生物部アイドル化計画

充滞

1章 同好会立ち上げ

第1話 入部希望者

私、白雨なぎさ。今年の春から名門の清楚女子高等学校に入学しました。巷ではお嬢様学校と言われていて、校訓「清楚第一、大和撫子であれ」を毎朝朗誦するし、同級生とすれ違いざまには「ご機嫌よう」と挨拶の言葉を交わします。そんな清楚な校風ですが、意外と生徒は個性的な人が多いんです。好きなことに一直線で周りを見ていない人、自分が正義だと思うことを譲らない人、友達のスカート捲りが趣味な人…。色々います。


この女子校には部活や同好会はたくさんありますが、その中でも私が立ち上げた生物同好会は一際地味です。圧倒的地味です。だから、なかなか新しい部員が入りません。生物を飼育するのって楽しい活動だと思うんだけどなあ。


そんな状況を変えるべく、私は動きました。掲示板に同好会紹介の張り紙を出したり、友達を誘ったりしました。だけど、誘われた皆は口を揃えてこう言います。



「生物同好会って…地味だよねえ」



𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃



放課後は生物室に篭って、私は一匹のウーパールーパーを水槽の外から眺めていました。この子は元々生物室で飼われていた個体で、周りからは「貪食ちゃん」と呼ばれています。彼女は砂利の入った水槽ですいーっと気持ちよさそうに泳いでいました。


「貪食ちゃん…今日もかわいいねえ」


私と、貪食ちゃん。一緒にいるから決して孤独じゃない。だけど、生物部として一緒に活動できる友達が欲しい。水換えをする手を止め、代理の水槽に入った貪食ちゃんを見つめながら、洗っている途中の水槽をぎゅっと握ったその時。


「あのさ」

「ひぃ!」

「ここ、生物同好会?」


蛇口から流れる音で気づかなかったけど、気づけば隣に誰かがいました。顔を上げてその人をじっと見ると、その人はボーイッシュで、端正な顔立ちをしている華奢な黒髪の女の子でした。私は蛇口をきゅっと閉め、その人に改めて向き合いました。


「は、はい。生物同好会です」

「他に部員は?」

「私だけです」

「へー」


そう言って彼女は生物室を見渡し、澄んだ目で私を見ました。そして何かを発言しようとするように、その薄い桃色の唇が開かれました。


「2年B組 葛城さやか。入部希望です」


なんと部員が増えました。



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