第14話 目的達成

 時の神が険しい顔を浮かべ、ハンさんはしたり顔で。二人は世界の神を見ている。


『罰当たりな人間と神だな』

「神の掟第94条、”自身の起こした事態は自身の力で解決せよ”。このような掟があるが、今回世界の神は何もしておらん。人間が行った事じゃ。童の言いたい事、意味は、分かるな?」

『…………これだから、貴様の力を封印したというのに。まさかこんなことまでするとは…………』

「仕方なかろう、童は不安がいっぱいなんじゃよ。今まで使えていた力が使えなくなり、この世界に関与が出来なくなった。童は不安で、毎夜枕を濡らしておるのじゃぞ」


 いや、その前に寝ている姿何て見た事ないんですが。涙すら、流したことないじゃないですか、平然と嘘をつかないでください。


『……………………』

「早く決断しないと、本当に世界の神が人間如きに支配されてしまうぞ? 早く決断するんじゃ、時の神よ」


 ハンさん、余裕そうな口調だけど、額に一粒の雫。表情に出ないだけで、ハンさんも焦っているのかもしれない。ここからは本当に、時間の問題。

 早くしないと、儀式が完遂してしまい、後戻りが出来なくなってしまうのではないだろうか。


「ハンさん!!」

「わかっておる。じゃが、今の童は本当に何も出来ん。時の神よ、現状を把握した今、どうする」


 時の神は恨めしそうにハンさんを見下ろしている。拳を強く握り過ぎて、赤い液体が流れていた。下唇も噛み、必死に怒りなど複雑な感情を押し殺している。


『………――また、同じような事をすれば力を封印するからな、覚えておけよ妖の神よ!!』


 叫ぶように言い放つと、右手を前に出しハンさんに何かを投げた。それは、小さなクリスタルのようなもの。

 ハンさんはそれを片手で受け取り、世界の神に向けて走り出すのと同時に、迷うことなく口の中に放り込んだ。



 ―――――ガリッ



 クリスタルが砕かれた瞬間、ハンさんの雰囲気ががらりと変わる。


 今まで無かったはずのオーラがまとわりつき、近寄りがたい。額にあった二本の角が伸び、目が吊り上がる。口から覗き見える歯は鋭く尖り、口角を上げるときらりと光った。


 鋭く尖った爪を構え、ひざを深く折る。


『感謝するぞ、世界の神。今回の童の作戦に乗ってもらってのぉ。すぐ、楽にしてやるから安心せぇ』


 口にすると同時、地面を蹴り上空に。一瞬にして世界の神の背後に移動していた。

 右手を世界の神の背中に伸ばしたかと思うと、体の中に。


『ガハッ!』


 苦しげな声を出すと、ハンさんが突っ込んだ手を引き抜く。その手には何かが握られている。


「何が…………」


 何が起きたのか理解出来ない中で、すべてが終わった。


『よし、終わったのぉ』

『っ、がはっ…………、はぁ、はぁ…………』


 世界の神がバタンと地面に落ち、息を整えている。その後ろには厭味ったらしい笑顔を浮かべているハンさん。

 儀式が途中で中断されて、何が起きたのかわからない男性は口をパクパクとさせ、俺達の方に指をさしてくる。


『悪いが、利用させてもらったぞ、人間。そのことに対しては礼を言おう。じゃが、それと今回の事は別問題じゃ。三人の神を動かしたのじゃ、落し前は付けさせてもらおうか』

「いや、他の神を巻き込んだのはハンさんっ――……」

「何か言うたか葉月」

「ナンデモアリマセン」


 なるほど、世界の神は体力の問題で話を聞く余裕はないみたいだけれど、時の神が頭を抱えている理由をなんとなく察した。

 これは、力を返したのは間違いだったのでは? 今後の生活は大丈夫なのだろうか。


「お、としまえ…………とは…………」

「命」

「ひっ!!」

「と、言いたいが。それは後に置いておく。今は、なぜ神を呼び出す事が出来る儀式を知ることが出来たことに重点を置きたい。誰から聞いた、どこで手に入れた。吐かなければ死刑、吐いても死刑。少しでも役に立ってからこの世を去っては見ぬか?」


 どっちにしろ死ぬのか。でも、神の逆鱗に触れたのだから、これは仕方がない事ではある。


 捧げものを準備するのに、何人の人の命を奪ったのだろう。これも配慮されての死刑なのだろうか。


「口を開け、人間よ」


 足音一つさせず、男性の前に立つハンさん。腕を組み、片足を上げた。


 すると――……


「がっ!!!」

「っ、ハンさん、さすがにやり過ぎでは?」


 男性の肩を蹴り倒し、踏みつけている。男性は痛みに悶え、抜け出そうとしているが、力で勝つことが出来ず抗う事すらさせて貰えない。

 ミシミシという音が聞こえ始めた、このままでは骨が折れるのではないか。そんな不安が、頭を過ぎる。


「ハンさん、さすがに――……」

『人間よ、今のホンには、何も聞こえん』


 っ、時の神がいつの間に近くに。気配すら感じなかった。


「止めなくて、いいのですか?」

『そもそも、一体の神すら動かそうとするだけで死刑に値する。それを妖の神は全ての動きを制御し、自身の思うように動かし、ここまで生かしておいたんだ。普通なのなら、もうあの男はここに居ない』

「そんな…………」


 話している時、”グシャ”という、音が聞こえた。


「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!!!!」

『話せ、このまま痛みの中で死にたいのか』

「は、話す、話すから、許してくれ…………」

『それならよかったのじゃ』


 蔑む瞳から、微笑みに切り替わる。砕けた肩から足を離し、片膝をつき話す体勢を作った。


『今すぐ話すのじゃ』

「…………俺は、ただ、本を…………」

『本?』

「俺の、家にあったんだ。それを見たら、書いてあって……。でも、その本がどこにあったかなんて、知らない」

『そうか、感謝するぞ』

「それなら!!!」



 ―――――ザシュッ



『答えてくれた礼に、痛みから開放してやろう。これで、借りは返したぞ』


 首が、空中に。円を描くように舞う。鮮血が地面を赤く染め、残された体は地面に落ちる。飛ばされた頭部も、重力に逆らうことなくゴトンと落とされた。


『さて、すべてが完了したのぉ。まだまだ気になる点はあるが、童の目的はここで完了じゃぁ』

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