(仮)記憶

@nenenomori

プロローグ

「よっ!みんな元気してる~?」


画面の中でニコニコしながら小さく手を振る元気そうな女の子がいる。


「なんか緊張するなぁ、YouTuberってこんな感じなのかなぁ」


彼女はいつも話の軸がずれる。


「ちょっとしてみよ」


ぼそっと呟くと、咳払いをして、満面の笑顔をみせ

「皆さんこんにちは!みゆチャンネルのみゆで~す!!!」


とYouTuberさながらの挨拶をした。何を見せられているんだろう。

呆れた。しかし、なぜか安心している自分がいる。こう言う時でも彼女は元気に振る舞う

そんな姿に僕は、、、、

気づけば彼女は顔を下に向け小刻みに揺れている。

どうやら自分の言動にツボってしまったらしい。

その証拠に声を抑えきれていない。


「はぁ~面白い、笑ったな........それじゃあ時間も限られてるしそろそろ本題に移るね」


笑顔から一転気持ちを入れ替えたように、真面目な顔付きになる。

しかし、少しばかり口角が上がっているが、どこかもの寂しい顔にも見えた。

それから10分程彼女は画面の中で声を発し続けた。

家族に向けてのメッセージ、友達に向けてのメッセージ。

そして僕へのメッセージ。

僕は黙って彼女の言葉を聞きつづけた。

一つ一つの言葉を。

聞き洩らさないように。

多分僕はまたこのビデオを見るのだろう。

見てしまうのだろう。

何度も何度も何度も何度も。

忘れたくない、絶対に。


「うん、言いたいこと全部言えた...........じゃあ、そろそろ切ろうかな.....」


笑顔を浮かべているが、涙目になっている。

今にも泣いてしまいそうな。

バイバイなんて言わないでほしい。

これが最後なんて言わないでほしい。

僕は何も言えていないのに自分だけ言いたいことを残して、終わろうだなんてどれだけわがままなんだ。


「じゃあこれでほんとにバイバイ、だね、、、、、、、、、、、またね、みんな」


彼女はこのビデオの冒頭と同じように手を振り笑顔でそう言った。

ある程度振った後、彼女はカメラから消え、そこでビデオはストップした。

僕はパソコンをとじ天井を見つめる。

彼女の顔が目に焼き付いて離れない。

不意に壁にかけてあるカレンダーを見て気づく。

ああ、明後日は美結の命日だ。

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