第7話 『銀色の創作講座』第4回 「マスコットヒロインの存在意義? それは主人公の成長の一部である」【 銀色の魔法はやさしい世界でできている ネタばれあり】

 皆さんは『奴隷ヒロイン』というのをご存じだろうか?


「なろう系の定番ヒロインですね」


 そう、みんなが大好きな全肯定絶対服従で主人公に一途な愛を捧げてくれる名ヒロインである。

 だが否定的な意見も多い。


「男の願望駄々洩れですからね」


 まあな。

 ではこの奴隷ヒロインはなぜ誕生したのか?


 それには『メサイアコンプレックス』というものが大きく関係しているのだ。


「なんですかそれは?」


 まあ簡単に言えば『自分でも誰かを救える』というような満足感かな?


 人が幸福を感じるときは『承認欲求』が満たされた時が多いのだ。

 そしてそれは『誰かに必要とされる』時にも発生する感情なのだ。


 そしてそんなポジションに近いところに居るヒロインが『銀色』にも居るのだ。


「それが最後のヒロインですか?」


 そう『聖女ミルファ』である。

 なぜこのようなヒロインがこの物語に誕生したのか、その理由を語っていこう。




 そもそもこの作品に『ミルファ』は居なかったのである。


「え?」


 ただ国が2つだけだと戦争になりそうだから国を3つに増やした。

 その結果、もう一人ヒロインが必要になったから急遽考えたのが『ミルファ』なのである。


 先にも語ったようにメインヒロインのフィリスには、この物語の世界観やテーマを託した。

 そしてルミナスにはライバルとして主人公アリシアの個性を引き出させた。


 ではミルファは?

 この時点で吾輩ミルファに『役割』を持たせることが出来なかったのである。


「ええ⋯⋯どうするんですか!」


 これにはさすがに困った。

 この時点ですでに第一部完までの大まかな流れは完成していた。

 そこにミルファという異物が増えたと言っても過言ではなかったのだ。


 出す以上はちゃんとしたキャラにしたいし⋯⋯。

 吾輩かなり悩んだ。


 そしてとうとう彼女に持たせる『個性』というものがまったく見えないままだった。

 このままだとミルファは大失敗キャラになってしまう。


「大変じゃないですか?」


 しかしその時、吾輩に天啓が舞い降りた!

 そうだ⋯⋯このミルファは『無個性』にしようと。


「ええ⋯⋯それはどうなんですか?」


 この時吾輩に閃いたアイデアは、このミルファを『奴隷ヒロインタイプ』にすることだったのだ。


「ミルファちゃん奴隷だったんですか?」


 あくまでこの作品は『やさしい世界』をテーマにしているから、奴隷というものは出したくなくって色々設定を考えた。


 その結果ミルファは孤児という設定に落ち着いた。

 これにはミルファの両親が出てきて作品の流れを邪魔しない意図もあったが⋯⋯。


 ミルファは孤児として育てられた。

 そして才能が認められて聖女になった。

 だから都合のいい駒としてアリシアに差し出されることになる。


 全ては身勝手な周りの大人の判断で、彼女の意志はそこには無い。


 これは差別化できると思った。

 フィリスもルミナスも『自国の繁栄を願ってある意味打算的にアリシアに近づいた』からだ。


 しかしアリシアという魔女にとっては、メリットのある交渉はむしろ自然で理解できるんだ。

 この自分の意志の全くないミルファの方が不自然で理解できない存在になる。


「なるほど」


 このミルファがはたして本当に幸せなのか不幸なのかは読者に委ねるが、アリシア的には『不幸な少女』だと認識されるところから始まる。


 アリシアは教会などというめんどくさい組織と関わりたくはないが、このミルファの事はほっとけない。


 なぜなら自分が居なければこのミルファは、こうして人身御供みたいにはなっていないと考えるからだ。


「まるで生贄ですねミルファちゃんは⋯⋯」


 だからこそ映えるのだ。

 この先ミルファが変っていく事が。


 アリシアにとっては気まぐれかもしれないが、自分の存在が他人の運命を大きく変えられるのだと認識するきっかけになる。


 不幸に出来るのなら幸福にも出来る。


 この『不幸なミルファを幸せにする』という目標がアリシアの課題になるわけだ。

 そして実際にミルファは作中で変わっていくヒロインに成る。


「そうか、救われるんですねミルファちゃんは!」


 このミルファは『アリシアのお付きの聖女』という立場上、フィリスやルミナスよりも一緒に居る時間が長くなる。

 実際二人の姫は実家(お城)からの通いなのに、ミルファだけはアリシアと同居だしな。


 主人公の成長を描くことは作品の大きなテーマになる。

 しかしそれをただ書くと『俺TUEEEと凄いですわ!』しか印象が残らない。


 そこで奴隷ヒロインなのだ。


 道端の小石を拾って磨くと宝石になる!

 それは作品を彩る華であり主人公の偉業でもあるのだ。


 だからこの『ミルファの成長と幸福』はアリシアの成長を示す『役割』になると考えたのだ。


「アリシアの手で幸せになることがミルファちゃんの役割なんですね!」


 なのでこのミルファは、今後どう変わるのかまったく決めずに書くことにしたのだ。


「ええ⋯⋯それは⋯⋯」


 ほんと無茶をしたと今でも思う。


 アリシアの成長の過程は作品プロットと直結していてコントロールされているのだが⋯⋯。

 このミルファが今後どうなろうとも、作品の流れに関わらないのだ。


 だからこそ、このミルファがどうなるのか自由に書くことにしたのだ。

 この何も持たない大人たちの都合の良い存在だったミルファがどう変わるのか、気になる人は本作の方を読まれてほしい。




 最後に纏めると。


 1 奴隷ヒロインの魅力は『メサイアコンプレックス』である。

 2 マスコットヒロインは主人公のトロフィーであり、その数と輝きは主人公の偉業である。

 3 たまには自由に書いてキャラを暴走させるのも魅力あるキャラを創る方法である。


 こんなところか?


「ミルファちゃん、おとなしい子だと思っていたら最後にとんでもない子だったんですね⋯⋯」


 フィリスとルミナスは作品のテーマの牽引役で、完成されたヒロインとして最後まであまり変わらんが。

 このミルファとアリシアはどんどん印象が変わるようにした結果だからな。


 これ以外にもこの4人は2:2で対立するように個性を割り振っているんだ。


「個性を割り振る?」


 作中で意見が割れる事がある。

 その時ずっとアリシアとフィリスがセットのままだとおかしいと思ったからだ。


 たまに意見が合わない、好みが違う方が『生きているキャラ』だと思えるように感じたのだ。


 たとえば⋯⋯。


 1 自分のやりたい事優先、アリシア・フィリス。 他人の為優先、ルミナス・ミルファ。

 2 貧乳枠、アリシア・ルミナス。 巨乳枠、フィリス・ミルファ。

 3 成長型、アリシア・ミルファ。 完成型 、フィリス・ルミナス。


 他にも。


 1 紅茶派、フィリス・ミルファ。 コーヒー派、アリシア・ルミナス。

 2 甘党、アリシア・ルミナス。 控えめ、フィリス・ミルファ。


 読書の傾向。


 冒険物が好き、アリシア・ルミナス。

 恋愛物が好き、フィリス・ミルファ。

 ミステリーが好き、ルミナス・ミルファ。

 詩集が好き、フィリス・ルミナス。

 歴史物が好き、ルミナス・ミルファ。


 なんかかな?


 このように様々な場面で派閥が変るように、好みを割り振っているので注目してくれると嬉しい。




 最後にこのミルファは吾輩にとっても思い出深いキャラになった。

 ある意味奇跡の存在なのだ。


 他人の都合で何もないという個性で始まったキャラが、話に沿ってどんどん生き生きと動き出す感動を吾輩に教えてくれた。


 そして何度も作中でミラクルを引き起こす!


 この『ミルファ』という名前はとくに意味は無かった。

 頭文字がMだとなんか母性的なキャラ印象だという程度だった。


 作品のなかでアリシアは3人の友人に武器を贈るんだが、彼女には『盾』を贈った。

 それはミルファらしい選択だったんだが⋯⋯。


 実はミルファ(ミルファク)という名の星がある事を後で知った。

 ペルセウス星団の『ひじ』とかいう意味らしいが、このペルセウスはあの『盾の英雄』なのだ。


「狙って付けた名前じゃないんですか?」


 まったくの偶然。


 でもそれも面白くて運命だと思ってあえて逆らわなかった。


 創作とは作者の思い通りにすることだと思っていた。

 しかしこういった偶然で『キャラが動き出す』という作者自身が驚き感動する事を始めて教えてくれたのがこの⋯⋯、


 片翼の聖女ミルファなのだ。


 彼女もまた創ってよかった。

 そして育ってくれて良かったという思いを吾輩に与えてくれたヒロインなのだ。


 今日はここまで。

 時にはテーマとは関係ないヒロインという彩も作品には必要なのだ!

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