第8話
俺は試合が終わった後、訓練をして就寝した。
次の日、学園の教室に入ると、いつも目につく子がため息をついて元気が無かった。
急に話題を振っても警戒されてしまう。
まずは挨拶だ。
みんなに挨拶をする。
そしてアイラにも挨拶をした。
「おはよう」
「あ、フィール君、おはよう」
やはりいつもより元気が無い。
俺の表情を読み取った周りの子が話をする。
「気にしないで、この子は色々あっただけだから。フィール君が何かしたわけじゃないわ」
「色々あったと言われると気になってしまうけど、聞かない方がいいか」
女子生徒が顔を見合わせた。
「いや、いいんだ。無理はしなくていい。話したくない事もあるだろう」
ガラガラ!
教室に3年の男子生徒が入って来る。
ゲームのボスキャラ、ボッズ・ウインドソード伯爵だ!
ゲームでは1年の終わりに5対5の試合イベントが必ず起きる。
その時の大将だ。
「アイラ、おはよう」
「お、おはよう、ございます」
アイラが怯えたようにボッズを見た。
アイラのため息はボッズが原因か。
「アイラ、父は元気か?」
「……」
「私がアイラを嫁に貰う事で、商家を援助する用意がある」
「……」
「父が病気となれば商売は成り立たない。なんせ父がメインで店を切り盛りしていたんだ。せっかく無償で教育を受けられるこの学園に入学出来ても、アイラが卒業するまで家は持たないだろう。私が助けてやる」
「……」
ボッズはアイラの肩に手を置いた。
その瞬間にアイラはビクッと硬直する。
周りの生徒も下を向いたり、渋い顔をして2人を見ていた。
そうか、
『家を援助する代わりに体を差し出せ』
ボッズはそう言っている。
ゲームでも同じイベントがあった。
被害者の一人はアイラだったのか
そこに主人公のファインが入って来た。
「ボッズ!アイラが嫌がっているぜ!」
「また貴様か!男爵の息子風情が口を慎め!」
「この学園では爵位は関係ないぜ!」
「決闘なら受けて立つ!」
「ちょ!ちょっと待ってください!チンカウバインの恋占いをしてみませんか?」
俺はアイラの前に出て提案した。
アイラは後ろから俺の服を掴む。
ボッズは学園を1年近く過ごして主人公が力をつけた後に倒す相手だ。
今主人公がぶつかれば負ける。
多分今の俺より、いや、主人公よりも更に強い。
主人公とボッズがぶつかるのを避けて話題を逸らす。
「チンカウバインを連れて来ます!」
「必要ない!余計なお世話だ!」
「ですが結婚となると相性は大事ですよ」
「必要無いと言っている!」
「よければ無料で見ます」
「いらないと言っている!」
ファインは更にボッズを煽る。
「ボッズ!占いで悪い結果が出たら都合が悪いんだろ!?見え透いてるぜ!」
「ファイン!調子に乗るなよ!」
「伯爵の権力を利用するボッズに言われたくはないぜ!」
教師が入って喧嘩を仲裁しようとするがそれでも言い合いが収まらない。
「分かりました!喧嘩はやめてお互いに勝負をしましょう!勝負の方法や日時は放課後に教師を交えて協議をした上で決めましょう!今はボッズも、ファインも一旦戻りましょう!」
俺の言葉でボッズが口角を釣り上げて笑った。
「いいだろう!ファイン、放課後が楽しみだ」
「望むところだ!」
2人が出ていく。
アイラは、俺の服を掴み続けていた。
勝負の方法を決めると言っただけなんだけど、戦う気満々じゃないか。
対決の雰囲気を残した上で『対決のルールを決めましょう』と提案しただけなのだ。
「今は大丈夫だ。席に戻ろう」
「……うん」
【放課後】
学園長のマーリン、そしてファインと3人のヒロイン、更にボッズとアイラだけではない。
多くの生徒が見物の為集まっていた。
「では、審判のフィール、対決方法をどのように決めるのかの?」
俺は妖精契約を結んだ善意の者という事で審判を務める事となった。
「まずは、ファイン・フリーダムとボッズ・ウインドソードのステータスを開示して欲しいです。強制ではありませんが開示をして貰った方が公正な勝負を決める事が出来ます」
ボッズの性格を考えれば乗って来るだろう。
俺もボッズとファインのステータスに興味があった。
ゲームの世界とステータスが同じとは限らない。
ボッズがにたあっと笑った。
「いいだろう。もっとも、私がステータスを開示した後、ファインがステータスを開示する事で恥をかくことになるだろう。ステータスの開示は強制ではない。だが開示しなければそれは逃げと同じだ!」
うわあ、煽ってる煽ってる。
ボッズ・ウインドソード
体力レベル 178
魔力レベル 225
速力レベル 68
生産レベル 0
知力レベル 77
魅力レベル 23
スキル
『☆風魔法の才能』『風魔法:上級』『剣術:中級』
内政力
爵位:伯爵
兵力レベル:50
収入レベル:32
領地レベル:55
ほぼゲームと同じか。
強い、少し速力が低いが、風魔法で速度を底上げしながら戦うスタイルも恐らくゲームと同じか。
内政力は学園2年目で解放される。
領地レベルは領地の人口と建物や道の質で上昇する。
「魔力と体力が高い!しかも風魔法の上級を覚えている!」
「ボッズさんとの勝負は無理があるんじゃないか?」
「入学して間もないファインじゃ太刀打ちできない!」
「はっはっは!そうだろう!ファイン、貴様は開示しないのか?」
ファインもステータスを開示した。
ファイン・フリーダム
体力レベル 110
魔力レベル 15
速力レベル 88
生産レベル 20
知力レベル 48
魅力レベル 49
スキル
『☆オールラウンダー』『剣術:中級』『聖魔法:下級』『生産魔法:下級』
内政力
爵位:男爵の息子
兵力レベル:無し
収入レベル:無し
領地レベル:無し
まずい、ファインは魔力を伸ばしていない。
戦士タイプで伸ばしている!
普通に試合をすればお互い離れた位置から戦闘が始まる。
間合いに入る前にボッズの風魔法を受ければ大ダメージを食らう。
まともに戦ってもファインに勝ち目はない。
試合は無い。
ファインの戦闘訓練が遅れている。
入学前の訓練チュートリアルで能力値をあげた後、思ったほど伸びていない印象だ。
勉強と恋愛に時間を使ったのかもしれない。
だが、それでも知力もボッズの方が高い。
勉強対決でも負けるし、そもそも2人はそれで納得しないだろう。
ファインの強みは何だ?
……ヒロインが3人いる。
だが1人は教師で今回の対決には参加できないし聖女ヒロインは戦闘力が高くはない。
対して、ボッズには取り巻きがいる。
試合も今は不利だ。
まともに試合をしてはいけない。
みんなが俺に注目する。
……魔物のドロップ品対決なら、ハンデとして教師を参加させられるか。
ファイン・姫騎士・そして教師の3人で勝負できる。
無理でも教師の代わりに聖女をパーティーに入れられる。
「……3対3で魔物の、ドロップ品対決」
「いいだろう。俺が買ったらアイラを貰う」
「何でそうなる!意味が分からない!ボッズは狂っているぜ!」
またボッズとファインが言い合いを始めた。
チンカウバインが飛んできた。
そして俺とキスをして魔力を受け渡した。
「……アイラの件で揉めているのかな?」
「そうらしい」
「私がアイラの愛を占うよ。アイラ、君はフィールと相性がいいね!」
俺!
チンカウバインの言葉で一気に流れが変わった。
全員が俺とチンカウバインに注目し、ボッズが俺を睨む。
まずい!まずいまずいまずい!
俺が考えた流れがぶち壊された!
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