煙を避けて

春香

Pease

コンビニの時計は夜中の2時を指している。


「ねぇ、やっぱたばこなんてやめた方がいいって」


私は彼にそう言う。

たぶん私が何を言っても、彼がたばこをやめるということは何があってもありえないが、仕方ないから注意くらいはしてやる。

横にいると煙がこっちにも来て臭いし。

なんなら私たちまだ未成年だし。


「まだ私たち未成年なんだし」

「まあまあ」


そう言って、彼はケラケラと笑う。


「まぁ、彼女ができてちゃんとやめてって言われたらさすがにやめるわ」


彼はこんな言い訳をもう100回も言っていると思う。


いや、100回は盛っているが。


「絶対やめないでしょ」

「いや、マジでやめるって」


彼女に言われたらやめると言っているが、彼女からいわれないとやめてくれないのだ。

私のようなただの幼馴染じゃ…。

彼は私の幼馴染で、寝れないときなどはこうやって2人で集まってコンビニの前などで立ち話をしている。

彼は気づいたらたばこを吸い始めていた。

先輩に勧められて吸ってみてから気づいたら喫煙者になっていたらしい。

まあ、どんな理由でも私といるときはできるだけ吸わないでほしい。

私は今後何があってもたばこを吸うことはないと決めているし、何よりも服に臭いが付くのは勘弁してほしい。


「やっぱPeaseだよなぁ」


かれはPeaseという銘柄を吸っているらしい。

たばこをよく知らない私からしたらどれも同じだが。


「たばこなんてどれも同じじゃないの?」


そう尋ねると、彼はびっくりしたような表情をした。


「いやいや、ぜんっぜん違う」

「なにがどう違うのさ」


そう聞くと、彼はポケットからたばこの箱を取り出して見せてきた。


「おれの吸ってるPeaseはやっぱ香りから違うよね」

「へぇ、まぁ分からないけど」


そういわれても分からないものは分からない。


「まぁ、Peaseは何よりもこれだよね」


そういって彼はたばこのパッケージを私に見せつけてきた。


「やっぱり、このパッケージはほんとにかっこいい」


そういって差し出された箱には、青い箱に金色の鳥のようなものがあった。

言われてみれば、私の想像していたたばこよりかは、おしゃれな雰囲気は感じた。


「おまえもPease吸ってる男を捕まえな、確実にいい男だよ」

「いや、たばこ吸ってる男は全員だめだよ」


そいうと彼はフッと笑って次の1本を口に咥えた。






彼が交通事故で亡くなったのはその三か月後あたりだった。

横断歩道を歩いているときに、飲酒運転していたトラックにはねられて即死だったらしい。


「そういえば、たばこ吸い始めたきっかけって?」


たばこにライターの火をつけていた私に友達がそう聞いてきた。


「え、あぁ。たばこか」

「うん、なんかたばこ吸ってるイメージなかったというか、嫌いそう」


そういわれて、私は一度たばこを深く吸ってはいた。


「好きな人が吸ってたんだ。私の」

「え、だれそれ!」


友達は興味津々に聞いてくる。


「いや、おしえないよ」

「けちぃ」


友達は頬をぷくっと膨らませた。


「銘柄は何吸ってるの?」


そう聞かれて、私はポケットから箱を取り出した。


「Peaseだよ」


友達はすこし驚いた顔をした。


「私、たばこ少し知ってるけどPeaseって結構重いたばこなんじゃないの?」


そう聞かれて、私はすこしうつむいてからフッと笑った。


「え、どうしたの」


友達は不思議そうに聞いてくる。


「いや、なんか香りが好きなんだよね」


そう言ってから、友達にゆっくりとパッケージを向ける。


「まぁ、Peaseが一番かっこいいじゃん」

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煙を避けて 春香 @haruka023

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