イチリンソウ

前田慧悟

第1話

 あぁ、そうか、今日も道で眠ってしまった。

降り始めの雨かもしくはもうすでに降っていたかもしれない雨が意識が朦朧とした顔に当たる感覚を感じ、目覚める前に今日も雨なのかと思いながらゆっくりと瞼を開ける。

服は濡れていなかったのでどうやら今降り始めたばかりの雨なのだろう。

 5月の中旬、今年は梅雨入りが早いのだろうかここ最近雨が多い、暑すぎるのも寒すぎるのも嫌だが、雨はもっと嫌だった。寝る場所を探すにも屋根のある路地を探さなくてはいけないし、雨の中眠るのは服も濡れるし、体も寒くなる。


 今日も東通りの汚い路地裏で目を覚ます。

ゆっくりと体を起こし呆然と座った。

自分の寝ていた近くにゲロが吐かれてあって、それは昨夜自分が吐いたものなのか、何処かの誰かが吐いたものなのか解らないが目覚めの景色としては最悪だった。

路上で眠るようになり気づいた事がある、普段は気にも留めていなかったが人間の歩く音というのは地面を伝わり横になった僕の耳にこれでもかと反響する。

バタバタと走る音、ヒールのカツカツという音、浮き足立っ歩いている音、何かを引きずる音。

街は雑音で溢れているこの街に来るのは11時過ぎくらいだがそれでも人の流れは止まない。それだけ都会の中心街の人の多さに驚愕した。

 眠るのはいつも深夜を過ぎてから、人間の活動が少し終わりに近づいてからだった。

元々お酒は好きではなかったのだが、しらふでは眠れないのでここに来てからは毎日コンビニで酒を買い飲むようになった。

毎日ろくに食事もとらず、酒ばかり飲み固いコンクリートで眠っている僕の体は心身共に疲弊していた。それと同時にこんな状況でも眠れる本当のホームレスの人々を尊敬した。


 

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