第2話 ポロと異国の人間



 宙で飛び回るポロにより、小型飛竜に乗ったゴブリンライダー達は総崩れとなった。


「幼い頃の夢、ゴブリンに先を越されちゃったな……」


 しみじみ呟きつつ、最後の一体の首を刎ねる。


「別に逆恨みじゃないから勘違いしないで……ねっ!」


 と、一掻き。


 あっという間に空の敵は一掃されたが、地上にはまだ狼の魔物に乗ったゴブリンライダーが数体。


 ポロは生成した【暗黒障壁ダークプレート】を乗り継ぎながら後を追い、その最中に自身の持つスキル【鮮血吸収ブラッド・ドレイン】で狩ったゴブリンの血を片手に集めてゆく。


 そして上空からゴブリンライダーの先頭まで追い付くと、集めた血が巨大な爪を模した腕の形成し。


「【鮮血の鉤爪ブラッド・タロン】」


 自身の腕を振り下ろすと同時に、巨大な血で出来た鉤爪もゴブリン達に目掛けて振り下ろされる。


 そして、大地を割る程の強力な一撃により、多くのゴブリンは殲滅された。


 先頭のゴブリンたちがやられたことにより、後続のゴブリンは恐怖を覚え、一目散に退却。

 ようやくゴブリンの脅威が去ったのだった。



***



 追手がいなくなった頃、男は走らせていた荷馬車を止め、ポロの元へと駆け付ける。


「いや~どこの誰かは知らんけど、助けてくれてありがとう」


 現れたのはポロよりも少し歳上に見える、異国の服を身に纏った若者の姿。


 そして彼はポロをまじまじと見つめると、突然興奮した様子で尋ねた。


「え、あれ、その耳、その尻尾……まさか君、ファンタジーの定番、獣人ってやつか?」


「ふぁんたじぃ?」


 ポロはキョトンとした表情で彼を見つめる。


「うおおおお! やっぱりこういうの見ると異世界に来たって感じするなぁ!」


「いせかい?」


 再びポロが聞き返すと、若者は焦ったような素振りを見せ、はぐらかす。


「ああっ、いやいやこっちの話! っていうかその耳本物なの? 付け耳とかじゃないよね?」


 サワサワと、ポロの耳を触る。


「本物だよ……んん、くすぐったいからやめて」


 プルプルと首を振りながら若者の手を振り払う。


「ああ、悪い、感動しちまってつい……」


 そして若者は、思い出したようにポロに自己紹介を述べた。


「そう言えば名乗ってなかったな。俺はタケバ・ショウヤ、ショウヤって呼んでくれ」


「僕はポロ・グレイブス。よろしく、ショウヤ」


 お互い名乗ったところで、ポロは死屍累々の道を見渡す。


「っと、ごめん、話は後で。まずは後始末をしないと」


「後始末?」


 ショウヤは首を傾げた。


「うん、ゴブリン達がちゃんと天へ昇れるように、弔ってあげないと」


 そう言って、ポロは手を合わせ祈りを捧げた。


「え、ゴブリンってさっき馬車を襲ってきた奴らだろ? あれって普通に魔物なんじゃねえの?」


「魔物だよ」


 その姿にショウヤは戸惑うのだ。


「魔物って人々に危害を加える悪い存在じゃないのか?」


「一概にそうは言えないけど、まあゴブリンはそれに当てはまるかな」


「……弔い、いる?」


 するとポロは「気分だよ」と返した。


「彼らも目的があって人を襲うんだ。そして殺されない為に人は抵抗する。だから僕たちとは決して相容れない魔物だけど、それでも彼らが死を望んでいるわけではないなら、せめて僕が殺めた者達は僕の手で弔いたいんだ」


 ポロの言葉を聞いたショウヤは「なるほど」と頷き。


「じゃあ俺もやるよ、こいつらにいい思い出ないけど、命は大切にしろってのはガキの頃親に言われたから」


 そう言って、ショウヤもポロに倣い合掌する。


「……変わった祈り方だね」


「そうなの? 俺も年の瀬くらいしかお参りする事ないから正しいのか分かんないんだけど」


 その独特な黙祷を見つめながら、それでも彼なりに死者を弔おうとする姿勢にポロは笑顔を浮かべた。


「ふふ、ありがとう」


 そしてポロが再び祈りを捧げると、倒れたゴブリンや狼の魔物の中から光の球体が浮かび上がり、ポロの体へ集約してゆく。そして。


「【霊魂浄化パーフィケーション】」


 ポロがそう唱えると、ポロの中から光の粒子が放出され、それは静かに天へと舞い上がって消えた。


 そばで見ていたショウヤは「きれいだな」と呟き。


「これが魔法ってやつか。思ったより地味だけどすげえな……って、ポロ?」


 ショウヤはポロに向き直ると、青ざめたように顔色を悪くしてその場に膝をついている姿があった。


「おい、大丈夫かよ!」


「……光属性の魔法は、僕の体に合わないみたいでね……使うと気分が悪くなるんだ」


「なのに使ったの? 捨て身すぎだろ!」


 と、ショウヤはポロを担ぎ、近くの馬車へと運んだ。


「とりあえず、馬車に入れ。薬がないか漁ってみるよ」


「お、お気遣いなく……。そう言えばこの荷馬車って何を積んでいるの?」


 と、何気なしにポロが尋ねると。


「あっ……あ~えっと……」


 何かを思い出したように、歯切れの悪い返答をする。


「いやその……成り行きで……な?」


「……ん?」


 と、ポロは疑問府を浮かべながら中を覗くと。


 そこには数人、首輪と手枷で拘束された奴隷の姿があった。



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