第25話

【リンカフレイフィールド・ファイアストーム視点】


 私は豚公爵に気に入られた。

 でも、あの公爵は気の強い女性を従わせることが好きな変態だ。

 そのくらいの情報は聞いていた。


 ピアスで体に穴を開けられる噂を聞いた。


 入れ墨で番号を入れられる噂を聞いた。


 鎖でつながれて鞭で打たれる噂を聞いた。


 電撃を流す首輪をつけられる噂を聞いた。



 しかも私のすべてを差し出しても15憶ある借金の内5憶しか返済できない。

 そんな時、友人の勧めで恋占いを勧められた。

 お金が無いと断ってもお金を払うから受けて欲しいと言われた。


 私を助ける為に、助けるヒントになると思って言ってくれた。

 何度も断った。

 断っても何度も何度も勧められて私は根負けした。


 そして占いを受けると私の運命の相手はフィール・バイブレーションだった。

 彼を見ても好きにはならなかった。

 確かに見た目は良いと思った。

 でも、それだけ。


 でも、彼は恋占いでたくさん稼いでいる。

 もし、私のすべてを差し出すだけでパパが助かるならそれでいい。

 私は必死で話をした。


 フィールに良く思われていない事は分かっていた。

 私はプライドが高くて気が強い、良く言われる。


 でも、見た目だけなら、夜の相手だけなら出来る。

 幸い両親のもとに生まれて見た目だけは恵まれていた。

 背は小さいけど。


 ラブハウスに入り、私を見る彼の目を見て思った。

 見た目だけは気に入られている。


 私は服を脱いで奴隷のような生活を出来る事を証明しようとするとフィールが私を止めてくれた。


 ああ、そうか、この人は、フィールは、善人なんだ。

 妖精と契約を出来る善人なんだ。


 豚伯爵とは真逆なんだ。


 更に借金を返す事を協力すると言ってくれた。

 フィールは訓練を優先したいと思っている、それは知っていた。

 ダンジョンはお金が手に入るけれど能力値の上昇は微妙だ。


 それでも協力すると言ってくれた。

 ラブハウスに入ってから私の心は変わっていった。

 フィールの事が、気になっている。


 もし、借金を返せなくても、彼のモノになるなら安心できる。

 豚伯爵よりも、フィールなら安心。


 最近睡眠不足だった私は、


 その日、


 ぐっすり眠れた。




 ◇





【次の日】


 放課後になるとフィールと一緒に中級ダンジョンに向かった。


「フィール、最初は初級ダンジョンに行くんじゃないの?」

「初級は、今日最後まで行って来たので中級からにしましょう」

「……そうなのね」


「実は、授業以外でパーティー戦をした事が無くて、色々教えて欲しいです」

「ふふん、任せておきなさい!」


 頼られると気分がいい。

 2人でダンジョンに入った。


「サーベルベアが4体出てきたわ!私の炎魔法で倒すわ!時間を稼いで!」

「はい!」


 サーベルのような長い爪を持ったクマがフィールに襲い掛かる。

 私は魔法の詠唱を始めた。


 あっという間にサーベルベア4体が剣で倒されて消えた。

 魔物が霧に変わり、魔石を落とす。


「終わりました」

「次に行きましょう」

「そ、そうね」


 2人で奥に進んだ。


「トレントよ!20体以上いるわ!私の範囲魔法で」


 フィールは風の中級魔法を素早く発動させて群れの数を減らし、剣で残りを倒した。


「次に行きましょう」

「……そ、そうね」


 基本私の役目は無くて、魔物は全部フィールが倒した。

 私が弱いわけじゃない。

 実技の成績は良かった。

 体力や速力はそこまでではないけど、魔力が強い。


 炎魔法には自信があった。

 それでもフィールが素早く魔物を倒していく。


 夏休み前の試合は見ていた。

 でもフィールはそこから急速に強くなっている。

 フィールは私の遥か先にいた。

 悔しい。


「リンカフレイフィールドさん、俺何かしました?」

「別に、何でもないわ」

「気のせいならいいのですが、怒らせてしまったような気がして」

「気にしないでいいわよ」


「僕が魔物を倒しすぎない方がいいですか?」

「気にしてないわよ!」

「そ、そうですか」


 私はフィールに気を使われている。


 そして今、私はフィールにおんぶされている。

 フィールの速度についていけないのだ。

 悔しい。


 足手まといになっているのが悔しい。

 おんぶされないと攻略が遅くなる。


 でもフィールの汗は……いい匂いがした。


「あ!リトルドラゴンが7体です!」


 リトルと言っても熊と同じくらいの大きさがある。

 そしてリトルドラゴンとは言ってもドラゴンはドラゴン、強敵なのだ。

 普通なら逃げる。


 私は素早く降りてフィールが先行した。

 フィールはリトルドラゴンでさえも余裕で倒していった。

 ああ、やっぱり。

 私は足手まといだ。

 悔しい。


 フィールは素早くリトルドラゴンを斬り倒していく。

 まるで雑魚を倒すように鮮やかであっという間だった。


「リンカフレイフィールドさん、怒ってます?」

「怒ってないわよ」


「リンカフレイフィールドさん、帰りますか?」

「フィールは余裕なんでしょ?先に進みましょう」


「でも、リンカフレイフィールドさんはもう疲れましたよね?」

「大丈夫よ」

「でも、リンカフレイフィールドさんは体力的にきつくないですか?」


「大丈夫よ。私の名前はリンカでいいわ」

「戦闘中はリンカさんと呼びますね」

「さんもいらないわ。敬語もいらないし戦闘中じゃなくても敬語はいらないわ」


「りん、か。行こ、うか」

「な、何で片言なのよ」

「リンカ、行こう」


 私はリンカと呼ばれて顔が赤くなるのを感じて、怒ってそれをごまかした。

 恥ずかしがっているのをごまかして、嫉妬しているのをごまかした。

 顔を隠すようにフィールにおんぶされる。


 私は、プライドが高い。


 助けて貰っているフィールに怒って、私は何をしているんだろう。


 フィールに気を使わせて、機嫌が悪くなっているのを隠す事も出来ず、何をしているんだろう。

 私はおんぶされたまま奥に進んだ。


「ふぉっふぉっふぉっふぉ!」


「あ、レッサーデーモン、中級ダンジョンのラスボスですね」

「まずいわ!」

「仲間を呼びますからね。じゃなくて仲間を呼ぶからな」


「あんた!余裕ね!死ぬかもしれないのよ!」


 怖い。

 怖くなると虚勢を張ってしまう。

 怖くなってフィールに強くしがみついた。


「リンカ、後ろにいてくれ」


 私は後ろに下ろされた。


「震えろ!振動剣!」


 フィールの剣が光り輝く。





 

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