本当の居場所
第15話 居場所
「え、俺を元の世界に戻す?」
神操の儀式事件が幕を閉じ、ハンさんはその場ですぐ世界の神と時の神に囲まれ質問攻めにあっていた。
そんなハンさんは今まで見た事がないような、げんなりとした顔を浮かべて俺の後ろに避難。隠れながら『我の住処で話そうでは無いか』と提案。
今はハンさんの住処である調書所へと神達と共に向かい、辿り着く。
中に入り、ハンさんもいつもの椅子に座る。他の神はどこに座るでもなく、空中を漂い座っているような体勢を作り出した。
円を描く形で話す体勢を整えた瞬間にハンさんから放たれた言葉に、思わず言葉が溢れてしまった。
ハンさんから放たれた言葉は──……
――――主を一度、元の世界に帰す
『そうじゃ、主が帰りたいと願うのなら帰させることは可能じゃ。童は時の神から力を返してもらったからのぉ。主はもうここに居る意味もない。帰りたければ帰すぞ。じゃが…………』
「じゃが?」
なんだろう、何か問題点があるのだろうか。
『―――――まぁ良い。そこは、予防線を張っておこうではないか。では、準備を始めよう』
「え、あの。待ってください。色々説明してほしいのですが!?」
『また、ここに来ることになるじゃろう。その時にでも、今回の件を詳しく説明してやる。その方が色々わかりやすいからのぉ』
「えぇ…………」
そういえば、ハンさんはいつも何かが起きてから付け加えたように説明をしてくれていた。
俺がこの目で見ないと、説明しても信じてもらえないとでも思っているのだろうか。
ここまで来て、何を疑えばいいのか。
確かに、ハンさんの言動は信じられないことが多いかもしれないけど、今までのは全てが全て嘘という訳ではない。いや、嘘は言っていない。
ただ、言葉選びが柔軟なだけだ。それで騙されたと思ってもおかしくはないけど。
『また来ることになるとは一体、どういうことなんだ
『その時が来れば分かる』
『汝はそればかりだ。いつもいつも、そのように我らを欺き利用する』
フンスと鼻を鳴らし、世界の神が皮肉めいた口調で言い放つ。ハンさんはそんな言葉などどこ吹く風、全く聞く耳を持っておらず俺の方に顔を向け説明を続けてくれた。
『ひとまず、今から主を元の世界に戻す。じゃが、忘れるでないぞ。童は主に感謝している。そして、恩をあだで返すようなことは一切しない』
な、なんだよ。いきなりそんなことを言うなんて……。
『童は、いつでも主の味方じゃ。神が味方であると、誇りに思え』
優しく、温かい微笑みをハンさんから向けられた。
まさか、神様にそんなことを言われるなんて、思っていなかったし考えてもいなかった。
『じゃから、もし。ここに戻ってきたくなったらいつでも童を呼べ。今の童は、主との繋がりを継続する事が出来るからのぉ。もちろん、口に出さんでも良い。心の中で叫ぶのじゃ』
煙管を持っている右手を動かし、俺を指してくる。
『いつでも待っておるぞ。ここは、主の帰るべき場所じゃよ』
今の言葉を最後に、ハンさんが白い息を吐く。瞬間、俺の視界が白く染まった。
今まで眠らなくても大丈夫だったのに、いきなり瞼が重くなり、睡魔が襲う。
いきなりなんだ、俺はまだまだ聞きたい事が―――いや。このままここに居ても、ハンさんは教えてくれないだろう。なら、一度戻って、元の俺を知るしかない。
ハンさんが戻って来てもいいと言ってくれている。なら、この先何があっても大丈夫だ。
俺にはちゃんと、戻る場所があるんだから――……
☆
強い光に包まれた葉月の姿が、完全に消えた。
調書所に残された神のうち二人は、よくわからず妖の神である
『面白い顔をしておるのぉ、アース、タイム。何か聞きたいのなら、正直に聞くがよい。主らになら答えるぞ、何でもな』
翻は煙管を吹かし、片足を椅子の上に乗せる。膝に片手を置き、偉そうに言い放った。
『なら、聞かせてもらおうか。なぜ、あの男にあんなことを言った。ここは、”人間の住む世界”ではない。今回はお前があの男を半妖半鬼に体を変えたから生きてこれただけの事。仮に人間の身体だった場合、この世界では体を保つことすらできない。この世界に戻ってきた場合、万が一があるかもしれんのだぞ』
『わかっておる。ここは、”黄泉の世界”と”現世”の狭間。生きている人間は普通立ち入ることなど不可能。じゃが、ここでも生き死はある。この世界で死んでしまったものは、もう現世に戻ることは出来ず、あの世逝き。生まれ変わる事も出来ず、永遠にあの世をさ迷う事になる』
『覚えているのなら、何故』
『あの者にとって、今我らが居る世界がどのように映るのか。楽しみじゃのぉ』
口では”楽しみ”と言っているが、目は悲し気に細められ、物哀し気に肩を落としている。
その様子に時の神であるタイムは、息を吐き静かに口を開いた。
『まぁいい。お前は、掟などは絶対に破らんことは知っているし、あの男にとっても、こっちの世界の方が住みやすいのなら我々は何も言うまい』
『そうじゃぞタイムよ。童に何を言っても意味は無い、無駄な体力を使わんで良かったのぉ。よしっ、そうと決まれば、このままあの男の生き様を眺めて居ようぞ』
ケラケラと笑うと、今まで黙っていたアースが呆れたように口を開いた。
『単純に、力を取られることを回避しているだけではないのか? 男性のため、今では汝が何をしでかそうと、あの男のために力を封印するという罰を与える事が出来ん状況を作られとるぞ』
『あっ』
『何?』
その言葉を最後に、調書所にはタイムの怒りの声が響き渡った。
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