第4話

「フィール君!チンカウバインの能力を教えて!」

「俺は、僕はまだ分からないです」

「チンカウバインはどういう事が出来るんだ?」


 チンカウバインが飛び上がった。


「そうだね。教師をしているそこの君と君、両想いなのにどうして結ばれないのかなあ?」


「な、ななな何を言っているんですか!こ、こんな時に!」

「ぼ、僕はべ、別に教師としての職務を全うするだけで、結ばれるとか結ばれないとかそういう話ではないです!」


 2人の教師が慌てだす。

 俺はジャンプしてチンカウバインを掴んだ。


「チンカウバイン、2人共恥ずかしがっているだろ。多分他の人は両想いな事を察している。知らないフリをしてやったらどうだ?」


 チンカウバインは暴れて俺の手から脱出する。

 俺の小声をぶち壊すようにチンカウバインは大声で言った。


「知らないフリ?どっちも好きなのにお互いに遠慮して死ぬまで遠慮し続けて幸せになれるの?恥ずかしいのなんて最初だけ!2人共結ばれればいいよ」


 チンカウバインは笑顔で言った。

 そして純粋な笑顔を浮かべたまま、左手の親指と人差し指で輪を作る。

 そしてその輪に右手の人差し指を出し入れする。

 見た目は美人でも手の動きはおっさんと変わらない。


「2人には2人のペースがある」

「彼女は後ろから強引に抱きつかれてシテ貰いたいと思っていて、彼もそうしたいと思っているよ?プレイの相性もばっちりふぐふぐ!」


 俺はまたジャンプしてチンカウバインを掴み、口を塞いだ。


「それ以上言ったら2人のライフがゼロになる。やめろ」


 チンカウバインが暴れて脱出する。


「私は皆に素直になって欲しいの!」


 チンカウバインは飛びながら華麗に舞う。

 まるでフィギュアスケートのようだ。


「一輪の花が咲いていてそこにチョウチョが止まってみつを吸う♪その事でチョウチョはみつを吸えて花は受粉できる♪お互い1つになりたいのに遠慮してずっと1つになれないのは良くないと思うなあ♪今すぐベッドに、むぐむぐ!」


 俺はジャンプしてチンカウバインを捕まえた。


 一瞬歌いながら良いことを言うかと思ったがそうでもなかった。

 例えも花の受粉で人間に例えたらヤル事だし!




 チンカウバインを押さえて説得するがとにかく折れない。

 チンカウバインは考えを変える事は無いだろう。


 そして2人は円卓会議室から逃げ出した。

 可哀そうに。

 公開処刑じゃないか。


「2人は逃げた。あの2人の話題はやめておこう。もういない、いないんだ!」

「いいよ。結ばれるはずなのに結ばれない愛がいっぱいあるから……」


 だんだん愛=エチエチに聞こえてくる。

 チンカウバインが飛んで女子生徒の前で止まった。


「ひい!!」

「君はそこにいる彼が好きだよね?」

「え、あ、そ、それは、」


 チンカウバインが彼に向かって飛ぶ。


「こ、来ないでくれ!」

「君も思いは一緒だよね?お互いに惹かれ合っているよ?今すぐGoToベッドすればいいのに」


 GoToベッド、契約で俺の意識がチンカウバインに少し流れた影響だろう。

 俺は走ってチンカウバインを掴んだ。


「分かった!OKOK!両想いをくっ付けたいんだな?礼儀や気遣いは通用しないのはよく分かった。学園には一杯人がいる!恋占いをしよう!懺悔室で!密室でやろう!」

「う~ん。とりあえずはそれでもいいよ。恋占いには魔力を使うから君の魔力を何度も貰うね」


「OKOK!わかった!何回でも魔力をあげよう!だから今は黙れこの羽虫野郎が!!」


 思わず本音が溢れ出す。

 チンカウバインが俺を見つめる。


「でもフィール、君はファイン・フリーダムとエステルに悪い事をしたと思っているね?私がファインとエステルに恋愛の事を教えてあげるよ」


 エステルは聖女キャラのゲームヒロインで転生前の俺が金で買おうとした相手でファインはゲーム主人公だ。


「ファインなら、恥ずかしがることはないか、でも、エステルは恥ずかしがると思う」

「まずはファインに話をしてみようよ!」


「ファイン・フリーダムを連れて来ました!」


 生徒がファインを連れてきた。

 どういうあれで連れてきた?

 生徒の考えが分からない。


 ……そうか、娯楽が少ないから、事件が起きるのを期待しているのか。


 そしてみんながチンカウバインの事を分かり始めた為か、皆の口が重くなった。

 まるで会社の朝礼のように、軍隊のように口を閉じている。


 何か言えばチンカウバインの餌食になる。


「君は、そこにいる姫騎士と、エステルと、そこの教師、後もう一人は……多分、来年に学園に入って来るよ」


 4人全員が、ゲームのヒロインか。

 攻略対象を当ててきた。


「俺も、当たっている気がする」

「やっぱり、フィールは私が見込んだだけあるね」


 俺の周囲をくるくると飛んで両手で俺の背中をタッチした。


「すいません。今日の会議は終わりで良いですか?決闘をしてダンジョンに行って契約して会議をして、もう疲れました。もうこれ以上チンカウバインを押さえることが出来ません」

「そ、そうですね。お疲れ様、で良いですかね?」


「うむ、今日はご苦労だったのう」


 学園長はお茶を飲み干してほっこりと笑顔を浮かべた。


「会議を終わりますが最後に1つ、フィール君の部屋に押し寄せたり、ただで占いを強要する行為は禁止します!破った生徒、いえ、教師でも度が過ぎる場合は罰則を検討します!会議は終わりです!皆さん戻ってください!」



 俺は円卓を出て食堂で食事を摂るが皆が俺から距離を取りつつちらちら見ていた。



 寮のベッドで横になる。

 チンカウバインが俺の目の前に着地する。


「明日から楽しみだね」


 その笑顔は、その見た目だけは本当に可愛い。




 ◇




 フィールのいない所で生徒が噂話を始める。


 水晶球で記録した会議映像は学園でリピート再生され男子生徒がそれを見ながらぼそっと言った。


「あの妖精、やばくね?」

「やばいな。悪意は無いんだけど。皆があえて言わない事を空気を読まずに言う」

「5歳児に似てる。お姉ちゃんはあの人が好きなのにどうして仲良くしないのお?とかそういう感じだ」


「ああ、人間と妖精は違う生き物だ。あの映像を見ればわかるよな」

「純粋すぎるって怖いんだな」

「ああ、それと、妖精は何を言っても変わらない存在なんだろう」

「しかも、真実を突き付けてくる。怖い」

「でも、俺は妖精占い?妖精診断か?名前は分からないけど受けてみたい」

「マジか!」

「10万ゴールドなら、出せる」


 一カ月20万ゴールドあれば物価の高い王都でも暮らしていける。

 田舎なら節約しつつ家庭菜園をすれば一カ月10万で生活できる金額なのだ。


「……未来のお嫁さんになるかもしれない人が分かるなら、10万でも安いか」

「誰が嫁になるかで人生は変わる。嫁になるか確定じゃないかもしれない。でもヒントだけでも貰えるなら安い」

「一回は、ネタでやってみるのもいいかもしれない」

「懺悔室なら、アリか」




 こうして、チンカウバイン待ちの生徒が増えていった。

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