第六章 122 Catastrophe



 紫電が走る。アストラリア流ソードスキル・フェンリル神狼のファング。二刀から繰り出される青白い魔力を纏った上下同時二連撃。ヴィオレに向けて放った神速の連撃が紫に輝く二股の槍に遮られる。だがアストラリア流の強みは手数の多さ。ここから更に畳みかける。


ストーム嵐のロンド輪舞


 ガキキキキィンッ!!!


 風の魔力の高速六連撃。嵐の中を舞う様に回転し、遠心力で強烈な剣撃を叩き付ける。しかしこれもヴィオレの槍捌きに相殺される。さすがは原初の魔神。此方の攻撃を軽々といなしてくる。それでも一撃ごとに僅かだが後ろに衝撃で後退はさせている。このまま押し切る!


「ちっ、小癪な。神の手先の分際で!」

「うおおおおおお!!!」


 足場の空に力を籠め、竜巻を巻き起こし全身でぶつかるかの様な突き。テンペスト・プレデーション。ヴィオレの喉元に切っ先が届くその瞬間、二股の槍の隙間で完全に止められた。反動で後ろに弾かれる。


「フフフ、やるじゃない。所詮は人間と甘く見ていた認識を改めざるを得ないようね……。じゃあそろそろ見せてあげるわ。私の魔神器・カタストロフィー悲劇の結末の力を。『神千切かみちぎれ・カタストロフィー』!」


 カッ! ゴオオオゥッ!!!


 ヴィオレの紫の槍が、トライデント三叉槍の形状に変化した。柄のデザインが長く渦巻いた1匹の蛇となり、その口が三叉の根元に喰い付いている不気味な見た目だ。さしずめ今のは魔神器の力を解放する言葉だったのかも知れない。イヴァのライトブリンガーの形状変化と似た様なものだろうな。発するオーラも先程より禍々しい。


「漸くその気になったのか? こっちは最初から全力だってのに。もうこれ以上勿体ぶるなよ」

「魔神器を解放するのも久しぶりよ。誇りに思いなさい。私にこの形状のカタストロフィーを使わせたことをね」

「御託はいい。いくぜ……、原初の一角を討ち取らせて貰う」


 二刀を振るいアストラリア流を次々に叩き込むが、俺の攻撃は悉くヴィオレの槍を回転する防御を崩せない。参ったな……、こいつは片手でアストラリア・エクスキューションを防ぐ程の地力を持っている。長引かせるのは危険だ。だったら二刀最速の剣技でいくぜ。両手のニルヴァーナに力を籠める。


「アストラリア流二刀スキル・ミラージュ幻影ブレード剣撃!」


 ガガガガキィイインッ!!! ザシュシュッ!


 残像が見える程の高速の26連撃。ヴィオレの防御を掻い潜り、魔神衣ディアーボリスを斬り裂いて肉体に数発斬撃が入ったが浅い。それでも腕や胸元に傷は負わせたし、僅かだがヴィオレが出血した。いける、このまま手数で押し込む。


「面白い……。私に傷を負わせるとはね。でもこの代償は高くつくわよ! カタストロフィー・神千切かみちぎり!」


 ザガンッ!!! ガキイイイインッ!!! ザンッ!!!


 上段から振り下ろした強烈な斬撃をニルヴァーナを交差して防ぐ。だが槍を覆っていた紫のオーラの斬撃が、俺の防御をすり抜けて額のサークレットと身体の神衣カムイを縦に薙いだ。マジか……、オーラが貫通した? こいつがこの魔神器の能力ということか? 武器の斬撃を防いでもオーラの斬撃は防げないってことか?


「うぐ、がはっ! すり抜けた?」


 額からの流血で左目が塞がれた。神衣の御陰で肉体のダメージは大きくはないが、何度も被弾するとタダでは済まない。刃を交えている刹那の瞬間には回復魔法を使う暇はない。


「そう、単純ゆえに強力な能力。私の魔神器・カタストロフィー悲劇の結末の『神千切かみちぎり』はその名の通り防御をすり抜け、相手にとって『悲劇の結末』を齎す破壊の魔神器。さあどうするの? 『反抗者』達のリーダー、カーズ。神特異点とやらの力を見せて頂戴!」

「くっ!」


 放たれた神千切かみちぎりの刺突を紙一重で躱す。だがオーラの刃の端が俺の身体を斬り裂く。このまま防御に回ってもいつかモロに被弾する。こいつは俺よりも格上だ。神様連中に任せる方がいいのかも知れないが、ゼニウスのオッサンといい、あいつらに丸投げすんのは性に合わない。人間の世界は人間の手で護るべきだ。だから……、ここは一歩も引かない!

 ヴィオレが大きく槍を振り被った瞬間、そのリーチを潰すために懐に飛び込む。避けきれないのなら、更に深く間合いに入ればいい。槍を振り回せなければオーラの斬撃は飛んで来ない。二刀をクロスさせて超至近距離で槍の一撃を封じる。


 ガキィイイイイィーン!


「なっ?! お前には恐怖心はないの?!」 

「生憎だが、ガキの頃からそんなのを感じる程繊細な人間じゃなかったんでね。でも全くない訳じゃない。この世界に来てからピンチの連続で、もう感覚がマヒして来てんだよ。悪魔やら邪神やら魔神に堕天神……。今更ビビっていられるかってんだ! 寧ろ強い相手ならワクワクしてくるぜ。さあ、間合いは制した。その状態じゃあ槍は振るえないだろ? 今こそ受けろ、正義の女神の二刀奥義を!」


 零距離から全身の捻りを利用したエネルギー、それを交差させて槍を封じている二刀へと伝えて一気に解き放つ!


ジャッジ・オブ正義の女神のアストラリア審判・ゼロ!!!」


 ドゴアアアアアアッ!!!


「ぐぅっ……、きゃあああああああっ!!!」


 振るった二刀から全てを飲み込んでズタズタに斬り裂く極光の竜巻が放たれる。零距離からの二刀奥義だ。その竜巻に飲み込まれてヴィオレが後ろに吹っ飛ぶ。遠距離から放ったアストラリア・エクスキューションとは訳が違う。さすがにノーダメージではいられないはずだ。

 勝ったと思った時だった。ヴィオレを飲み込んだ竜巻が更に大きな球状の渦となって二刀奥義を吸収していく。嘘だろ……、あれでもまだ致命打にはならないって言うのか?


「フフフッ、まさかここまでやるとは……。神格を与えられたただの人間のレベルじゃないわね。一瞬でも死を意識したのは神魔大戦以来初めてのことよ。神気を極限まで燃やして防御を固めなければ危なかった。さあ今度はお前が受ける番よ、この紫のヴィオレの最大奥義を!」


 槍を頭上に放り投げ、ヴィオレの広げた両手に強大な神気が集中して輝く。その両手を体の前で交差させた時、俺の身体が紫の光の柱に飲み込まれた。


ギャラクティカ極大宇宙のディスインテグレーション!!!」


 ドオオオオオオオオオオオ―――ン!!!


「うああああああああああ――――!!!」

「カーズ!!!」


 アヤの叫びが聞こえる。これはやばい! 余りにも強烈な神気の一撃。このままでは俺自身が陽子ようしの単位まで粉々にされる。残った力と神気を限界まで燃やしてヴィオレの奥義に抗うが、原初の魔神の奥義は強大過ぎた。俺の神衣が粉々に砕け散る。何とか耐えたが、肉体が受けたダメージは甚大だ。神鉄製のバトルドレスでなければ、俺自身も粉々になっていただろう。


「カーズ、しっかりして! ヒーラガ!!!」

「ぐっ……、がっ! サンキュー、アヤ。でも君は下がっていろ……」


 傷はある程度癒えたが、力を使い過ぎた。身体が女性体へと傾いている。血だらけの手でニルヴァーナを握る。それを見ていたヴィオレが驚いた顔を向けて来る。


「……驚いた。まさか私の奥義でまだ原型を保っているなんてね。途轍もなく頑丈な肉体をしているようね。それも神々の仕業なのだろうけど。でももう闘う力はないんじゃないの? ファーレが言ってたわ、力を失うと男性の身体を維持できなくなるって。大人しくカタストロフィーに貫かれなさい。でも、その前に……。邪魔よ、お前は」


 そう言ったヴィオレの右手の爪が伸びて、俺の後ろにいたアヤの身体を貫いた。


「カハッ、……ごめんなさい、カーズ……」

「なっ……?!」


 力を失い、地面に落ちて行くアヤを目にした瞬間、俺の中で何かが弾けた―――。



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「アストラリア流ソードスキル・ヘイロー・クロス!」


 ザキンッ!


 アリアの神器クローチェ・オブ・リーブラが、狂戦士化してアジーンに襲い掛かっている趙雲の身体を斬り裂いた。


「う、がっ……!」

「ここまでです、趙雲子龍。魔神に操られし哀れな魂よ。再び夢界で眠りに就きなさい」

「我らの魂を解放してくれた正義の女神よ、礼を言う……。さらばだ、龍人の子よ。強く……なれ。『ゼムロス』を……」


 操られていた魔神は神格を残して消滅した。倒れていたアジーンを起こし、チェトレとイヴァリースの方を見る。そこには聖剣技で張飛を斃したイヴァリースと傷だらけのチェトレが何とか立っていた。


「アリアー、こっちは終わったのさー」

「ええ、さすがですねイヴァ。これで操られていた魔神は全て消えましたか……」

「中々手強かったのさー。でも人間の刀技ではまだまだ聖剣技には及ばないのさー。最後に解放したお礼とチェトレに神格を託されたのさー」

「……やはり操られていたのですね。そして彼らが最後に口にした『ゼムロス』。それが『大いなる意思』の正体と言うことなのでしょう」


 負傷した龍人の二人を治療したところで、カーズとアヤの気配が揺らいでいることに気付く。このままでは危ない。アリアとイヴァは合流したサーシャ達神々と共にヴィオレの下へと踵を返した。エリック達は回復を受けてはいたが、まだ気を失ったまま倒れていた。


「アリア様、カーズを御願いします。私達はまだ動けないし、ディード達も力を使い果たしています。こっちのことは気にせず、カーズとアヤを……!」

「足を引っ張ってすいません。兄貴を御願いします……!」


 チェトレとアジーンにも言われ、ピンチのカーズの下へと向かう。地面に落下したアヤを治療し、上空で刃を振るい続けるカーズを駆け付けた全員が見上げる。そこでは異常な事態が起こっていた……。



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「うおあああああああああ!!!」


 神衣が砕かれ、血塗れになりながらも二刀を振るい続けるカーズにヴィオレは押され気味になっていた。大量の出血と魔眼を解放した状態のカーズの瞳からは流血し、光が失われ気味になっていた。それでも怒りに任せて刃を叩きつける。


「ちっ、何なのこいつは?! 最早死に体のはずの状態でここまで脅威を感じるとは!」


 魔神器でガードするも、ヴィオレはカーズの怒涛の攻撃に防戦一方になっていた。押し負けている。たかだか神格を与えられた程度の人間になぜこんな力が出せるのか? 今のままでは危険だ。ファーレからは、所詮神々に力を与えられて粋がっている程度の人間だと聞かされていた。話が違う。いや本当にその程度なのかもしれないが、それでもこの猛攻は異常に感じられる。神衣も破壊した。彼女の奥義を喰らって半死半生なはずだからだ。後ろにいたあのアヤと言う女を傷つけたからなのかとも考えたが、只の怒り任せで、原初の魔神である自分が競り負けることがあるとは思えない。


「どうやら考えを改めなければならないようね。お前は危険過ぎる。さあ、全力の一撃を放ってみるがいい。その時に地獄に消退してあげるわ!」

「ああああああああ!!!」


 ガシャアアアンッ!!!


 カーズの渾身の一撃をヴィオレが強烈な突きで相殺した時、その場にブラックホールの様な黒い次元の歪が発生した。その空間にカーズが引きずり込まれる。その瞬間に怒りで我を失っていたカーズは我に返った……。



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 何だ? この黒い空間の歪みは? 磁石に吸い寄せられるように身体が呑み込まれる。異次元空間か? このままでは引きずり込まれる! ならば相殺するしかない。アストラリア流ソードスキル・ディメンション・ブレイカー。次元を斬り裂く大技でその丸く広がる空間を斬ろうとするが、力が出ない。ボロボロの身体で力を使い過ぎた。為す術がない。


「カーズ!」

「戻りなさい、カーズ! アヤちゃんは無事です!」


 後ろからアヤとアリアの声がする。良かった、無事だったか……。だが最早俺には力が残っていない。ならばせめて二刀になったニルヴァーナの片方だけでも託す。左手に握っていたニルヴァーナをアリアとアヤに向けて投げる。


(頼む、ニルヴァーナ……)

《承知した……》


「フッ、さよならよカーズ。『神の墓場』で永遠にもがき苦しむがいい。アーハッハッハッハー!!!」

「ぐ、うぐ、うああああああー!!!」


 空間が閉じて行く。アヤ達の声が遠くなっていく中、俺はヴィオレが生み出したブラックホールの様な亜空間に飲み込まれた。意識が今度こそ遠くなっていく……。



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「カーズをどこにやったのです? 紫のヴィオレ!」

「そんな……、ニルヴァーナの片方だけを残して……」


 問い詰めるアリアと、受け取った片刃のカーズの神器を手にして狼狽するアヤを見ながらヴィオレが口を開く。もう既にカーズを飲み込んだ亜空間は消え失せてしまっている。


「余りにしぶとい上に危険だと判断したのよ。だから神器のぶつかる衝撃で開いた、『大いなる意思』が管轄する『神の墓場』に送ってやったのよ。心配しなくても生きてはいるんじゃない? その神器がまだ具現化した状態だしね」

「よくもやってくれましたね……。ですがあなたにももう力は残っていないでしょう。ここで討ち取らせてもらいます」


 アリアが神器を構えるが、ヴィオレは鼻で笑い、転移魔法を発動させる。


「バカね。これ程の数的不利で神々を相手にするほど愚かではないわ。決着はまたの機会にお預けさせて貰うから。じゃあね」

「待って! カーズは?!」


 アヤの問いかけを待つまでもなく、ヴィオレはその場から消えた。『神の墓場』、その言葉だけを残して。帝国の反乱は鎮圧に成功したが、裏で糸を引いていたかのような原初の魔神の存在と『大いなる意思』、『ゼムロス』。

 カーズが消えた場所で、一同は暫く呆然とするしかなかった。




                 第六章 魔神討伐・神々の業 完

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独りきりで異次元に飛ばされたカーズ。

ボロボロのまま、果たしてどうなるのか?

次回、新章突入です。


今回のイラストノート

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16818093076873158170




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