第5話 時空
気づかれないよう尾行。男性二人は完全に油断しているみたいで、今も俺に気づかず楽しげに歩いている。
俺も、周りの人に怪しまれないように普通を装っているから、それもまた気づかれない理由の一つだといいなぁ。
「あの二人、何かあるんですか?」
『気になるだけじゃよ、何も無ければそれで良い』
なに、その曖昧な感じ。俺の行動が無駄になる可能性があるという事だよね。一気にやる気が落ちたんですけど、今までもやる気はなかったですが……。
町の人達の間を潜り、止まることなく進む。俺も普通に歩いてついて行く。
改めて考えてみると……なんだこれ、俺は何をしているんだ。
めんどくさいなぁ、早く終わらないかなぁ。
「あれ」
いきなり、周りを見渡し始めた? もしかして、俺の尾行に気づいた? さすがに堂々とし過ぎたか。
『そのまま歩き続けるんじゃ。ここで変に方向転換する方が怪しまれるぞい』
「マジかよ」
『通り過ぎても良い。歩き続けるんじゃ』
「はい」
このまま歩き続けるのか。確かに、ここでこっちも止まってしまったら、それこそ怪しまれてしまう。
言われた通り歩き続け、男性二人の横を通り抜ける。
「……………………っ」
この人達、何かを隠している。羽織の下、手を隠す動き。何を隠したんだ。
『深追いするでない。そのまま戻ってくるんじゃ。ここで下手にこちらが動けば、今後動きが制限されるのは童の方じゃ。戻って来い』
「わかりました」
横目で見ながらも、男性二人の隣を完全に通り抜け、町を出る。
もう距離的に大丈夫だろう。振り向くと、そこには村人達が行き交うだけで、男性二人の姿はなかった。
☆
「疲れ様じゃぞ、葉月よ」
「いいえ、特に何もしていないです。そんな事より、あの二人は何を企んでいるんですか。何かを隠しているように見えたのですが」
「そうじゃのぉ。今回ので童達の動きも決まった、こちら側も大きく動き出すぞ」
屋敷に戻り中に入ると、ハンさんが赤縁眼鏡をかけ、本を片手に椅子に座って出迎えてくれた。
大きく動き出すとは一体何なのだろうか、何を予感していたのか。どうしてこんなにも、俺に今回の企みを話してくれないのか。
話してくださいよ、俺だって、何も知らないまま動くの嫌なんですが…………。
「夜になれば、またしても動き出すじゃろなぁ」
「あの…………」
「何じゃ?」
「話す気は?」
「ないが?」
「…………はい」
煙管を吹かしてる、なんなんだよ、もう…………。
「冗談じゃよ。もうそろそろ話す」
「え、本当ですか」
「馴染んできたみたいだしのぉ」
「はぁ…………」
馴染んできたって、俺がこの世界にって事かな。まだ二日目なんだけど…………。
…………そういえば、俺はまだ二日目なんだな。普通に生活してしまっているし、柔軟に対応しているような気がする。いや、でも。さすがに馴染むの早すぎないか。自分の事なのにわからない。
「そこも含めて伝えるから安心せい」
「また勝手に読まれましたね、俺」
「そこは早く慣れるのじゃ」
「はぁ…………」
確かに、もう読まれるのが当たり前だと思おうか。
「こっちに来るんじゃ」
言いながら隣にある椅子を指すハンさん、そこに座れという事か。
俺が素直に座ると、ハンさんが煙管を吹かし話し出した。
「今の主は、半人半鬼の状態なんじゃよ」
「待って? なんか、こう、ないのですか? いきなり本題はいるんですか? これはさすがに戸惑いを隠す事が出来ないんですが」
「早く話した方が良いと思ってな。それと、今回の話はいつ話したところで信じられるものではない。じゃから、少しでも話を進めやすいように、二日間共に行動したじゃよ」
そう言うって事は、今までの行動で、何かヒントがあったって事か?
「もしかして、身体能力ですか? 確かに長屋の屋根にひとっとびなんて。普通の人間ではありえませんもんね」
「そうじゃ。あとは、その冷静さも童の血が影響しているんじゃろうのぉ」
「なるほ――血?」
え、今この鬼、童の血とかほざかなかった? どういうこと? いや、なんとなく察してしまっているけど、聞きたくないというか。
「主は今、生死をさまよっておると言ったじゃろ? その時にちょっとだけのぉ、童の血を飲ませたんじゃよ」
「…………おえ」
「その反応はないじゃろ…………。ところで、不思議に思ったことはないか?」
不思議なことがあり過ぎて、逆に冷静になっておりますので、話を進めてください。
「とうとう心の声で会話をし始めたのぉ」
「慣れようと思って」
「まぁ良い。そんな事より、不思議に思ってほしかったところじゃが、主が居た世界にどうやって童が関与できたと思うんじゃ?」
「なんでもアリなんですよね、貴方。貴方が絡んでいるのなら、何が起きても驚きません」
「そこは驚いてほしいんじゃが…………」
「続きをどうぞ」
むぅと、ハンさんが頬を膨らませ怒ってしまった。いや、ふてくされてしまった。
そんなことでふてくされても困るんですが。なんか、貴方は本当に妖しい雰囲気とか、言動とか。チートキャラの立ち位置に居そうなんですよ、だから何が起きても驚かないんです。
「チートなのはそうなんじゃが…………。少しは驚いてほしい物じゃ」
「早く続きを」
「はぁ…………。童は闇が一番深まる時、時空を歪め他の世界に関与する事が出来るんじゃよ。その際に、主の魂をこの世界に迎え入れたんじゃ。そのおかげで、主は直ぐに死ぬことは無くなっておる」
「つまり、貴方がこの世界に俺の魂を連れてこなければ、俺の身体は死んでおり、この魂も黄泉の世界に連れていかれたという事ですか?」
「そうじゃ。童は命の恩人じゃぞ、もう少し大事にせい」
ケラケラと笑いながら言われても、俺はここに来たいと願った記憶はない。いや、そもそも記憶がない。死にたいと思っていた可能性だってあるだろ、胸を張るな。
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