきた。
「えー、そうですね」
俺は災害時あると便利な売れ線の商品をピックアップして伝えた。
親会社がオリジナルの防災セットを作ってることをいま初めて知った。
――オ゛ォォォォォォォォォォォ! オ゛ォォォォォォォォォォォ! オ゛ォォォォォォォォォォォ!
リピートされたシャーデンフロイデの
思い立ったが吉日で俺は店長にシフトをずらしてもらうように頼んだ。
店長はまたタブレットを操作して、二回うなずきOKと了承してくれた。
数時間勤務のアルバイトの人もいるからシフト変更の目途がついたんだろう。
ありがたい。
いまのいまでシフトを変更してくれるなんて幸先が良いな。
これで明日、説明会に行ける。
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